怪ノ村 其乃弐 不幸死紙③


     村役場公民館


村の全ての年配の老人達が集まっていた。村役場で若い者を除き。年配の知識のあるもの達があつまる老人会が村役場として話し合いをしている。全ての老人は椅子に腰掛け。皆眉間に紫波を寄せ苦渋の表情を浮かべる。


「全くどういこっちゃ。手紙の呪いだあ。封じ込めんに成功したちゃうんかい?。」

「最初に不幸の手紙を受け取った永嶋とこの孫娘を満場一致で見捨てる決断したが。それだぎゃあのに、むあだ手紙の被害者でとる。どういうこっちゃあ?。」

「あれほど子供らに不幸の手紙を書きすんじゃならねえと言い聞かせたのに。」


老人会のひとりである婆ばがはあと深いため息を吐く。


「永嶋の爺ちゃんが見当たらねえ。家にもいねえ。孫娘が見捨てた儂等を相当恨んでるんだぎゃあ。」

「··········。」

「···········。」

「··········。」

「·········。」


永嶋の爺の仲が良かった老人会の1人が老人会の面々を恨めしげに睨みきかす。

老人会の年長者は皆ばつが悪そうに沈黙を保つ。


「過ぎたことはしょうがねえべ。今後のことを考えるべえ。」

「んだ。今後はこれ以上呪い手紙の被害者を増やさねえことだあ。」

「それだけじゃねえべ!。被害にあった子の手紙の人柱が誰がなるんけえ?。もうすでに呪い手紙を受けた渡辺んとこの娘が学校で亡くなったと報せがきただあ。。もう猶予が無えべ!!。」

「「「·········。」」」


手紙の人柱。村の手紙の呪いを一手に引き受ける人柱である。この村の不幸の手紙のルールに助かるには三人に手紙を送ることとが書かれている。つまり1人の手紙の呪いを受けた者を解放するためには三人が犠牲にならなればならなかった。最初の不幸の手紙を受けとったのは永嶋という女子生徒だった。しかしこれ以上呪いの手紙を拡散させないためにも見捨てることを村の役場の老人会の年長者達は決断した。しかし不幸の手紙の呪いの拡散を防ぐどころか寧ろ更に増えてしまった。不幸の手紙を受けとって解っているものは二人、さっき亡くなった渡辺という娘と最後に受け取った島根家の末っ娘である。


