6-3

いくら魔王の生まれ変わりだと言っても、私自身何も悪い事なんてしてない。

それなのに囚われの身の時間があまりにも長すぎる。

毎日毎日おんなじ肉壁見て暮らしてるものだから、飽きたを通り越して頭もおかしくなっちゃいそう。

「あー。シャバの空気はおいしいなー」なんてつい口走っちゃいそうになるくらい。だから悪いことなんて何一つしてないっていうの。


どれだけの時間が経ったんだろう。エルトのお腹の中にいる間、日にちを数えるのを忘れちゃった。

久しぶりのお出掛けはディフもエルトも同行無し。それだけはラッキーだったかも。


「はい。メナちゃんもう出て来ていいよ」


「ぴゃぁん」


小声で合図をして、隠していた包みの中からよちよち這い出すメナちゃんを机の上に置く。


「さーて、探しますか」


外に出たら自分の魔法で試してみようと思っていたことがあった。

だから私とメナちゃんは今、こっそり二人で図書館に来ている。


「どうせなら綺麗でかっこよくて話が通じる子がいいなぁ……あっ、これ。これいいかも」


私の目についたのは海を背景にした街に真っ白なドラゴンが描かれた大判の絵本。

体を丸めて人間に寄り添っており、周りに宝石が散りばめられている。

パッと見た感じ綺麗な印象の絵本だ。イラストも細かく描き込まれていて、描き手の愛情を感じる。


「メナちゃんはこれがいいの?」


「んぴ!」


「えー。虫はもうたくさんだよぉ……」


メナちゃんが選んできたのは黄色と赤と緑のカラフルないもむしが描かれた絵本。

表紙でりんごから顔を出しているいもむしが空けた穴が裏のページにも続いており、また次のページにも色んな食べ物の絵が描いてある。

お話の内容は、美味しいものをいっぱい食べたいもむしはサナギになってやがてちょうちょになる……どこかで見たような仕掛け付き絵本だった。


「メナちゃんもたくさん食べてちょうちょになりたいの?」


「ぴゃい! んぴぴ。んっぴょ!」


「そっかそっか」


どうやらそうみたい。えっへんと胸を張るメナちゃん。

エルトが言ったことにはメナちゃんはこれ以上大きくならないし蝶々になんかなれないんだけど、忘れてるみたいだし夢を壊さないように黙っておこうっと。

メナちゃんは腹ペコなカラフルいもむしさんの絵本が相当気に入ったらしく、私が探し物をしている間ずっと飽きずに眺めていた。





街の図書館で絵本を借りたあとは、屋台で瓶入りオレンジジュースと野菜とハムとポテトサラダを挟んだボリューム満点のパンを買って大満足で直帰……なんてするわけがない。

エルトは仕事のスケジュールを教えてくれないし(実際エルト自身にも何がいつあるかなんてわからないのだそう。そりゃそうなんだけど)また今度にしてしまったら、いつお外に出られるかわからない。

メナちゃんをまたおくるみに包んで街はずれの森の入り口で一休み。


快適な街のカフェで休まなかったのにはもちろん理由がある。


「それじゃあ今日のお待ちかね、本命タイム!」


「んぴ?」


「ドラゴンを召喚します!」


借りて来た絵本を開いて置き、ページの上に右手をかざす。

そう。私が図書館に行った一番の目的はこれ。

魔法でドラゴンを呼び出して友達になるため。

せっかくファンタジーの世界に来たんだもの。そのくらいやったってバチは当たらないでしょう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る