怪ノ村 其乃弐 不幸死紙④
職員室
教師間久沼が職員室にはいるとデスクに座る教師達はお通夜状態であった。またあの問題のクラスに死者がでたそうだ。死んだのはさっき朝の校門で挨拶したあの渡辺という女子生徒である。
間久沼は暗い雰囲気に包まれている職員室で自分のデスクに座る。
「ええ、皆さん。今日は哀しいお知らせがあります。玲子先生のクラスからまた一人生徒がおなくなりになりました。」
校長先生の隣で教頭先生が説明する。
職員室の教師達は皆哀しげな様子でデスクの前でしんみりしている。
「今日放課後職員会議行います。課題は当然この村にある呪いの不幸の手紙に関してのことです。これ以上呪いの不幸の手紙の犠牲者を増やさないためにも生徒達には結して不幸の手紙を書かせないよう徹底しなくてはなりません。」
間久沼は教頭の話を一応聞いていた。しかし、呪いや祟りの類いを一切信じていなかった。十年以上この村の学校の教師を務めているが。まだこの村の者達は呪いや祟りなとどという非科学的なものをしんじているのだろうか?。ふん、馬鹿馬鹿しいし。くだらない。呪いや祟りなんてものは現実にありはしない。呪いの手紙なんかで人が死ぬわけがない。いわば気の持ちようである。単なる集団ヒステリーだ。きっと渡辺という女子生徒もクラスに続く生徒の死に精神がまいってしまったのだろう。不幸の手紙を読んだら死ぬなんてナンセンスであり非現実である。この村の村役場の有力者である老害の老人供にも困ったものだ。不幸の手紙に対する呪いの人柱まであるのだから。
間久沼は隣のデスクに座る玲子先生に目をやる。玲子先生はまた自分のクラスの生徒が死んでしまったことに憔悴し落ち込んでいた。玲子先生はこの村一番の美人教師である。間久沼も玲子先生に惚れていた。毎日アプローチ、プロポーズをしている。しかし、当の玲子先生は気のない返事で返し。毎日断っている。それでも間久沼は諦めず玲子先生のことを口説き落とそうとする。
「玲子先生。気を落とさないでください。渡辺さんのことは残念でしたが。呪いなんて所詮眉唾です。気の持ちようなんです。もうクラスには呪いで死ぬ生徒はいませんよ。」
「ありがとございます。間久沼先生。でも生徒に対して私は何も出来なかった。」
玲子先生は悲嘆に満ちた顔で俯く。
「仕方ありませんよ。教師とて生徒に対して出来ないこともあります。気を落とさないでください。」
「ありがとございます。間久沼先生。優しいのですね。」
玲子はニッコリと力の無い微笑を浮かべる。
「いいえ、そんなことはありませんよ。」
間久沼はこれは好感触ではないかと期待する。今なら玲子先生のプロポーズが成功するのではないかと間久沼は思った。
「玲子先生。私は貴女の辛い姿をみるのは私も辛い。これから一緒に歩んでいきませんか?。私は貴女を支えたいのです。」
「間久沼先生·····。」
玲子先生はじっと間久沼を見る。
「ありがとございます····。少し考えさせてください····。」
よし!机の下で間久沼は小さなガッツポーズをする。これは脈ありだなと間久沼は悟った。やっと長年のアタックが実ったのである。
間久沼は有頂天に自分よがりに歓喜する。
玲子はそっと机に置かれた手紙を見つめる。自分の生徒である渡辺が所持していた遺留品である不幸の手紙である。それを物悲しげに玲子はじっと眺めていた。
▤▤▤▤▤▤
「やあ、この村の人ですか?。」
清司は丁寧な挨拶をして同じスーツの男に声をかける。
「いえ、私は隣村から来たんです。」
「隣村?。近くに村があるのですか!?。」
清司は他にも近くに村があるのだと知り歓喜する。寝泊まりできる場所があると光明さす。
「ええ、あの山をひとこえした所に私の村があります。」
「山をひと越え·····。」
スーツの男が指した山は相当高かった。清司は隣に村があると歓喜したが。直ぐに標高高そうな山を見て絶望する。
