第15話 未来

眩しい朝日の光で目が覚める。


一糸まとわぬ姿のままソファーで寝てしまったようだ。


隣を見ると相馬さんが眠っている。


相馬さんの胸にそっと顔を乗せると体温が伝わって温かい。


しばらく胸に顔を当てていると、ぎゅっと抱き締められる。


「おはよう。」


相馬さんの声が頭上から聞こえる。


昨日のことが思い出され、恥ずかしくて顔を上げられないでいると


「俺を無視するなんて大した度胸だな。」


と言って、胸に乗せていた顔をぐっと引き寄せられる。


朝からディープなキスが降ってくる。


おはようと言っているかのように、相馬さんの舌が私の舌を絡めとる。


こらえきれず声が漏れてしまう。


相馬さんの手が伸びてきたところで、はっと我に返る。


起きてから時間を確認していない。


相馬さんを押しやって、慌ててスマホを確認する。


とんでもない時間に悲鳴が出る。


「そんな声出してどうしたの?」


相馬さんが呑気に聞いてくる。


「呑気なこと言ってる場合じゃないですよ。時間見て下さい。このままじゃ仕事に遅れちゃう。」


「だって今日は日曜日だろ。仕事休みだろ。」


「それでも秘書ですか。私のスケジュール把握してるはずですよね。今日は雑誌の取材がある日ですよ。」


慌ててシーツを掴んで体を隠しながらソファーから降りようとする。


相馬さんに掴まれて、再びキスをされる。


「ちょっと急いでるって言ってるじゃないですか。」


相馬さんを引き離す。


「昨日言っただろ。敬語使ったら罰を与えるって。」


こんな時まで呑気なことを言っている相馬さんに呆れて笑えてくる。


ソファーから出る前に私からも軽くキスをする。


驚いた顔をしている相馬さんを残して、昨日脱ぎ捨てた服を拾い集める。


余りに生々しい部屋の状況に苦笑いがこぼれる。


一度家に寄っている時間もないので、昨日来ていた服をそのまま着る。


「洗面所使って。新しいタオルと歯ブラシ出しておいたから。」


相馬さんに声を掛けられ、慌てて洗面所に駆け込む。


顔を洗い用意してもらったタオルで軽く拭き、歯磨きをする。


持ち合わせの化粧品しかないので、軽く化粧をする。


洗面所を出ると、Tシャツとジーパンに着替えた相馬さんが立っている。


毎度ながらスーツ姿ではない相馬さんにドキドキする。


「用意できたね。送って行くよ。三和出版で良かったよな?」


まさか送ってくれるとは思っていなかったので、嬉しさから笑みがこぼれる。


「ありがとう。助かる。」


2人で家を出る。


結婚して一緒に住んだら毎日こんな感じなのかな。


飛躍した自分の考えに恥ずかしくなり、ぶんぶんと頭を振る。


「どうした?頭振ってなんかあった?」


心配そうに私を見る相馬さんの視線に気付き、恥ずかしくなる。


慌てて助手席の扉を開けて車に乗り込む。


「腹が減り過ぎて、おかしくなったか。」


相馬さんは、からかうような表情で私を見る。


「そんなんじゃありません。」


「罰1。」


そういうと相馬さんの唇が降って来る。


いきなり敬語を使わないなんて無理だ。


いっそのこと敬語使えばキスしてもらえるなら、ずっと敬語を使ってやろうかと心の中で思う。


「これ、着くまでに食べて。」


私が心の中で考えていることなんて知る由もない相馬さんが、パンを渡してくれる。


「ねぇちゃんが売れ残ったパンを押し付けてくるから、冷凍してるんだ。一昨日もらったやつだから、食べても大丈夫。」


そういってクロワッサンにハムとチーズが挟まったパンを渡してくれる。


私が着替えて化粧している間に作ってくれていたようだ。


相馬さんの女子力の高さには脱帽する。


「ありがとう。」


一口食べるとクロワッサンのバターの香りが口に広がる。


思っていたよりお腹が空いていたようであっという間に食べ終わる。


「お腹すいてたんだな。もう一個作ってこればよかったな。」


「あんまり美味しかったから、一気に食べちゃった。」


「また作ってあげるよ。ところで、今日終わるまで待ってようか?」


今日は真理と一緒で、その後ご飯に行く約束をしていた。


約束なんてするんじゃなかったと悔やみながら、


「今日は真理と一緒で、その後ご飯に行く約束してるから帰りは大丈夫。」


「それは残念。今日も家に連れて帰ってこようと思ってたのに。」


いたずらそうに笑いながら相馬さんが答える。


昨日の情事が再び思い出され、一人赤面してしまう。


他愛もない話をしているうちに三和出版に着いてしまった。


真理が待っているのが見える


「ありがとう。また月曜日会社で。」


そう言って車を降り、真理の方へ急ぐ。


「真理、おはよう。」


私の声で真理が気付き、こちらを見るも驚いた顔をする。


「あら、相馬さん。おはようございます。」


私に挨拶するのではなく相馬さんに挨拶している。


慌てて後ろを向くと相馬さんが立っている。


「真理さん、おはようございます。」


「ちょっと凛、何で2人で登場してるの?今日相馬さんも一緒だっけ?」


真理にバレてしまいそうで慌てて、


「今日相馬さんも一緒だと勘違いしてて、声をかけちゃったのよ。」


適当なこと言ってしまったけど、感が良い真理にバレやしないかひやひやする。


「取材に同行するにはラフな格好ですね。」


相馬さんのTシャツジーパン姿を見て真理が怪しそうに私を見る。


もっとマシな言い訳を言えば良かったと思うも、後の祭りだ。


「それに凛、昨日と同じ服よね。」


今度は私の服を見て、何かに気付いたようにニヤニヤし始める。


何か言っても墓穴を掘るだけのような気がして何も言えないでいる。


「凛、正直に言いなさい。昨日何があったか。」


相変わらずニヤニヤしながら真理が私と相馬さんを交互に見ている。


