歴史上稀有な大帝国vs大帝国の決戦を見事に活写!!

世界史に於けるモンゴル帝国の版図拡大は、イスカンデルの東征と並ぶエポックです。しかし、有名でありながらも、モンゴル帝国隆盛の過程には「空白」があるように思えてなりません。

本邦が巻き込まれた元寇や欧州への進出は、様々な書物、或いはエンタメ作品で解き明かされ、知識として流入することが多い。その一方、モンゴル帝国の覇権を決定付けたであろうイスラム世界との戦いは、論じられる機会が少ない。

その「空白」を本作は、軽妙な筆致で、登場人物の心象を描きつつ、埋めてくれます。騎馬軍団は圧倒的な力を以て、蹂躙したのではなかった。双方が共に、悩み、戸惑い、戦術に腐心し、真正面から堂々と戦い抜いた。

よもやホラズム・シャー朝の衰亡に、かくも壮絶なドラマがあったとは……読み終えた者が瞼を閉じて遥かな時代に思いを馳せるような奥深い力作です。

本作では冒頭に参考文献が掲げられていますが、その数量、質的な意味で重要と思える稀覯本に目を瞠り、感服します。歴史を忠実に描くに当たり、作者はどれ程の知識を蓄え、見識を育み、血肉としたのか……

その歴史知識を惜しげもなく披露し、エンターテイメント作品に仕上げてくれたことに感謝するばかりです。

本作は、登場人物の紹介など読者に親切な工夫が随所に鏤められ、本格的な歴史物に縁のない方でも楽しめる仕様になっています。この点は万人向けと申せましょう。

他方、この作品は世界史の「空白」をドラマチックに活写した特異な小説で、中世史に興味がある歴史好きにとっては「必読」と言い切れる大作です。

最後に、こうした貴重な歴史小説が投稿サイトで読めること、その奇跡体験に驚きを禁じ得ません。

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