「儂が手紙の人柱なるんよ。」


1人の老婆が手をあげる。

ざわざわざわざわ

老人会の面々が騒ぎだす。

老人会の長である佐々木爺が声をかける。


「いいんかい?。トメさん。」

「ああ、いいんよ。儂は充分に生きただ。娘の晴れ姿見れたし。孫娘にも恵まれた。もう悔いないんよ。」

「すまねえだ。トメさん。儂等が不甲斐ないばかりに······。」


老人会の会長である佐々木爺は悔しそうに唇をかむ。


「いいんよ。いいんよ。島根んとこ末っ子は今からじゃきに。早死にしちゃあ不憫やで。」

「すまねえだ。すでに残りの手紙の人柱の1人は決まっておるんし。既に読んどるがな。残りの手紙の人柱は儂がなろう。」


老人会の会長である佐々木爺が宣言する。


「いいんかい?。」


トメは眉を寄せ困惑する。


「ああ、儂の決断がこの状況を招いただき。責任はとるさよ。」

「そうが······。」


トメはこれ以上何も口を出さなかった。


「それよりもトメさんとこの孫娘にどう説得するんじゃ。トメさんとこの孫娘確か弥恵ちゃんだっけ?。弥恵ちゃんはお婆ちゃん子だったな。」


トメさんが孫娘である弥恵ちゃんにこの事を報せるのはほんに辛いだろうと老人会の長である佐々木爺は不憫に思った。


「そうさねえ。何とか説得してみせるさね。」 


ニコッとトメは笑みをこぼす。その笑みが根性の別れであることを佐々木爺は理解していた。



「それじゃ、村の会議はここまでじゃ。解散!!。」


老人達はぞろぞろと椅子から離れ散らばる。村の老人達は玄関へと向かう。


「何でぇお前さんは?。」


突然公民館の玄関から怒声が上がる。


「どうしたん!?。」


老人会のリーダーである佐々木爺はまたトラブルかと直ぐ様公民館の玄関に飛び出す。そこにはみすぼらしスーツを着た男が立っていた。仕事で来たような格好ではない。


「誰や。お前さんは?。」


どう見ても怪しい人物に佐々木爺は警戒する。呪い手紙で村はゴタゴタしているのにこれ以上厄介事は増やしたくなかった。



「すみません。私の真賀地清司と申します。泊まれる所を探しているんですが。」

「泊まれる所?。悪いがこの村に宿はねえべ。」

「ではごやっかいになれそうな家はありませんか?。労働力には自信ありますので。」


くたびれたスーツの中年男は筋肉もない二の腕を曲げる。

佐々木爺は眉間に紫波を寄せる。


「悪いがこの村で今厄介事でゴタゴタしているんだあ。泊まらせる余裕もない。悪いが帰ってくれ。」

「そうですか······。」


くたびれたスーツを着た男はしょんぼりした様子で心底がっかりしていた。


「すみませんでした。」


スーツの男はお辞儀をして公民館の扉を静かに開けて出ていく。


「佐々木爺、あの余所者を手紙の人柱にしたらええんじゃないけえ?。」

「そうじゃ、そうじゃ、あの男どう見ても余所者の浮浪者のようだし。余所者がこの村で勝手に死んでも誰も咎めるものもいねえだ。トメさんだって助かるし。」


老人会の二人の提案に長である佐々木爺のふつふつと怒りがみあがり。眉が限界までつり上がる。


「馬鹿ゆうでねえ!!。うちの村のゴタゴタに他人を巻き込むなぞ何事か!。これはうちらの村の問題じゃ!。他人が関わることでねえ!。」

「し、しかし·····。」

「これ以上下らんこと言うちょるとはっ倒すぞ!。」


佐々木のものすごい剣幕で提案する二人の老人を激しく叱咤する。


「わ、悪かったよ····佐々木爺。」

「わ、儂等はトメさんには死んで欲しくなかったんだがや。」


老人会の長でたる佐々木爺に叱られ。二人はしょんぼりした顔で意気消沈する。


「もうこれ以上下らんこと言うなや。この問題は儂等村の問題じゃ。村の問題は村の者だけで解決せにゃあならん。もし余所者の他人を巻き込んじまったらそりゃあただの人でなしになるさかい。」


佐々木爺は老人会の長として人脈のある人物であった。責任感が強く村の中で人目置かれていた。呪い手紙を終わらせるためなら自分の命も厭わなかった。最初の被害者である永嶋の孫娘を見捨てた選択したことを非情に悔いていた。


「不幸の手紙の悲劇はここで終わらせるんじゃ。」


老人会の長佐々木爺はこの村で10年前からおこっている不幸の手紙による呪いの悲劇を早く終わらせたかった。

永遠に続く怨みの連鎖を絶ちきりたかったのだ。

村の騒動が自分の死で収まるなら安いものだと佐々木爺は本気でそう思った。


村役場で泊まるところを断られた清司は途方に暮れていた。このままでは本当に野宿をしなくてはならない。簡易テントなど持ち合わせていない。田舎で野宿しようものなら身体中虫刺されまくりで酷い目にあう。


「はあ~どうしようか?。ワラズマ。」


懐に忍ばせる位牌箱に清司は語りかける。


『私としては直ぐにこの村を出ていくことをお薦めする。話を聞いた筈だ。この村で厄介事が起きてるようだ。厄介事に巻き込まれる前に早々に立ち去るべきだ。』

「そう言われてもなあ·····。」


もう午後である。次の村を探すまでには確実に日が暮れるし。次の村に遭遇する保障もない。かといってこのままこの村にいても野宿することが確定される。


「はあ~、どうすっかあ。」


清司はこのまま本当に野垂れ死ぬのではないかと思えてきた。

ん?。

農道を途方もなく歩いていると前方に同じスーツを着た男性が目にはいる。この村ではほとんど身なりが田舎特有の作業服だが。目の前の男性は身なりの良いしっかりとした都会のスーツを着こなしていた。どう見てもこの村のものではないことが明白だった。

都会のスーツを着こなす男性が此方に気付くと声をかける。


「やあ。」

「どうも···。」


二人は同じスーツ姿をしていることに親近感がわいた。しかし二人の着るスーツの質には大きな隔たりあるほど違いがあった。


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