怪ノ村 其乃弐 不幸死紙⑪
ガラッ ガサッ
鴨倭木静は家の備え付けのポストに手をいれる。
ポストから上質な封筒に入った手紙が入っていた。
「孝太郎さんからだ。」
鴨倭木静はうれしそうに唇がほころぶ。
さっき学校であんな陰湿な苛めにあっていたのに彼女は文通相手であろう孝太郎さんの手紙を見て元気を取り戻していた。
彼女にとって文通相手である孝太郎さんの手紙は本当の意味で彼女の心の拠り所なのかもしれない
鴨倭木静は直ぐに手紙を取り大事そうにしまう。そのまま家に入り二階へかけ登る。
彼女の机にカバンが置かれる。
椅子に座って上質な封筒から手紙をとりだす。
手紙と一緒に何やら写真のようなものが落ちる。そこには顔立ちのよい笑顔の青年が写っていた。落ちた写真を拾いあげると彼女の顔が更に笑顔を増す。
「孝太郎さん。約束の写真送ってくれたんだ…。」
鴨倭木静は初めて文通相手である彼の容姿を見たようだ。頬を染めて嬉しそうにしている。
「何かこそばゆいわ。こっちまで恥ずくなる。鴨倭木静苛められとったけど。彼氏の手紙で気を保ったととね。何か少し安心したわ。」
あんな悲惨な目にあった鴨倭木静に弥恵ちゃんは少しホッと安堵している。
「そうだね…。」
『……。』
俺はそう言葉を返すが。この後の展開が恐ろしくなってきた。長い歳をくって中年となった俺の経験で。良いことと悪いことが重なると悪いことの方から膨れ上がるのだ。長年の人生経験でそれを骨の髄まで味わった。愚図に成れ果てたのもこれが要因にもなっている。
ワラズマの幾つもの不規則な瞳じっと静かに静観している。
「孝太郎さんに手紙を返さないと。次は私の写真も入れよう。更に告白もしよう。私みたいな娘、受け入れてくれるかなあ?。容姿には正直自信ないけど……。」
鴨倭木静は告白を決心しているようだった。
学校校舎裏
「ああ、むかつわ。あの都会もん!。」
カツン!
一人の女子生徒が怒りにまかせて地面の石を蹴りあげる。
カツ!コロコロ
校舎裏の硬いコンクリートの壁に当たり。石は無造作に跳ね返り地面にポトッと落ちる。
「都会の者のくせしてすましやがって!。わたしらのことを舐めているだろ!。」
「うちらの嫌がらせを毎日何食わぬ顔でスルーするし。ほんとムカつくわ~!。」
鴨倭木静を苛めていた三人組が鴨倭木静の無反応な態度に癇癪起こすほど怒り狂う。
「あの都会もんの鴨倭木を。どうにか懲らしめばれんかねえ?。」
「そう言えば鴨倭木はいつも家のポスト前で手紙をとっておるんやけど。いつも愉しそうにしてたわ。あれは絶対男やね。」
一人のボソッと呟いた言葉に石を蹴った女子生徒が勢い良く振り向き眉間が寄る。
「ほう…。それは詳しく聞かせんや。」
苛めの三人組のリーダーである彼女はずる賢い流し目と卑しい笑みを唇に含ませていた。
次の日
「行ってきます!。」
鴨倭木静は少し元気の良い挨拶をする。
孝太郎さんの手紙で元気を取り戻したのだろう。
鴨倭木静は今日も学校に登校するらしい。苛められていることを親御さんは知らないようである。親に心配かけまいとしているのだろうか?。教師に相談しているようだが。親には相談していない。
鴨倭木静は学校に行き授業を受けている。しかし今日は何故か鴨倭木静を苛めていた三人組は大人しかった。一度も絡むことはない。
「あの鴨倭木静を苛めとった三人組。今日はやけに大人しいなあ。反省?しとらんやろうな。ああ言う性根の腐った奴は死んでも治らんし。」
ふわふわと透けて宙に浮く弥恵ちゃんはふん!と不機嫌に鼻を鳴らす。
俺にとっては耳が痛い話である。
人間の愚図として生きた俺として性根が腐ったという言葉は俺の胸の中に本当に突き刺さる痛い言葉である。
鴨倭木静は学校帰るといつも通りに家の塀に設置しているポストの中身を確認する。
