怪ノ村 其乃弐 不幸死紙⑨
「さあ、十年前の行方不明になった生徒、鴨倭木静(かもわぎしず)の遺族の家に行くばあ!。そこに絶対不幸の手紙が元凶なった原因が絶対あるさね!。」
弥恵は激しく息巻く。
村の図書館の郷土資料にある十年前の新聞の記事に一人の女子生徒が山で行方不明になり。そこのクラスの6人の女子生徒が謎の死を遂げたと書かれていた。
行方不明となった鴨倭木静のに肉親である祖母は未だ健在らしく。事件の詳細を聞くためにも鴨倭木静の家に向かっている。
『さあ、清司参ろうか。』
懐に忍ばている位牌箱からワラズマのやる気の声がもれる。
「あれ?、ワラズマ。何か以外とやる気だね。」
あんなに村に滞在することを嫌がり。この村を蝕む呪いに消極的だったのに今のワラズマの声にはそんな不平不満な様子も微塵も感じられなかった。
『あのご老人にあれほど信奉されたのだ。これでも腐っても神だ。それにこたえなければ神として名折れよ。』
なるほど·····
どうやら弥恵ちゃんと祖母との出逢いで心変わりしたらしい。
ざっ ざっ ざっ
「ここが鴨倭木静の家ばい。」
目の前には古風な民家が佇んでいた。
ここが鴨倭木静の家か。
別段特に変わったところはない。
嫌な気配もしない。といっても俺には霊感なんてものはない。殆どの怪異の解決はワラズマがやってくれているのだ。
「婆ちゃんーー!。おる?。」
弥恵の声に腰の低い老婆が家から出てくる。
「おんやあ?。弥恵ちゃんじゃなか。どうしたと?。」
「静さんの部屋を見せて欲しいんや。」
「静の部屋を?。」
「うん。私静さんを探そうとおもうの。多分村に蔓延する呪いも静さんに関係しとる。私はどうしてもこの呪いを解きたいんや!。ばっちゃの為にも·····。」
弥恵はぐぐと拳を握りしめる。
「······少し事情を聞かせておくれ。家に入りんしゃい。」
静の祖母は弥恵の真剣な眼差しを一瞥すると家に招き入れる。
「そこの方は?。」
「頼もしい助っ人や!。」
弥恵ちゃんはでんと胸を張り言い張る。
「はは、真賀地清司と申します。宜しくお願いします。」
俺は丁寧に挨拶する。
「そうかい。どうぞお入りんしゃい。」
静の祖母は俺がみすぼらしスーツを着てるにも関わらず。特に怪しむことなく家に入れてくれた。
居間に通される。
そこには鴨倭木静と思われる写真が仏壇の上に飾られていた。
「気兼ねなく座りんしゃい。」
鴨倭木静の祖母に促され。
今の真ん中に置かれている正方形のちゃぶ台にある座布団に座る。
静の祖母はちゃぶ台にお茶を出す。
その後にゆっくりと向かい静の祖母は腰をおろす。
「もう亡くなってから10年もたつんだね。長いことだよ。」
静の祖母は寂しげな顔で仏壇に飾られている行方不明となった鴨倭木静の写真を眺める
「それで弥恵ちゃんの事情を聞かせてくれんかね。」
「婆ちゃん実は…。」
弥恵は手紙の人柱ことを話し。この村にある呪い不幸の手紙を解明しようとしていることを話す。そして鴨倭木静の行方不明と6人の女子生徒の謎の死が関係しているかもしれないと伝えた。
「そうかい。確かに呪いの不幸の手紙が始まったのはその頃だった気がするのう。」
「だから婆ちゃん。私、静さんを探そうと思うの。」
弥恵の言葉に静の祖母は優しげな目が少し哀しげに虚ろう。
「じゃがのう。村の衆が一斉に山狩りしてでも探したが見つけられんかったんよ。わしは生きていなくともせめて遺体だけでも見つけて欲しかったじゃが。じゃがもう全部諦めとる。」
