3-3
「あの……此処がエルトダウンさんのお腹の中なら、どうして貴方自身が此処にいるんですか?」
「この姿は内臓の一部さ。人間を真似て擬態させているだけだよ。君が気にしないのなら、その辺りの壁に口だけ生やして話すことも出来るけれど……そのほうが良かったかな?」
「いえ。今のままでいてください」
多分、肉壁を伸ばして唇だけで会話なんてされたら卒倒していた。絶対口をきくまえから気を失っていた。
「私の実際の体は君も入る前に見た通り。深淵……と、地上の人々は呼ぶそうだ。人々の穢れが集まる湖の遺棄場が私の住処でね」
「とても大きかった……」
「君たちからしてみればきっと途方もなく大きな体だ。不気味だったろう?」
彼の自嘲に私は何故だか正直には答えられなかった。
正直に、というにはどうだろうか。と感じられるほどに、自分が見たままの巨大な怪物を不気味だと思わなかったのだろうか。確かに、体を登ってきた奇妙な虫の大群は不気味ではあったし、水面に浮かんだ死骸を食べる様子も気持ち悪いとその時は思った。
けれども、足を踏み外した私を受け止めてくれたことやキュリオフェルの発言を諭してくれていたことを思い出すと一概に、不気味の一言で彼を表現するのは違う気がする。
「そんなことない……っていうのは嘘になっちゃいますけど、多分、その……それだけじゃないって思ってます。こうしてお話ししてみなくちゃわからないから。エルトダウンさんのこともっと知らなくちゃ、って……」
「君は変わっている……いや、感性が豊かなんだね。状況を受け入れてなお冷静でいられる度胸もある」
確かに、置かれている状況を見たら普通の女の子ならきっと泣き出しているだろう。肝が座っているという意味の変わっているなら私だってそう思うわ。
「ありがとう。私も君のことが知りたい」
言い直した後、エルトダウンは少し嬉しそうに微笑んだ。
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