1-5
大振りに手を振り上げ、叩いて音を出す。
なんとか魔物を振り向かせようとして体を乗り出す。
と、
「わっ、わわわっ!?」
足を滑らせて高台から落ちそうになってしまい、慌てて崖端を掴んだところ。すぐに足場が現れて、私は受け止められていた。
怪物の大きな手の平の上という足場に。掌じゃなくて指先だったかもしれないけれど。
「きゃっ……た、助けてくれたんです、か……? えっと……」
呼び掛けたのは自分のほうだったのに急に意識を向けられ圧倒されて思わず後退りをしてしまう。
怪物は人の言葉を話せないようで、手の上の私を見つめているだけ。赤い複数の目。その視線が全部私に注がれている。
何か言わなくちゃ。悪寒がする程怖いけれど。誰が見ても普通の状況じゃないけれど。
「わ、私はその……上から落ちてきてしまって、ええと……あ、あなたは……? ……!」
何かに見上げられているような気がしふと下を見る。
魔物の長い体とそれを浸けている黒い水の暗い大きな水溜まりがあって、自分以外の人気は感じられないのに。
「な、なに…………?」
私を見ているのは人でも人の亡骸でもなかった。
水面から抜け出て怪物の体を這い上がってくる別の生き物たちがいたのだ。
無数の赤い目と灰の体、忙しく蠢く虫の足。がちがちと鳴らされながら迫る牙の音。一つではなく、二、三匹でもない。寄り集まり湧いてくる黒い影のざわめき達に息を呑む。
尺体をうねらせながら怪物の体を登りこちらへ集まり近付いてくる何十匹もの蛭虫のようなものを認識して、悍ましさに背筋が凍りつく。
夢の中で覚めたばかりなのにまた夢の中で意識を手放すってどんな感じなんだろう。
今がそれみたいで、冷静でいられなくなっている私は大群の虫を目の当たりにしたショックで気を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます