3-2
「え、えっと……な、何か付いてます私の顔……?」
「ぴひゅ!」
私が困っているのを察したのだろう。メナちゃんが腕の間でぴょこんと背伸びをして私と彼の距離を離してくれた。ぐっじょぶメナちゃん。
「すまない。同じ目線で人間を見るのが久しぶりだったので、つい……」
理由の言い方がもう自分は人間ではありませんを表して全く隠さないエルトダウン。
聞きたいことは山程あるが、私が口を開くより先に彼が後方を指差した。
「ところで、ユーレカ。部屋は気に入って貰えたかな? 何か足りない物は無いかい?」
なるほど、やはりあの不思議な居住空間を用意したのは私だ。と、その質問で彼のしたことの大体は理解が出来た。
自分の腹の中に女の子を閉じ込めておくために、女の子が想像する理想の暮らしのお部屋についてリサーチし予め準備をしていたから出来る発言だ。私は一人で納得した。
確かに、私がやって来ることを想定して何もかも新品で一式揃えられ、細かな気配りも出来ていた。
あの部屋に住むには何の不満もない。部屋から一歩出れば内臓感丸出しで、それを見せないために窓が無いことを除けばだが。
そもそも、部屋が良ければ済む問題ではない。住まいの問題ではないことに気付けよ。と、私は反抗心から敢えて言う。
「たっくさんあります! 全然足らないです!」
「そうか。それは配慮が至らず申し訳ない。では、近いうちに一緒に街へ買い物に行って揃えてこよう」
いや、でもね。そうじゃあないんですよ。と、苦笑いをするつもりだったのだが笑みが真顔になってしまった。
意外な返事だった。てっきり文句を言わずに部屋にいろと返され、これから軟禁されるものだと思っていた私は間抜けな声を出す。
「えっ? そ、外に出してもらえるんですか? っていうか出られるんです……?」
「勿論だとも。必要なものがあるなら街で探さなくてはいけないだろう? 私にも仕事があるから、いつもというわけにはいかないけれど……」
それが当然といったように頷くエルトダウンに私は肩透かしをくらった。頭のなかで鳩が豆鉄砲を受け止めてぱくぱく食べだしてる。
答え方が変質者や誘拐犯のものではない。休日にショッピングに連れていってとおねだりする娘を甘やかして車を出してくれるお父さんのそれではないか。
動揺する私の胸元でメナちゃんは呑気に揺れて笑っている。
「メナちゃん……」
「メナちゃん?」
「は、はいっ。その、この子の名前……」
ふかふか毛玉を、きゅっ。と鳴かせて抱き留める。
「それは単に短くしただけでは……」
その通りです。名前長くて聞き慣れなくて一度では覚えられなかったので。
そう返したくなる気持ちを留め、にっこり笑顔になったメナちゃんを差し出すとつられてエルトダウンも微笑んだ。案外普通に笑うみたい。
先程から意外や案外が連続していて、突っ込みが追い付かないな。
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