「内緒にして下さいね。俺が社長に惚れてて、昨日ゲットしました。」


相馬さんがいきなり手を繋ぎながら、爆弾発言をする。


そして繋いだ手を真理に見せるように上にあげる。


「ちょっと、何を、そんなわけ、、」


動揺しながらも、繋がれた手を解こうとぶんぶん振る。


「凛、現行犯よ。現場が2人は付き合ってるって言ってるようなものじゃない。よかったわね。相馬さんのことずっと好き好き言ってたから。」


好き好きなんて言ってないし、こんどは真理のとんでも発言でさらに動揺してしまう。


「真理さん、凛は俺のこと好きだったんですか?」


嬉しそうに相馬さんが真理に聞いている。


「ちょっと、そんなわけないでしょ。」


慌てて訂正するも、真理が続ける。


「凛だって。もうラブラブですね。そうなんですよ、履歴書見た時からタイプだって言ってて、入社してからはぞっこんだったんですよ。」


ありもしないことを言う真理に焦る。


「ちょっと真理、でたらめ言わないでよ。もう時間がないから行くわよ。相馬さん、ありがとうございました。」


とにかくこの場を離れようと真理を引きずるようにして出版社の入り口に向かう。


入口に入ってエレベーターを待つ時間にギロリと真理を睨む。


「ちょっと真理、いい加減なこと言わないでよ。」


「ごめんごめん。だけど、ほぼ事実でしょ。いつの間にそんなことになってたの?」


エレベーターが到着して乗り込む。


「昨日よ。まさかこんなことになるとは思ってもいなかったわ。」


「やっぱり相馬さん彼女いなかったのね。」


「そう、私の勘違いだった。」


「ちゃんと確認して良かったわね。続きは、夜に聞くわ。」


それから一日がかりで新作の水着の撮影が始まり、あっという間に時間が過ぎていく。


「お疲れ様でした。ありがとうございました。また次回作も期待してますね。」


「こちらこそありがとうございました。また次回も是非よろしくお願いします。」


無事撮影も終えて、担当者さんに挨拶をして出版社を後にする。


「近くの和食屋さんでいい?」


毎回撮影が終わると寄る店に向かう。


お店に入り適当に注文を済ます。


待ってましたと言わんばかりの勢いで真理が問い詰めてくる。


「ちょっと、凛。昨日何があったか話なさい。」


前のめり過ぎる真理に笑えてくる。


昨日あったことを一通り話す。


途中、真理が携帯を触ってニヤニヤしていたが、彼氏からの連絡だと思って特に気にしなかった。


「とにかく上手くいって良かったわ。」


自分のことのように喜んでくれる真理が嬉しい。


相馬さんと私のことで真理との食事は大いに盛り上がり、あっという間に時間が過ぎていく。


真理が携帯をいじり始める。


「凛、そろそろ行こうか。あんまり凛を独占してると怒られそうな気がするし。」


私を独占して怒る人なんかいないよなと思いながら、


「明日も仕事だしね。今日はありがとう。」


お支払いを済ませ、店の外に出る。


「お待たせしました。凛を借りてしまいまして。」


真理が声をかけている人物を見て驚く。


「なんで相馬さんがここにいるの?」


「凛と片時も離れたくないって相馬さんから連絡がきたから、お店の場所と終わる時間を連絡したのよ。」


話の途中でニヤニヤしながら携帯をいじっていたのは、相馬さんと連絡していたのか。


「真理さん、そんな言い方辞めて下さいよ。」


恥ずかしそうにしながら、相馬さんが苦笑いをしている。


「お邪魔虫はここでおさらばします。また明日会社で~。」


楽しそうにしながら、真理も迎えに来ていた彼氏の車に乗り込んで行ってしまった。


若干の気まずさもあり、相馬さんに抗議する。


「連絡なら私にしてくれればいいでしょ。わざわざ真理にしなくても。」


「俺が連絡しても、店の場所と時間言わなかっただろ。」


図星だ。


もちろん今日も会いたいと思ってたけど、重い女と思われるのも嫌だったから、迎えに来るって言っても断ってた。


「さぁ、行こう。凛の家の住所教えて。送っていく。」


私の家に送って行くという言葉を聞いて、今日も一緒にいれると思っていたから、心底がっかりする。


住所をナビに打ち込み、車が出発する。


一緒にいたいと言うべきか、言ったら重い女だと思われるかと悶々と考えている間に家に着いてしまった。


「ありがとう。また明日会社で。」


もっと一緒にいたいと言えばいいだけなのに、それが言えない。


そんな気持ちもあって、涙が出そうになる。


慌ててドアを開けて出ようとすると、相馬さんに掴まれる。


「帰るの?会社に行く服2~3着とパジャマを取りにきただけのつもりなんだけど。」


相馬さんの言葉に嬉しくなって顔を上げる。


「服取ってきたら、俺の家に帰るから。何着か持ってきてよ。俺、しばらく凛のこと帰せなさそうだから。」


嬉しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になり、心臓が大暴れする。


「そんな可愛い顔されたら我慢できなくなる。真理さんが言ってた、俺の事大好きだってこと本人からも聞かなきゃいけないし、早く行ってきて。」


今朝の真理の発言を思い出し、更に恥ずかしくなる。


「急いで取ってくるから待ってて。」


誤魔化すように車から降りて、家に向かう。


鞄に数着の服とパジャマを詰め込む。


これからの私達の未来の期待も胸に詰め込んで、相馬さんの車に向かっていく。



ーENDー

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秘書に恋する KEI @kei8787

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