ガラッ
備え付けの赤い正方形のポストの下口を鴨倭木静は開ける。
「あれ?孝太郎さん。今日は手紙を送らなかったのかなあ?。」
ポストの中身が空のことに不思議そうに鴨倭木静は首を傾げる。
どうやら二人は毎日文通をしているようだ。
鴨倭木静はそのまま自宅に入り。うがい手洗いをして二階にかけあがる。
彼女の勉強机に座りいそいそと手紙を書き始める。
「今日こそ告白の文を書かないと。」
鴨倭木静は意気揚々と自分の勉強机の上で告白の文を書くことに勤しむ。
次の日、鴨倭木静は放課後に呼ばれていた。鴨倭木静を苛める三人組に校舎裏に呼び出されたのだ。
鴨倭木静を苛める三人組はニヤニヤと陰湿な笑みを浮かべる。
「またあの三人組。鴨倭木静にちょっかいだしちょる。いい加減にせいや。」
鴨倭木静を陰湿な苛めし続ける女子の三人組に弥恵ちゃんは腸が煮え返るほど怒りを露にする。
「……。」
『……。』
俺とワラズマはその様子を静かに静観する。
「何の用ですか…。」
鴨倭木静は警戒というより無反応の感情を決め込んでいた。感情を晒けだせばそれだけ彼女達の思うつぼであり。嘲笑されることがめにみえている。故に無反応無視を決め込むことが。いつも苛めを行う彼女に対する鴨倭木静の防衛手段であった。
「いつもすました態度は今日までや。」
「そうそう、あたしらを舐めてかかると痛い目みんよ。」
「都会もん。うちら舐め腐るとば。後悔せえや!。」
鴨倭木静を苛める三人組をきゃははと高笑いする。
「いい加減にしてください!。田舎とか都会とか関係ないでしょう!。もう私をほっといてください!!。迷惑です!。」
っ!?。
初めて反抗されたことに詰めよった苛めっ子の三人組はおおいに狼狽える。
「え。ええ度胸やないけえ。その減らず口、今ここでたたっき壊したる!。」
そう言うとリーダー格の1人がおもむろにポケットから手紙を取り出し鴨倭木静の前で見せびらかす。。
「これ、な~んだ?」
「それはっ!?。。」
鴨倭木静はそのポケットから出した手紙が何であるか瞬時に悟る。
リーダー格は乱暴に封筒を開け手紙を取り出す。
高らかに声を張り上げて読み上げる。
「ああ!拝啓、鴨倭木静様。今日もお元気ですか?。」
「返して!。それは私に送られた孝太郎さんの手紙よ!返して!!。」
鴨倭木静はリーダー格の女子生徒に掴みかかろうとするが。しかし他の二人が強く彼女の身体を取り抑えられる。
「写真を送ったのですが。写り少し自信はありませんが気に入ってくれると嬉しいです。はっ、どうみてもこれ恋文やんけ。」
リーダー格は鴨倭木静を冷やかし交りに嘲笑する。
「男なんかと文通するなんて都会もんは酔狂やな。」
「これだから都会もんは」
取り抑えている二人はケラケラと嘲笑う。
「一丁前に色気付きやがって!。生意気なんだよ!。これはこうしたる。」
「やめてえーーーー!。」
ビリビリビリビリ
孝太郎さんから送られた手紙を三人組のリーダー格である女子は非情に鴨倭木静の目の前でその手紙を破り捨てる。
パラパラ
「う···ああっ···あ····ああ。うあああああああああーーーーーーー!。」
鴨倭木静の口から断末魔のような声にもならぬ悲痛な声を吐く。
孝太郎さんが書いた手紙は形を無くし。無惨に紙切れが地面の土の上へと散らばる。
「これにこりたらあたしらに逆らわんことやね。」
二人に取り抑えられた鴨倭木静は解放される。
「あの糞女供(くそあまども)がああああーーーー!!。」
弥恵ちゃんはカッと切れるほど顔が怒りで真っ赤かになる
「う··ううっ…。」
鴨倭木静はひ地面に散らばった想い人である孝太郎さんの手紙を前にずっと膝を折り曲げ泣き崩れていた。
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