怪ノ村 其乃弐 不幸死紙⑩

意識の波に押され清司の身体が明確になり。目の前の景色が変わる。

自分の身体が透け。ふわふわしているように感じがした。実際に宙に浮いていた。


『気がついたようだな…。』


近くには位牌箱に入っていない人差し指だけのワラズマが同じく宙に浮いて透けている。


「ここは何処なんだ?ワラズマ。」

『鴨倭木静(かもわぎしず)の家の前だ。 』


清司は宙に浮いた視線を真下に向けると確かに目の前に見覚えのある古風な家がたっていた。家屋が少し色合いが良い感じはするが。紛れもなく行方不明の鴨倭木静の民家である。


「うわ~!うわ~!。これ凄かと!。透けとるし。宙に浮いとる。まるで幽体離脱しとるみたいやわ!。」


弥恵ちゃんは初めての体験に感動してはしゃいでいる。


『では鴨倭木静の部屋に入ろう。このまま壁抜けできる筈だ。』


ワラズマの人差し指についた不規則な瞳が揺らぐ。

ふわふわ宙に浮く身体を動かしスッと二階にある鴨倭木静の部屋があるであろう場所に壁抜けする。弥恵ちゃんもあわあわと危なっかしい動きでついてくる。

鴨倭木静の二階の家の壁をすんなり抜ける。

死ぬ前に幽体離脱の経験を得ようと清司はおもってもみなかった。

カキカキ

部屋に入ると鴨倭木静と思われるセーラー服を着た女子生徒が勉強机で何やら熱心に書いていた。良く見るとどうやら手紙のようである。

万年筆で丁寧に紙に字を書き綴る。


文面はいたって普通の手紙のようだった。

この時点ではまだ不幸の手紙を書いていないようだ。

彼女がどういう経緯で不幸の手紙を書くことに

なったのか解らない。不幸の手紙に呪いが宿った理由もまだ明確にはなっていないのだ。


「静。早くご飯食べんさ。学校遅れると。」

「はい……。」


静は少し元気が無い返事を返す。

体調でも悪いのだろうか?。


静は書きかけの手紙をそっと机の引き出しにしまう。

教科書が入った鞄を取り部屋を出る。二階の階段を下りていく。


「今いつ頃なんだ?。ワラズマ」

『おそらく鴨倭木静の失踪した数日前だろ。』


ワラズマは不規則な瞳は静の様子を静かに窺う。


「行ってきます。」


朝食をすませた鴨倭木静は家を出る。


鴨倭木静の後をついていく。彼女は農道の路を進み学校に到着する。

生徒達が朝の登校で賑わっていた。

鴨倭木静の通う学校は見覚えがある。村に立ち寄り道を訪ねた時の学校校舎である。校舎は少し新しくみえる。間久沼といういけすかない教師がいた学校である。エリート志向であからさまに底辺を見下している様な嫌な奴だった。俺のことを無職のぷ~と小馬鹿にしていたし。まあ、俺が人間の愚図だから反論もしようもないが…。


「おはようございます!。先生。」

「おはよう。」


生活指導と思われる教師が校門前にたち登校する生徒に挨拶をしている。

ん?あの教師何処かで見たような…。

校門前に立つ生活指導の教師を俺は何処かで見たような気がした。


「あ!?。あれ間久沼先生やわ。若かー!。」


弥恵ちゃんは校門立つ教師が間久沼先生だときづく。

あいつが間久沼か…。確かに顔だちが若いが。あの嫌みたらしそうな陰湿じみた面影が残っている。


「おはよう。鴨倭木。」

「おはようございます。間久沼先生。」


「間久沼先生と鴨倭木静は面識があったんか!。」


弥恵ちゃんは目をパチクリさせて驚いていた。


「先生、相談があるのですが…。」


鴨倭木静はかぼそい声を発し。若かりし頃の教師、間久沼に相談する。

間久沼は不快げに眉を寄せる。

ため息を吐き。鴨倭木静という女子生徒を鬱陶しげに眺める。


「またか…いい加減にしてくれ。私は教師だが。君の相談者じゃない。君の悩みにいちいちかまけているわけにはいかないんだ。生徒達にはそれぞれ重要な学業がある。今は大事な時期だ。君の問題にいちいちかまけているわけにいかないのだよ。自分の問題は自分で解決してくれ。それが大人になるということだ。」


