怪ノ村 其乃弐 不幸死紙⑫

「先生…。」


校内の廊下で鴨倭木静は生活指導の教師、間久沼に再び相談しにきていた。彼女達により文通相手である想い人の手紙を無惨にも破り捨てられ。心身ともに疲弊していた。彼女が苛めで何度も生活顧問の教師間久沼に相談していたようだが。間久沼はそれを冷たくあしらっている。それでも大切な人の手紙を破り捨てられ。ショックで唯一の相談相手である生活顧問の間久沼に相談せざる得なくなっていた。


「何だ?。鴨倭木。」


勤勉で真面目そうな間久沼の眉が怪訝につり上がる。


「先生…もう私は耐えられないんです。彼女達を何とかしてください!。彼女達は私が全然非難しても苛めを止める気配がないんです!。もう間久沼先生しか頼る相手がいないです!。どうか、お願いします!。間久沼先生!。」


悲痛に訴える鴨倭木静の顔を間久沼はじっと見つめていると突然はあ~と深いため息を間久沼は鴨倭木静の目の前でする。

不快まじりの冷たい眼差しを生徒である間久沼静に向ける。


「いい加減しろよな、間久沼。私はね。学業を生徒に教えるために教師になったんだ。苛めを止めるために教師になったわけじゃない!。」

「でも……。」

「そもそもここまで苛めが続くのはお前に何かしらの問題があるからじゃないのか?。」


間久沼は鋭い疑いの眼差しを鴨倭木静に向ける。


「そんな……。」


鴨倭木静は今にも泣きそうな顔をする。


「自分の問題は自分で解決しろ!。教師を頼るな!。教師は生徒に勉強を教えるのが本分だ。苛めの問題は生徒自身の問題だ。お前の問題であり私の問題ではない!」


間久沼は鴨倭木静を激しく非難し拒絶する。


こいつ……


俺はあまりにも理不尽な間久沼の態度にカッとなるほ胸が熱くなる。生徒顧問でありながら真面目に生徒に相談しないお前が言える立場か!と心の中で呟いた。

人間の愚図として生きてきた俺だが。こいつも相当の愚図である。だが違いがあるとするならば間久沼は教師として定職に就いているいわば勝ち組の人生で。定職にも就かない宙ぶらりんの生き方をした俺の負け組の人生の違いだけだろう。それでも人間の愚図であることには変わりないが…。



「これ以上くだらないことで私に話し掛けないでくれ!。不愉快だ!。」

スッ

間久沼はそのまま鴨倭木静を冷たくあしらい。彼女の横を素通りしていく。

取り残された鴨倭木静はガクッと膝を廊下に落とす。


「うああっ…。あああああああああああっっーーーーーーー!。」


再び鴨倭木静は激しく嗚咽を漏らし泣き崩れる。


「こんなのあんまりやわ。間久沼先生あまりにも酷すぎん。」


弥恵ちゃんは目に涙をを浮かべていた。



「許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!。」


帰路についた鴨倭木静は自分の部屋で机の上で許さない!を連呼を繰り返していた。


ザクッ

っ!?。

自らカッターで己の腕を切りつける。

皮膚がさけ。そこから血が滲み出す。


カッターで切りつけて血に滲んだ腕に万年筆をつけて用紙に書きなぐる。彼女は文章を書き始めた。

彼女の最初の文がこれは不幸の手紙ですから始まっていた。


「この時に不幸の手紙を書いたのか!?。」


俺は鴨倭木静はこの時からあの不幸の手紙の呪いが始まったのだとさとる。


『血文字か……。』


ワラズマの人差し指の不規則な瞳が険しげに瞳を細める。



「ワラズマ、何か問題あるのか?。」


不幸の手紙を書いた時点で既に問題ではあるが。ワラズマの険しげな様子に俺は不安になり聞いてみる。


『本来呪いは人の肉体の一部を使うことにより。より呪力が増す。それは髪の毛だったり皮膚だったり血だったり。指だったりな。そしてその生命の一部を媒介にして呪いを行う。しかしこの程度ではまだ村一帯にも及ぶ呪いを作り出すこと不可能だ。せいぜい二三人を呪い殺す程度でしかない。しかも呪い殺せるかどうかも確実ではなくあやふやで不安定だ。そもそも不幸の手紙そのものが呪術ではない。あくまでも小さな子供が考えた悪趣味なお遊びである。そこに呪いを宿るなど本来ならばあり得ないことだ。しかし実際現実問題として呪いが宿ってしまった。』


