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小さな小さな星屑のように映っていた人々の亡骸を見る間も無く、静かに穏やかな波に泳がせ呑み込んでいった口は、最後に輝きの消えた水面を一瞥。
他に捕え喰らえるものがないことが解ると、ゆっくりと花弁口腔の円の内側奥底へ蔦の身を退いて行く。下側の口腔も上に備わったものと同じく口を綴じて絞るように唾液を噴き出したあと頚をもたげて収まった。
大人しくなった下半身の双口を見下ろす上半身の灼眼と双口の真横の獣瞳孔の目が細められ、化物が思案するような表情を見せた。
「ひっ……あ、あのぅー……うんと……」
今なら話が出来るかもしれない。なんて思えるのはその大化物の頭の位置が私のいる足場の高さ丁度だったから。
そもそも人語が通じるかすら解らない。
此処へ落ちてきた者の遺骸や漂流物を一つ残らず食べてしまった恐ろしい怪物。目の前にいるのはそんな規格外の何かだ。
強大で不気味な山岳のような外見の相手に何かを伝えようと、落ちてからようやく動くことに馴れた足を私は動かして近付く。
牙の一本ですら人一人以上の大きさで、鼻先に近付いただけでも圧巻だった。単純に、純粋に怖い。
予想はしていたけれど、怪物は私に気付いていないようだった。
それもそう。大きさが違いすぎる。怪物からしたら私なんて小虫程度に映ればいいほうなんだろう。
私一人の小さな小さな呼び掛けでは気をひけそうになかった。囁きにすらなれそうもない。
「……あのっ! ちょっと、いい、ですか……!!」
私は思いきって声を張り上げた。
伝わるかどうかも解らない言葉で、虫が飛ぶ音より細くて高い声で。
相手が気付いてくれるとは思えなかったけれど、私の精一杯をお腹と喉から吐き出してみた。
米粒大の私を見付けて貰えるとは思わなかった。
でも、化物は私の存在に微かに気付いてくれたみたい。私を探しているようだ。
複数ある目を歪ませ細めてぎょろりと辺りを見回し、頭の先を傾げるようにゆっくりと捻って見せている。
「こっち! こっちです、私! ここにいるの!」
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