ホラズム帝国の落日を鮮やかに切り取る

モンゴル帝国を築き上げたチンギス・カン。
その栄光の礎には、他方で数多の敗れ去った者達が横たわっていることでしょう。

本作は、モンゴル側に焦点をあてるばかりでなく、その覇権への道に存在した濃厚ないち場面、ホラズム帝国滅亡の過程が描かれています。

攻め滅ぼされる側の人々の戦略や矜持、また個人としての想いと姿勢が丹念に描かれ、波打つような感動があります。

随所に見られる戦闘描写や、著者の膨大な知識から紡ぎ出される詳細な状況描写は、読む者の眼前に迫るリアリティをもって展開されます。
しかしまた、それのみにはとどまらず、物語の羽は虚実織り交ぜられ、各登場人物へのシンパシーと追体験を与えてくれることは間違いないでしょう。

もちろん、強きモンゴルの痛快な栄光譚の側面も存分に描かれており、勝者と敗者のどちら側にも行き来することで、まさに神の視点で楽しむことができます。

また、このお話に厚みを増して補強しているのが、市井の人々が織り込まれている点で、民あってこその為政者であり、その争いがあり、両者のどちらが欠けても意味をなさないという包括性を見事に描き切っています。

歴史物は苦手?
いえいえ、そんな認識は不要です。
ここに紡がれているのはただ「人」。
是非ご一読下さい。

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