ワラズマの不規則な瞳は瞬きする。

ワラズマは不幸の手紙に呪い宿るなど本来あり得ないことだと言った。ならば他に要因があると言うことだ。一体彼女の不幸の手紙に何が原因で村全体に行き渡るほど呪いが増加してしまったのだろう?。しかも何十年も続くほど呪いである。


「呪いの手紙じゃなく不幸の手紙なのは彼女はそっがなほど優しば人間だったとね。」


弥恵ちゃんは鴨倭木静が呪いの手紙でなく不幸の手紙を書いたのは鴨倭木静は誰かを憎んだことのない心優しい人間だったのだと知る。


カキカキ


「四通?。」


弥恵は鴨倭木静に机の上に封筒が四通あることに眉を寄せ困惑する。


それから鴨倭木静の苛めはより一層酷くなった。机に悪口を書かれ。靴の中に画ビョウを入れられ。制服なども隠されゴミ箱に入れられるなど。鴨倭木静を苛めていた三人組の苛めはより一層より悪質になっていた。

教師、間久沼はそれを知ってか知らずか無視を決め込んでいた。

鴨倭木静はもう反抗する気さえもおきていなかった。いや、彼女は正気さえも保っていないのかもしれない。

彼女の瞳には一切の生気というなの光を宿していなかった。


「う、うう、もう見てられへんわ。何で誰も助けてくれへんの?。」


教室のクラスメイトさえも鴨倭木静を庇うものいなかった。苛めている彼女にこれ以上関わりたくない様子であった。


       学校廊下


「ふふふ、あの都会もん。これでデカイ面しなくなったわな。」

「ええ、気味やわ。」

「うちらの歯向かうと。どうなるか思い知ったがな。」


三人組は廊下で鴨倭木静の惨めな姿に嘲笑う。


カツカツ

目の前から歩いてきた教師、間久沼がそんな彼女達の談笑に怪訝に眉を寄せる。


「お前達いい加減にしたらどうだ。そんな下らんことするくらいなら勉強に勤しめ!。」


間久沼は強く彼女達を説教するのではなく。軽く注意する。そのまま彼女達の言葉を待たずして行ってしまう。

三人組は間久沼の態度に不快に眉を寄せる。


「あの女、先生にチクッとたんか!。」

「ムカつくわ!。まだ痛い目に合わんと気がすまんのか!。」



先生にチクッていた鴨倭木静を二人は今度はどう苛めたろうかと画策する。

リーダー格はふっと卑しい笑みを浮かべる。


「私にええ考えあるんよ。」



鴨倭木静は三人組に学校の裏山に呼び出されていた。


「……。」


鴨倭木静は沈黙したまま彼女達の前に立つ。


「ごめんなさいね。私も充分に反省したの~。」

「……。」


手を合わせリーダー格である女子の猫なで声交りの謝罪の言葉を発するが。彼女の言葉に反省の色など全く微塵も感じられなかった。

鴨倭木静の隈を宿した虚ろな目は彼女達を捉えるているのか。何処か焦点があわない。毎日の絶えまない苛めと心の拠り所であった孝太郎さんの手紙まで奪われ。彼女には最早生気と呼ばれる生気が感じられなかった。


「うちら間久沼先生に言われて改心したんよ。」

「色々悪かっちゃね。」


残りの二人はニヤニヤと笑みをつくる。


「それでね。反省と謝罪として貴方に手紙を返そうとおもうの。」


リーダー格の女子は申し訳さなそうな素振りをする。


「っ!?。本当ですか!。」


鴨倭木静の隈のついた瞳に光が宿り。彼女の表情がぱあっと明るくなる。


「これ、貴方のボーイフレンドの手紙。返すね。」



三人組のリーダー格がポケットから手紙を取り出す。

上質な封筒に入られた手紙。それは紛れもなく孝太郎さんの手紙であった。


「ああ…。」


鴨倭木静の目が輝きだす。


「何でえ?。あんなに鴨倭木静を苛めとったとに。どういう風の吹き回しやわ。」


弥恵ちゃんは散々鴨倭木静を苛めていた三人組が素直に手紙を返すなどあり得ないと困惑していた。


「ああ…孝太郎さんの手紙。」


鴨倭木静は初めて笑顔を浮かべる。


「ほらっ。」


ペラッ

彼女は手紙を後方にむけて無造作に投げ入れる。


っ!?

