怪ノ村 其乃弐 不幸死紙②

「先生、おはようございます!。」 

「おはよう!。」


生徒が行き来する校門前で男性教師が立っていた。

登校する生徒に元気よく挨拶する。


「おはようございます····。間久沼(まくぬま)先生·····。」


登校する女子生徒が顔色が悪そうに挨拶する。


「大丈夫ですか?。渡辺さん。」


渡辺という名の女子生徒を彼女の担任ではないが間久沼は気遣う。


「はい······。」

「元気を出してください!。貴方のクラスの不幸や災難は偶然ですよ。集団ヒステリーのようなものです。気にすることはありませんよ。」


渡辺のクラスはとある問題を抱えていた。渡辺はジロリと妬みを含んだ視線で間久沼先生を睨む。


「先生に何が解るんですか!。私のクラスでもう三人も死者が出てるんですよ!。次は私だ~!。絶対私の番だー!。」 


渡辺は震える手を覆い声が裏返る。


「だからそれは偶然です。集団ヒステリーのようなものです。他の生徒に感化されただけですよ。」


間久沼は笑顔で渡辺を励ます。


「集団ヒステリーであるものか!。次は私だ!。私なんだーー!。」


渡辺という女子生徒は錯乱するほど涙目ながら発狂する。

間久沼先生は困ったようにかけた眼鏡をあげ途方に暮れる。


「すみません·······。」


突然声をかけられた間久沼は錯乱のする渡辺から視線を外す。

声の主はくたびれたスーツを着た中年の男だった。


「な、何ですか?。貴方は。」


間久沼は怪訝そうに眉を寄せる。そのくたびれたスーツを着た男を睨む。


「先生、失礼します。。」

「あっ!?渡辺さん!。」


渡辺という女子生徒は間久沼の静止を無視し。校舎に駆け込んでしまう。

間久沼はちっと不快に舌打ちする。渡辺のケアをしようとしたことを邪魔され。声をかけたスーツの男を八つ当たりするかのように睨み返す。


「それで、何の用ですか?。」


間久沼は冷たい眼差しをスーツの男に向ける、

いかにも怪しげな男だ。身なり良いとは言い難いスーツを着ている。いかにも浮浪者のような佇まいである。


「村役場は何処でしょうか?。」


悪びれる様子もなくそのくたびれたスーツの男が聞いてくる。


「村役場?。村役場に何の用ですか?。」

「泊まれるところを探しているのです。」

「泊まる所?。どうみても旅行者には見えないですが·····。」


くたびれたスーツを着る男に間久沼は怪訝そうに眉を寄せる。


「一応旅人です。東北の地まで徒歩で行くんです。」

「徒歩?、はっ、見たところ真面目に働き者せずに浮浪者まがいのことをしてるようですね。貴方のような働き者せずにのうのうと生きている人間を世間一般に何て言われているか知っていますか?。」


間久沼は挑発すふように嘲る。


「社会の塵というのですよ。」

「やっだあーー!。先生、ひっどおーーい!。」


二人の会話を聞いていた登校する女子生徒達が茶化すように間久沼先生の話に乗る。


「いいのです。こういう輩は下手に出れば付け上がるだけですから。」


ニヤついた嫌味まじりな嘲笑を間久沼は晒す。

くっ言わせておけば·······。

清司は込み上がる怒りを何とか抑える。

だが事実だから何も言い返せない。実際働きもせずにワラズマと一緒に死に行く旅をしているのだ。浮浪者と言われても反論できない。


「まあ、いいです。村役場はあの建物です。ですが、貴方のような浮浪者を快く泊めてくれる者などこの村にはいませんよ。せいぜい路頭に迷うといいです。。」


間久沼は再び清司に対する嫌味を含んた嘲笑を晒す。

何度も同じ傷口に塩を塗りたぐるような陰険な野郎だな。


陰湿な性格をしている先生に清司はウンザリしてきた。

教育者としてあまり良識な人物ではなさそうだ。俺みたいな人間の愚図が言える立場でもないが。


「話が終わったならさっさとどいてください。生徒達の通行の邪魔です。」

「す、すみません。ありがとうございました。」


一応清司はお礼を言って校門を去る。

清司はあんな陰湿な教師とは二度と顔を合わせたくなかった。


「村役場はあっちだな······。」


校門かは離れる。学校から数メートル先に陰湿な教師から教えられた公民館のような建物が見える。


「それじゃ、行こうか。ワラズマ。」

『········。』

「ねえ、おじさん。」


突然、清司は誰かに呼び止められる。

声をかけた相手方に視線を向けるとそこにはニコニコと笑顔を浮かべたセーラー服の女子生徒がいた。

さっきの学校の生徒だろうか?。


「ねえ、おじさん。手紙受け取ってくれない。」

「手紙?。」

「そう、私の手紙を受け取って欲しいの。お願~い。」


女子生徒はねだるような猫なで声で清司に懇願する。

ふとさっき農道であったお爺さんの言葉を思い出す。


『特にあの村では手紙だけは結して受け取っちゃいけねえ。』


「ごめん。手紙はちょっと······。」


清司は女子生徒に断りを入れようとする。


「そこを何とかお願い!。ねっねっ♥️良いでしょう~。本当に本当のお願いよ~~!。」


女子生徒は掌を合わせて懇願する。

断るつもりだった清司もその女子生徒の押しの強さに根負けしてしまう。


「わ、わかったから。受け取るよ。」


清司は女子生徒から白い手紙を受け取ってしまった。


「やったーーーー!。これで助かる!!。」


セーラー服の女子生徒は嬉しそうに農道を駆けていき。もう姿が見えない。ぽつんと1人取り残され清司は呆気にとられたが。直ぐに我に返り手にした手紙をみる。それは変哲もない白い封筒に包まれた手紙だった。中に何か入っているわけでもない。