「私は車できたんですよ。」
「車でですか?。知りあいにでもあいに。」
「いえ、どちらからと言うと想い人ですかね。」
スーツの男は寂しげに眉を寄せる。
「想い人ですか?。恋人でもこの村にいるんですか?。」
「いいえ、恋人というか。昔この村の娘と文通をしていたんです。」
「文通?。それはそれは·····。」
清司は眉をよせ驚く。
文通なんて今時の子供達はもうやらないだろう。携帯が流通した今の時代文通は過去の産物である。
「顔も知らない娘でした。それでも文章のなかから彼女の人柄が伝わり。いつの間にか彼女に恋をしていたんです。」
「そうなんですか·····。」
清司は目の前のスーツの男は若い頃は甘酸っぱい恋の青春をしてきたんだと実感する。清司にとって甘酸っぱい青春など夢のまた夢である。学生生活も恋愛に縁のない人生を歩んできた。特に夢も持たず青春も謳歌せず我ながらこの歳まで来たものである。
清司は初めて己を振り替える。
「私が文通で初めて愛の告白を綴った手紙を送ったのですが。返事がこないまま彼女はこの村で行方不明になってしまったんです。」
「行方不明?。それはまた物騒な····。」
『·········。』
村の中で行方不明になることはよくあることなのだろうか?。村によくあるという神隠しだろうか?。
「村中で山を散策したそうですが。遺体さえ見つからなかったそうです。」
「そうですか·····。」
清司は少しスーツの男に同情する。
「私は彼女の返事を知らないまま時が過ぎて今に至ります。おかしいですよね。もう十年も過ぎているのにいまだ未練たらたらで。顔も知らない声も知らない文通相手の娘を今でもを想ってこの村に来てしまうんですよ。もう吹っ切れて新しい人生を歩んでもいいころなのに·····。」
スーツの男はははっと苦笑しながらもから笑いを浮かべる。
清司にとってここまで人を想いやられるほどの恋することができる男性を正直理解できない。それでも少し羨ましいとも思う。
「自己紹介遅れました。私は志戸孝太郎と言います。一応公務員をしております。」
「公務員ですか····。」
年収が多いという噂の公務員である。しがない派遣であった清司には羨ましい限りである。
「自分は真賀地清司と申します。今はその無職で東北の地まで旅をしております。」
「旅?ですか。良いですね~。私は暇があったら旅をしてみたいものです。」
孝太郎は羨ましいそうに頷く。
「いえ、それほど良いものではないのですが····。」
清司はばつの悪そうにいい淀む。
旅と言っても死に行く旅である。いつ野垂れ死んでも構わない旅であるのだが。今は旅仲間であるワラズマを東北に地にある源魂寺という所に送り届け無くてはならないので死ねないというだけである。
「この村に泊まるんですか?。」
公務員の孝太郎が問いかける。
「いえ、残念ですが。この村でトラブルのようなものがあったようなので。何処の家も泊まらせてくれないですよ。はは。こりゃあ、もう野宿確定ですかねえ?。」
清司は皮肉交じりの自虐的な笑みをする。
「それはそれは災難でしたね。もし宜しければ私の車で泊まりませんか?。私今日1日はこの村で車中泊するつもりなんですよ。」
「車中泊ですか!?。それはとてもとても有難いです!。本当に泊まる所が無くて困っておりましたから。」
清司は歓喜したまま公務員である孝太郎さんの提案を快く承諾する。
『········。』
捨てる神あらば拾う神ありって奴だな。神は既に懐に所持しているけど。清司は泊まれる場所が見つかって心から歓喜する。
しかし懐に忍ばせる位牌箱の異形の神ワラズマは何処か神妙な様子で沈黙を保っていた。
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