3-7
「あーなるほど。これかぁ……」
気になって私が手に取ったのはちょっと古くさい少女漫画。全編日本語だし、裏表紙にはご丁寧に600円と日本円で値段も書いてある。
数ページ飛ばし読みをして目についたのはその作品の中の一人のキャラクター。
主人公のお姫様を王子様から横取りしようとする美形の悪役で、細身に黒髪、鋭い目付きをしていて強い魔法を扱う男性。その外見が、擬態しているといっていたエルトダウンにそっくりで私は注視してしまった。
何で王子様の方じゃなくて魔王みたいなキャラクターを真似て化けようだなんて彼は思ったのだろう。
理由を探るようにして話を読み進めていくと、意地悪で王子様との間を引き裂く悪役だと思っていたそのキャラクターが段々魅力的になっていき、ついにはお姫様を王子様から奪って目の前でキスをしてしまうことに気付いた。なんだかむず痒くなってきた。何で私が。
漫画に夢中になっているうちに寝落ちをしてしまったらしい。
私はドアに何かがぶつかっている音で目が覚めた。
バンバンッ! バンバンッ!
「な、なに?! 誰?! エルトダウンさん?」
その割には不規則で乱暴な音。到底、人の拳で叩いている音ではない。
と、音が一瞬止んで、
「んぴぃーっ! んぴぴー! ぴゃー!!」
聞いたことのある鳴き声。続けてまた、バンバンッとドアに体当たりを続けるその生物。
「め、メナちゃん?!」
「ゆーゆぴ! ゆーゆぴっ!」
慌ててベッドからおり、ドアを開けるとふさふさの毛を纏ったウサギサイズのそれがぴょんと大きく跳ね上がって私の腕に飛び込んできた。
「私に会いに来てくれたの? あなた、仲間のところに帰ったんじゃ……」
「ゆーゆぴっ! ゆーゆぴ……!」
抱き留めながら話し掛けてみるけれど、私の言葉を遮ってメナちゃんは何度も名前を呼んだ。
何をそんなに慌てているのか。よしよししながら顔をみるとドアにぶつけた痕が額についており、それに気付かれたのが恥ずかしかったのかささっと顔を私の胸に埋めて傷を隠した。
「メナちゃん、こんなになるまで呼んでたの? ごめんね。すぐ気付いてあげられなくて」
「んっぴゃっ。 ゆーゆぴ、んぴぴ」
何か言っているがメナちゃん語検定未履修の私に彼女の言葉はわからない。そもそも彼女でよかったんだっけ。
毛並みにそって丸まった背中を撫でると心地良さそうに笑って落ち着いてくれたみたい。
またミミズみたいな魔物か何かに追われていたというわけでもなくて、純粋に私を呼んでドアに繰り返し体をぶつけていたから興奮してたんだ。
「んぴぴぃ……」
「でも、嬉しいや。ありがとうメナちゃん。会いたかった」
なんだかほっとしてしまった。
もう会えないと思っていた私の異世界でできた小さな小さな友達は、私のことも友達だと思ってくれたのかな。
別れたときは何も感じていないようだったのに、こんなにも必死になって私にあいにきてくれた。
メナちゃんがとてもいじらしくて愛らしい。自然とだっこする手に力が入ってしまった。
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