「ワラズマ····ごめん。なんか手紙受けとっちゃった。」

『··········。』


ワラズマは懐の位牌箱で何故か言葉を発せず。沈黙を保っていた。


「とりあえず開けて見るか。もしかしたらラブレターかも?。」


清司は呑気にそんな悠長な想いに馳せ。特に怪しみもせずに女子生徒から貰った手紙を開いてみる。

清司は封筒に入っていた紙切れを広げてみた。


ペラ


    これは不幸の手紙です。

  3日以内に3人に同じ内容の手紙を

  送らなければあなたは不幸になり

    お亡くなりになられます。

  死にたくなければ三人に手紙を

      送りましょう



文章にはそれ以上何も書いていなかった。


「かあっーー!不幸の手紙かよ!。完全に騙された!!。あのお爺さんの言っていたことはこの事だったんだな~。そうだよなあ~。こんなしがないオッサンに女子生徒がラブレターくれるわけないしなあ~。はは、ワラズマ、俺のことを笑ってくれや。」

『········。』


不幸の手紙を受け取ってしまった清司は自虐的に笑いが込み上がる。

しかし位牌箱のワラズマは何処か神妙だった。


『清司····少し私を箱から出せ···。』

「え?箱から·····。」


清司は辺りをキョロキョロと見回し。誰もいないことを確認する。

懐から位牌箱を取り出し木製の上蓋をとる。

パカッと上蓋を取れた位牌箱の下敷きの綿に詰められ人差し指姿のワラズマは突然ぴょんと跳び跳ねる。

ひゅん

そのまま清司の頬にワラズマの爪先が掠める。


「あっだー!。いきなり何するんだ!。ワラズマ!?。」


清司はワラズマの爪先で頬を引っ掛かかれた。痛みで位牌箱を落としそうになる。

ぴょんとワラズマの指は元の綿の下敷きに戻る。


『初めからこうするべきだったな···。清司、今私はお主に呪いをかけた。』

「ええーー!、何で藪から棒に。」


清司は一瞬で顔色が青ざめる。ワラズマが俺に呪いをかけたといったのだ。自分がワラズマに何か恨みを買ったのではないかと心配になる。


『安心しろ。呪いといっても呪い殺されない祟り殺されないようにするための呪いだ。死に行く旅ではあるが。別に呪い殺されたり祟り殺されたいわけでもないのだろう?。』


ワラズマは清司に問いかける。


「ん、まあ、死ぬのなら普通に死にたいけど····。」

『なら問題まあるまい···。』

「うーん、何か納得いかないんだが···。」


清司は不満を漏らしつつもワラズマを位牌箱にしまい。再び懐に忍ばせた。気を取り直し村役場のある公民館へと向かう。


    ▤▤▤▤▤▤▤▤▤▤


静寂に静まりかえった教室のなかで一人の生徒が手紙を手にし激しく訴えている。

クラスの生徒達は彼女の周りから数歩離れ何故か静観している。手紙を手にしている女子生徒はあのヒステリーを起こしていた渡辺という女子生徒だった。

渡辺という女子生徒は金切り似た声で叫び。クラスの生徒達に訴える。


「誰か!?誰か!?。私の手紙を受け取ってー!。」


クラスの生徒達は誰一人として彼女の持つ手紙を受け取ろうとはしなかった。彼女の悲壮感に満ちた訴えを沈黙という形で返し。静観している。


「誰か!?。お願いよ!!。手紙を···手紙っ!!。」


彼女の悲痛まじりに訴える。一人の女子生徒は彼女の悲痛な想いに心動され。感情的になり受け取ろうとするが。それを他の女子生徒が駄目よと静止して止めてしまう。


「矢駄矢駄矢駄!!。私、死にたくない!死にたくない、死にたくない!死にたくない!。」


渡辺は嗚咽をもらし泣きじゃくり狂乱する。手に持つ手紙が手汗に滲み震える。

渡辺の持つ手紙が手汗でインクが黒く滲んでいると思えたが。黒く滲んだ手紙から文字ようなものが浮かびあがる。渡辺の手を通じて手紙の文字が渡辺の腕へと移る。


「あ····ああ···あああっっ!·····。」


渡辺という女子生徒はもがき苦しみだす。手紙から浮かびあがる文字がまるで耳なし芳一のように渡辺の全身に駆け巡る。


お前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネ

お前が死ネお前が死ネお前が死ネお前が死ネ


憎悪と殺意の込められた文字がただただ繰り返すように彼女の身体をむしばむ。

お前が死ねという文字が渡辺の身体全身の肌に流れていく。


「う··がっ··あああ····あああっっーーー!。」


断末魔にような呻きが彼女の口から吐かれる。



     お前が··········死ね···



「········ひゃっ··はっ!?。」


ドサッ

渡辺はしゃっくりのような呻声を上げると教室の床へと倒れこむ。渡辺の目がギョロん白目をむき。彼女は身体はぴくりとも二度と動かなくなった。


そんな惨状を目にしたクラスの生徒達は恐怖と怯えと疑心暗鬼な感情が教室内をどす黒く暗く塗り潰していた。

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