鴨倭木静は何かを相談しているようだったが。間久沼という教師はそれを冷たくあしらう。


「何か間久沼先生冷たかー!。本当にこれが間久沼先生なんかあ?。間久沼先生いつも生徒の相談に乗ってると思っとったのに。」


弥恵は鴨倭木静の対応に不満を漏らす。

確かに出逢った時、いけすかない相手ではあるが。生徒の相談に親身に受けていた気がする。しかしあれが良心的に行っていたかと思えば疑問を感じる。裏があるような気がする。素直に人の親切を評価すべきなのだろうが。いかせん俺は人間の愚図としてねじ曲がった人生を歩んできた。簡単に人を信用していない。いや、確かに人くいの村の方では完全に騙されたが。あれは本当に老人達が親切の皮を被るのが上手かったからである。本当に裏の顔をする奴にはそれ相応の態度にでるものである。


「そんなつまらない相談するくらいなら学業にいそしみなさい。それが生徒の性分だろう。」

「先生…。」

「ほら、わかったならさっさと学校に入りなさい。他の生徒の通行の邪魔になる。」

「……。」

「おはようございます。先生。」

「おはよう。」


静はゆっくりと間久沼先生から離れていく。


「なんや、全く!。間久沼先生、酷かか!。少しは生徒の相談に乗ってもええやろ!。」


弥恵はそんな辛辣な間久沼先生の対応に憤慨していた。



鴨倭木静は自分の教室に入る。鴨倭木静の席の机に着くと俺は目を見張った。


「なんや!これ!?。」


弥恵ちゃんも鴨倭木静の机に驚愕する。

机の上には馬鹿、死ね、ブス、など悪口が沢山書かれていたのだ。それはペンとかではなくチョークのようであった。


「……。」


鴨倭木静はその机を無言でゴシゴシと自分のハンカチで拭き取る。


「鴨倭木静は虐められとったんか!。」


弥恵ちゃんそんな衝撃的な光景にふるふると怒りが込み上がる。

教室にいたクラスメイト達は彼女をどこか腫れ物を扱うように少し離れたところで静観している。


「………。」



授業を終え。放課後鴨倭木静は掃除を始めた。そう言えば良く放課後掃除をやらされたなと清司は昔の学生生活を思い返す。


鴨倭木静は集めたゴミを外に設置されている焼却炉に入れる。



ばしゃーーん!!


突然彼女の頭上から水がふりかかる。

鴨倭木静のセーラー服は頭上から降ってきた純粋というよりは濁った水が彼女の衣服をびちょびちょに染める。静の衣服は濁った水のせいで汚れてしまう。


「あら?、ご免なさいね。下に人がいるとはおもわなかったの。」

「トイレのバケツ片付けるの面倒だったのよねえ。」

「キャハハハハ」


二階の窓から三人組の女子生徒の嘲笑が響く。


「……。」


「何なん!あいつらは!。」


弥恵の眉がつり上がり激昂するほど怒り狂っていた。


鴨倭木静は彼女達の嘲笑など意に介せず。まるでいなかったように振る舞い。スルーするように無視をする。

そんな彼女の態度に三人組の女子生徒はちっと面白くなさそうに舌打ちする。


清司はその様子をみて何だが嫌な予感がした。

人差し指姿のワラズマの不規則な瞳がそんな彼女の不幸で辛い様子を冷たく厳しげに見つめていた。

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