2-5
私はぞっとして身震いした。
ドレッサーの鏡に映って困惑している姿は、食べられる前に見た金髪の女の子。見慣れない姿形だけれど、これが私自身。瞳の色は青くて色白。濡れたはずの体も服も今は綺麗に乾いている。舐められた跡はない。
くるりと回って背中を見せると、鏡の中の女の子も同じように回る。
(やっぱり私なんだ。これは夢じゃない……でも、だったら何で……?)
不意に外に出られるドアを見付けたのは、自分の姿を確認しながら壁伝いに部屋を見終わって最後のところだった。
(……ここから外に出られるの?)
外ではなく隣に続く部屋があるようならば、また違う部屋を調べればいい。
私は恐る恐る扉に手を掛けると、思いきって一度頷く。ドアがあるからには先に進めるのだから、先を見に行くしかない。この部屋で調べられる所は一通り見て、手掛かりが何も無かったのだから。
息をとめて決心。ドアノブを回して両手をかけ一気に扉を押し開けた。
「は……? え、えぇ…………?」
視界に広がったのは隣の部屋ではなく外の景色だった。
しかし、外といっても正しく外との表現は出来なかった。
ドアを開いた向こう側にはまごうことなく。
此処が生き物の体内であることを思い出させてくれた。
内臓を連想させる赤い肉の分厚い壁が広がっている。
無数の血管を浮き立たせ、どくどくと脈動しながら空間のずっとずっと奥先、見えない暗がりまで果てしなく長く続いていたのだった。
だから、部屋には窓が無かったのだろうか。私に現実を忘れさせるために、部屋を作った人が配慮してくれていたのだろうか。
扉を開けたことを後悔したが、私には現実を受け入れるほか無かった。
扉から抜け出て一歩を踏み出せば、ぬちゃりと靴底が地面に沈む。
壁が肉で出来た壁なら地面ももちろん同様に、部屋の敷居を跨いだ向こう側は赤く滑り気を帯びた臓腑で出来た地面だ。
履かされていた靴は幸い数センチの高さがあったので、そのままめり込んで足をとられてしまうことはなかったが、感触が何とも気持ち悪い。
振り返って見れば、私が今まで居た部屋はショールームのようなつくりになっていたことが解った。
まるで人形遊びの人形のように、家具の入った四角い部屋にいたのだ。
ただし、その外壁は植物の根のように絡み合う肉に覆われていて、今にも取り込まれてしまいそうなほどしっかりと固定されていた。
大きな木の上に家を造るのとはまた違い、木の根っこの中に家を建てたようなそれは悪趣味な外観だった。
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