っ!?

っ!?



「ああ···孝太郎さん…。」


鴨倭木静はふらっとつられるようにそのまま手紙を追っていく。


「駄目えええええええーーーーーーーー!。」


弥恵は大声でを張り上げた。


弥恵は空中に流れる手紙に手を伸ばす。


ふっ

鴨倭木静の姿が一瞬消える。

否、消えたのではなく落ちたのだ。


リーダー格の女子生徒が手紙を投げ入れた場所には地面はなかった。鴨倭木静の体はそのまま崖の奈落の底へと落ちていった。


がん ゴロゴロゴロ


鴨倭木静の体が転げ落ちる。


バキバキ! バキバキ! バっキン!!



途中途中崖に伸びる木々に引っ掛かり彼女の体は崖の地面の底へと転げ落ちる。


ゴロゴロゴロ バッキン ドサッ!


彼女の体はそのまま崖の下に落ちていき。そのまま地面に横たわりぴくりとも動かなくなった。


「ちょ、これ不味いじゃない!?。」

「どうすんのよ‼️」


二人の女子生徒は鴨倭木静が落ちるとは思っていなかったのか大いに慌てだす。


「逃げるば!。」


リーダー格の女子生徒が声を張り上げると三人組はその場を逃げてしまう。

弥恵と清司とワラズマは崖から落ちてしまった彼女を息をのみ見守る。


「鴨倭木静は死んでもうたのか?。」


弥恵ちゃんは青ざめなながら問いかける。


『いや……。』


ぴくっ

崖の下に横たわる鴨倭木の右手がぴくりと動く。そのまま彼女はゆっくりと起き上がり立ち上がる。


「良かったばい。崖に生えていた木々がクッションになったとね。」


弥恵ちゃんはホッと安堵する。


『いや…。』


ワラズマは険しげに言葉に発すると同時に鴨倭木静は歩き出した。しかし片足を引きずっていた。


「足を引きずっている。挫いたのか?。」

「そんな…。」


しかもいつの間にか靴も脱げていた。運動靴ではなく学生靴だった故最悪に脱げやすく。落下と同時に失くしてしまったようだ。

鴨倭木静は足を引きずりながら進みだす。孝太郎さんの手紙は大事そうに胸に抱えていた。


パラパラ

鴨倭木静の頭上に雫が落ちる。


「雨…。」


ザーーーーーーーーーー


雨は瞬く間に激しくなる。


「雨なんて何でこんな時に…。」


弥恵は理不尽な目にあった鴨倭木静に対して更に理不尽を重ねるお天道様に激しい憤りを覚える。



鴨倭木静は胸の手紙を濡れないようにセーラー服に隠す。


ふっ  びちゃ!

足を引きずる鴨倭木静がバランスを崩し雨で濡れた泥土を被る。


「……。」


しかし鴨倭木静はそれを意に介さずにそのまま立ち上がり。裸足の足を引きずったまま再び進みだす。



ザーーーーーーーーー


ごおおおおおお

無言のまま進み続けていた鴨倭木静の目の前には洞穴が現れる。洞穴の穴は深く漆黒の闇に染まっていた。


「洞穴?。」


清司は洞穴の中で怨恨の言葉を繰り返す彼女の姿を思い出す。


「…………。」


ザーーーーーーーーー


ずるずる びちゃびちゃ


鴨倭木静は泥まみれのセーラー服の姿で裸足の片足を引きずったまま深い深い洞穴の中へと入っていく。


『……。』


ワラズマはそんな鴨倭木静の様子を幾つかの不規則な瞳が冷たく険しげにそして深刻に見つめていた。

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