2-6

(うわぁ……。私、今まであの中にいたんだ……気持ち悪い……)


思い返して混み上がってきた吐き気を抑えていると、どこからか、


「きゅきゅーっ!」


と、高い悲鳴のような鳴き声が聞こえてきて。

慌てて後ろを見ると、両先端が細まった人の腕ほどもある巨大なミミズが、白い毛玉に巻き付いてもんどりうっていた。


「ぴーっ! んぴぴーっ!」


悲鳴を挙げているのは絡み付かれている毛玉の方だ。

一抱えくらいの大きさで丸い頭がついた毛玉が、ミミズの締め付けに抵抗して暴れている。

毛玉は私が気付いたことで鳴き声を発し、きゅるんとした大きな赤い目で私を見上げて訴えてきた。


「わ! なに、あなた……私に助けてって言ってるの?」


「ぴきゅ!」


長い睫に縁取られた涙目を必死に見開いてこちらを見られ、放っておくわけにはいかなくなってしまう。返事もしてくる毛玉なのだ。助けてあげよう。

慌ててミミズを蹴飛ばすと、気持ち悪い肉感が片足に再び。


(うええ……っ。勘弁してぇ……)


私の蹴りを受け、衝撃に驚いた目玉の無い方の虫は毛玉を放り出し、急いで肉の地面に噛み付き穴を開け逃げていった。


「ゆぴぃ……ぴゅ、ぴゅきゅ……」


「はいはい。良かったね……」


「んーぴっ!」


ミミズから解放された毛玉は、ころんと私の足元に転げて安心したような声で鳴く。お礼を言っているような気がするけれど、きゅうきゅうぴゅうぴゅうの音だけで何て言ってるかは解読不能。

鳴く度に大きな目の上辺りについた二本の短い触角がぴこぴこ動いている。

猫くらいの大きさのふさふさ毛玉は、遠くで見たら動物だったが近くで見ると少し虫っぽくもあった。何かの幼虫や毛虫のような外見だと言えばそうにも見える。迂闊に触らない方がいいかもしれない。


「きゅー、んぴぴ。ゆーゆっ!」


「何言ってるかわかんないよ~」


距離を離したつもりだったのだが、毛玉の方から私に近付いてきて。呼ぶような声に思わずしゃがみこんでしまうと、頭を私の手にくっ付けて頬ずりをしてきた。

手を中心に丸まってもふもふの長い毛で擦り寄ってくる。

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