静の祖母は遺灰もない仏壇に飾られた写真を寂しげに見つめる。
「でも婆ちゃん。私は絶対静さんを見つけるよ!。」
弥恵は真剣な眼差しで静の祖母を直視する。
「そうかい。静の部屋はそのまましておるから自由に見んしゃい。」
静の祖母そう言ってゆっくり立ち上がる。二階の部屋に案内される。鴨倭木静の部屋に通されたが。そこは埃まみれにはなっておらず。毎日掃除をしているようだった。
「そんじゃ。わしは下におるけえ。」
静の祖母はそう言うと部屋を出ていく。
『清司、私を箱から出してくれ。』
「ワラズマ?。何するんだ?。」
俺は懐から位牌箱を出して上蓋をパカッとあける。綿が敷き詰められた下地から人差し指の不規則な瞳が瞬きをする。
「神様が何かするんけ?。」
弥恵ちゃんは瞳のある人差し指の姿をしたワラズマに恐怖心など抱きもせず。興味津々に目を輝かせる。
『清司、この部屋に鴨倭木静の思い入れのある品を探してくれ。』
「思い入れのある品?。」
思い入れのある品と言っても俺は鴨倭木静とは面識が無いからどれが思い入れのある品か解らない。
俺はとりあえず適当に部屋を特に勉強机辺りを漁ってみた。整理整頓されていて綺麗だった。机の引き出しを漁っていると何枚かの手紙を見つけた。綺麗な上質な封筒に入っており。一瞬不幸の手紙ではないかと不安にかられる。恐る恐る封筒から取り出し手紙を開く。
………
手紙の内容は他愛もない世間話だった。鴨倭木静が書いたものではない。多分これは志戸孝太郎さんが静さんに送った文通の手紙であろう。
「ワラズマ。これでいいのか?。鴨倭木静のものでは無いけれど。」
俺はその手紙を机の上に広げ。位牌箱にいるワラズマに見せる。
『善い。思い入れあるならば残留思念も残ろう。これらを辿り。鴨倭木静という人間の生涯を探る。これにより彼女の過去、現在、未来を見せよう。』
「ええ!。ワラズマそんなことまで出来たの!?。」
ワラズマの能力が化け物退治や不幸を糧に幸をもたらすだけで無いことに俺は驚く。
「すごかー!。さっすが婆っちゃが言っとった神様ばい。」
弥恵は素直に感心する。
『では、始める。』
ワラズマの人差し指に付いている不規則な瞳が
ゆっくりと閉じられる。
『想い残せしは業の残滓。語るは願い。残せしは未練。己が形と為して、その概要を現せ。残滓想念(ざんしそうねん)!。』
カッ!
「おわっ、わっわわっ!。」
弥恵の慌てる声が飛び交う。
ワラズマがそう唱えると鴨倭木静の部屋が一瞬で真っ白に染まる。上下左右の感覚もあやふやになり。自分が今何処にいて何処を立っているのかもさえも解らなくなる。
ぶあああああーーーー
意識少しずつ戻っていく。
ザアーーー
雨音?。
何処からともなく雨音が聞こえる。
視界の景色暗闇の何処かの洞穴の中と変わる。
「うっ、ひっく、うっ……。」
深い暗闇の洞穴の壁に背中をもたれ。咽び泣く少女がいた。擦りむいた足をさらし。手紙を握りしめ泣きじゃくる。
「あの娘はまさか……。」
清司は直ぐに彼女が誰だか理解した。
「ご免なさい…。孝太郎さん。私はもう貴方に手紙を返せない……。」
強く手紙を握りしめる。
「ご免なさい……。」
少女の言葉には憎しみなかった。ただあるのは絶え間ない後悔、懺悔である。
一瞬清司は彼女が本当に呪い不幸の手紙の元凶かと疑ってしまう。
視界の景色がうねり帯び再び変わる。
清司の意識は始まりの発端へと進んでいく、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます