第11話 気になるスマホ
携帯を気にしつつも、あっという間に土日が終わり月曜日を迎えていた。
結局相馬さんには返信せず既読スルーの状況。
相馬さんに会ったらどんな顔して会えば良いのか。
相馬さんから何か言われるまで気にしないようにしようと思い、会社に向かう。
会社に着き、フロアを覗くと既に相馬さんが来ている。
妙な緊張感が全身を走る。
相馬さんに気付かれないように、デスクに向かうも気付かないなんてことはありえないことで、
「おはようございます。社長。」
相馬さんが何かいいたげな顔してデスクに寄ってくる。
返信しなかったことについて、何て言い訳しようかと頭を巡らせる。
ちょうど別の従業員から声をかけられる。
「急ぎの用事ですか?先にあっちの問題を解決したら、また声をかけさせてもらうので。」
と、相馬さんの返事を聞く前に、声をかけてくれた従業員の方へ近寄る。
ちらっと相馬さんを見ると相変わらず、何か言いたげな顔をしているが自分のデスクに戻って行った。
こんな調子で午前中は相馬さんから話かけられそうになると、用事を作っては避けていた。
相馬さんから鋭い視線を感じるが気付かないふりをしている。
仕事をしながら、相馬さんの動きを察知するのは非常に神経を使うことだったようで、午前が終わる頃にはどっと疲れてしまっていた。
このままでは午後持たないと思いながら、生地のサンプルが欲しくて倉庫に向かう。
向かいながらも、いつまでも相馬さんのことを避けられるわけないから、昼休みにでも潔く自分から懺悔しに行こうか。
むしろ相馬さんのセカンドになるつもりは無いとキレてやろうかと色々考えながら歩いていた。
あまりに真剣に考えていたから、会議室のドアが開いたこに気付かなかった。
ぐっと腕を引っ張られ、気付いたら会議室の壁に押し付けられていた。
左手で私の腕を壁に押し付けて、右手でドアの鍵を閉めている人物は、午後に宣戦布告してやろうと思っていた人だ。
鍵を閉め終わると、私の顔の横に右手をつくとジロリと睨みつけてくる。
クソ真面目で普段から能面な男が感情をあらわにしている。
こんな状況にも関わらず、相馬さんの顔が近く心臓が暴れ始める。
「ちょっと、何の用ですか。」
「何の用ですか、じゃありませんよ。こうなってる理由は社長が一番分かっているかと。今日俺のことずっと避けてますよね。」
怒りの滲んだ声で相馬さんが言う。
「そんなことないですけど。」
「ねぇ、俺にいう事ない?」
いつもの敬語じゃないし、クソ真面目な秘書でもない。
怒っている姿も妖艶に見えてしまう私は重症かもしれない。
「何でしょうか。仕事のことで連絡漏れとかはないかと思うけど。何か忘れてましたか。」
「仕事のことじゃない。俺達のプライベートなことだよ。」
俺達という言葉に心臓が飛び跳ねる。
「俺達って何よ。土曜日、朝早くからありがとうございました。気分転換ができて良かったわ。」
「お礼が言って欲しいんじゃないんだけど。」
と言いながら、顔をぐっと近づけてくる。
心臓の音が相馬に聞こえてしまっているだろうと思うほど、大きな音で心臓が暴れている。
正面から顔を見ることができず、顔を横にずらす。
すかさず相馬さんが右手で私の顎をつかみ、再び正面を向かせる。
目の前に相馬さんの顔がある。
掴まれた顎が熱を帯びて来る。
「あんまり悪いことしちゃだめでしょ。なんで返信しないの。」
私の顎を掴んだまま、怒りを含ませた低い声だ。
「ごめんなさい。色々忙しくて返信しようと思ってたら、すっかり忘れてました。」
「ポップアップも終わったばっかりの休みだから、忙しいわけないでしょ。俺と駆け引きしてるの?」
何を言いたいのかよく分からない。
「駆け引きって何ですか。本当に忘れてただけ。返事なら今します。今週末は土曜日のお昼なら予定がないです。」
「最初からそうやって返信すればいいかと。変な駆け引きはしないで下さい。」
とまだ怒りが収まらないのか、怒った顔をしている。
「さっきから駆け引き、駆け引き言ってるけど、そんなつもりないので。そもそも、私は相馬さんのセカンドになるつもりは全くないから。」
LINEを無視した私も悪いけど、一方的に悪者にされている状況に私も怒りが込み上げてくる。
「セカンド?なんのこと?」
とぼけたふりして聞いてくる相馬さんが憎らしい。
「彼女がいるくせに気をもたせるようなこと言わない方がいいわよ。」
怒りに任せて相馬さんを睨みつける。
「彼女?俺に彼女なんていないけど。」
まだとぼけようとしてくる相馬さんにイライラする。
「とぼけないでよ。土曜日はお礼をしてもらってないから、付き合うけど、これ以上はないから。」
イライラに任せて、叫んでいた。
言ってしまってから後悔するも撤回できるわけもない。
これ以上、相馬さんと話しているともっと余計なことを言ってしまいそうだったので、掴まれた左腕を振りほどいて腕をすり抜ける。
それでも相馬さんは私の腕を掴み、引き寄せてくる。
今度は体が密着するほど近い。
会社の会議室で何をやっているんだろうと、何故か冷静になりつつも心臓は大暴れしている。
「彼女なんかいない。なんか勘違いしてますよ。土曜日の待ち合わせは後でLINEします。今度は無視しないで下さいね。」
抱き寄せられ体が密着しているので、間違いなく私の心臓の音は相馬さんに聞こえている。
そう思うと恥ずかしさが込み上げてくる。
慌てて体を放して鍵が閉められたドアを開けて廊下に戻る。
ドキドキしている心臓を感じながら、生地サンプルのある倉庫に向かう。
途中、振り返ってみるも相馬さんが追いかけてくる様子はない。
倉庫に入ると、一気に体の力が抜ける。
さっきの相馬さんは何だったんだろう。
間違いなく怒ってはいたけど、既読スルーしたぐらいであんなに怒るなんて。
しかもあんなに綺麗な彼女がいるのに、彼女がいないと言い張るのも嘘が下手過ぎる。
さっき引き寄せられたときに香ったシトラスの香が鼻の奥に残っている。
香りのせいで、相馬さんに抱き寄せられた場面が頭をよぎる。
彼女がいるくせに、あんなことするなんて許せないし、絶対セカンドになるつもりもない。
土曜日を最後にきっぱりプライベートの縁を切ろうと決意した。
サンプルの生地を見つけたものの、相馬さんと顔を合わすのが気まずくて、昼休みになるまで倉庫でごそごそしていた。
昼休みになり、少し経ってからドキドキしながらデスクに戻るも、既にフロアには数人がデスクでお昼を食べている人がいるだけで相馬の姿はない。
ホッと胸をなでおろすと、非常食用に置いてあるカップラーメンをデスクの引き出しから取り出すと、給湯室でお湯を入れる。
出来上がりを待っている間、さっきのことが思い出される。
クソ真面目な男が感情を露わにして、敬語じゃなくしゃべる姿は惹かれるものがある。
彼女がいるしセカンドになったら幸せなことなんてない、と自分に言い聞かすも、さっきの相馬さんが頭から離れない。
気もそぞろにカップラーメンを食べながら、午後からどんな顔して秘書に会えばいいのか悩ましかった。
気を紛らわせるために他社の今期の水着を調査しようと、ネットサーフィンをするも集中できない。
そうこうしているうちに昼休みが終わる。
どんな顔すれば良いかそわそわしているものの、相馬さんが戻ってくる様子がない。
おかしいと思いつつ、ホワイドボードを見ると仕入れ先に外出していて直帰と書いてある。
ホッとしたような残念なような、なんとも複雑な気持ちだ。
相馬さんがいないおかげで余計な気を遣わなくて済んだので、午前中に停滞していた仕事も含め午後は順調に仕事が進んだ。
少しでも手を止めてしまうと、さっきの相馬さんが思いだされるので無心で仕事をした。
結局相馬さんはホワイトボードに書かれた通り会社に戻ってくることはなかった。
終業時刻を過ぎて、ぱらぱら従業員が帰っていく。
午前中、仕事が捗らなかったせいもあって、残務処理が残っていたのでそれを終わらせて帰ろう。
どんどん従業員は帰っていき、気付いた頃には私一人になっていた。
会議室で繰り広げられた事を思い出しては、一人赤面してしまう。
そういえば、土曜日の約束はLINEするって言ってたよな、と思い出し携帯を見てみるものの相馬さんからの連絡は入っていない。
気になりつつも、明日には連絡くれるだろうと思いスマホを鞄にしまう。
すっかり遅くなってしまったので、帰ってからご飯を作る気が起きない。
冷蔵庫にハムとチーズがあったはずだから、この間のパン屋によってクロワッサンを買って帰ろうとお店へ向かうことにした。
パン屋に向かう途中、ふわふわさくさくのクロワッサンが思い出される。
閉店間際の時間につきそうだったので売り切れてると残念だと思い、急いでお店に向かう。
お店に着くと、やはり、誰もいない。
閉店間際なこともあるのかなと思いながら、カウンターに向かうと運よくクロワッサンが2つ残っている。
クロワッサンをトレーに乗せると、明日の昼ご飯に持って行こうと他のパンをいくつか選んでトレーに乗せる。
前回と同様にお店の奥に声をかける。
「すみません。お会計お願いします。」
同じように奥から店長が慌てて出て来る。
「すみません。っ、あれ?!また来てくれたんでんすね。」
「はい。とてもパンが美味しかったのですっかりファンになっちゃいました。」
「それは嬉しいな。またまた、お待たせしてごめんなさい。」
「全然待ってないです。閉店間際の忙しい時にすみません。」
「来てくれて嬉しいです。」
と他愛もない話をしてお会計を済ませ店を後にする。
店長がどうしても相馬さんと被ってしまう。
顔のパーツとかが似ているのかなと店長を分析しながら家に向かう。
家について手早くクロワッサンでサンドウィッチを作る。
食べながら、相馬さんから連絡がきているか確認するも、スマホは無言を貫いている。
これから土曜日まで、スマホに支配されるなんてこの時は全く思いもしなかった。
結局この日は相馬さんから土曜日の約束がこないまま朝が明ける。
朝起きぬけにもスマホを確認するも連絡はきていない。
昨日の一件から、相馬さんとは顔を合わせていない。
会社で顔を合わすのは間違いない。
昨日に引き続きどのような顔をして会えばよいのか分からない。
相馬さんが会社にが着く前に会社に行こうと急いで準備する。
昨日パン屋で買ったパンをお昼ご飯に食べようと鞄に詰め込む。
急いで会社に向かったおかげでフロアには誰もいない。
もちろん相馬さんも来ていない。
ほっと一安心するも始業までにはまだ時間がある。
コーヒーを淹れて、今期の受注状況を確認しようとシステムを開く。
今期の受注状況は昨年同様で順調だ。
会社も安定してきたから、来年は少し攻めたデザインと親子お揃いのデザインとかもいいな。
来期の事を考えるとわくわくする。
このわくわくを忘れるのは勿体ないと思い、メモを残そうとスマホを取り出す。
相馬さんからの連絡はきていない。
がっかりしながらも忘れないようにメモをしておく。
そうこうしているうちに社員がぱらぱら出社してきた。
いつ相馬さんがきてもいいように決済書類に目を通しながら忙しいふりをする。
出社してくる社員を横目で確認する。
決済する書類も残り少なくなってきた時に相馬さんが出社してくる姿が横目に入る。
心臓がどきどきしてくる。
いつもなら、相馬さんがデスクに座るときに挨拶してくる。
その瞬間に備えて小さく深呼吸をして心臓を落ち着かせる。
相馬さんが席に着く気配がする。
書類を見ているふりをしているので、姿は確認してないが気配で分かる。
いつ挨拶されるかドキドキするも、全く声をかけてくる気配がない。
そっと書類から目線を上げてみると、相馬さんは既にメールを確認している。
挨拶を聞き漏れしたかとも思ったけど、この近距離で聞き逃すわけがない。
急ぎのメールでもあったのかなと思いながらも、顔を合わす準備をしていただけに、緊張がほぐれる。
顔を合わす機会が次にあると思うとどっと疲れる。
その後も朝のミーティングでも言葉を交わすことなく、ただ時間が過ぎていく。
お昼休憩に入る、ちょっと前にその瞬間がやってきた。
「社長、明日の予定ですが、先程仕入れ先より面会の申し入れがあり、元々あった約束とどちらを優先させましょうか。」
全くいつも通りのクソ真面目な秘書が目の前に立っている。
昨日の出来事は何もなかったかのように。
あまりにいつも通りの能面秘書に、朝から気を張り詰めていた自分が馬鹿らしくなる。
「そうですね。元々あった約束を優先させたいので、仕入先さんとの約束はその後にずらしてもらって下さい。」
ドキドキしていた自分が馬鹿らしくなって、いつも以上にぶっきらぼうに答えてしまう。
そんな私をおかまいなしな相馬さんは
「承知しました。」
とだけ言って自分のデスクに戻ってしまった。
昨日の出来事に踊らされているのは自分だけかと思うと悔しくなってくる。
お昼を告げるチャイムが鳴ると、相馬さんは私に見向きもせず部屋から出ていってしまう。
そんな後ろ姿を見送りながら、昨日買ってきたパンをデスクに広げ、休憩室でコーヒーを淹れてデスクに戻る。
競合の会社の水着サイトを見ながらお昼を食べる。
やっぱり、あそこのパン屋のパンは絶品だなと思いながら食べ進めていると、あっという間に食べてしまった。
また近いうちに買いに行こうと思いながら、相馬さんから連絡がきているかスマホを確認する。
うんともすんとも言わないスマホが恨めしくなる。
午後からもいつも通り忙しく、相馬さんと接触する機会は何度もあるもいつも通りの能面野郎だ。
何も起きずに一日が終わってしまった。
スマホも秘書同様、能面野郎と化してうんともすんとも言わない。
ほどほどに仕事を切り上げて家に帰っても、相馬さんから連絡がきていないか寝る間でに何回も携帯をチェックしてしまう。
今日も相馬さんから連絡がくることはなかった。
来る日も来る日もスマホばかり気にするも、相馬さんからは連絡が来ず金曜日になっていた。
最早、会社で起こったことも土曜日の約束も私の妄想だったのかもしれないとも思えてきた。
「凛、おはよう。」
エレベーターを待っていると真理がやってきた。
「おはよう。」
真理は周りをきょろきょろ見渡し、周りに人がいないと確認するとと私に近寄ってきた。
「最近変よ。スマホばっかり気にしてるでしょ。相馬さんと何かあったの?」
「やっぱりスマホばっかり気にしてるよね。私どうかしちゃったみたい。」
「どうしたのよ。デスク行く前に休憩室でも寄って行こう。」
真理に引きずられるようにして休憩室にやってきた。
真理が手早く珈琲を淹れて手渡してくれる。
「それで何があったのよ。」
「関わらないと決めたはずなのに、気になってしょうがないの。」
「そりゃそうだろうね。ちゃんと確かめてからじゃないとって何度も言ってるじゃない。今からでも遅くないから自分の気持ち伝えてみたら?」
真理が呆れたような顔をしながらも、慰めてくれる。
「明日、相馬さんに誘われたと思ってるんだけど、全然連絡が来ないの。私の妄想だったのかと思い始めてるぐらいなの。」
「馬鹿じゃないの。さっさと約束確認すればいいだけじゃない。仕事のことなら猪突猛進でやるくせに、男のこととなると急に臆病になるね。そんな凛が可愛いんだけどね。」
「なんでこんな臆病になってるんだろうね。」
「自分が傷つくのが怖いだけでしょ。ほら、勇気だして。傷ついたら、ちゃんと私が慰めてあげるから。私の予想では傷つくことは起きないと思ってるけどね。」
「ほんとズバリ言ってくれるから気持ちが楽になる。真理ありがとう。今日中に聞いてみるよ。」
「仕事の時に見たいに前向きにね。それじゃぁ、今日も頑張りましょ。」
ぱらぱらと従業員が出社してきた様子を見て真理が休憩室を後にする。
真理の淹れてくれた珈琲の香りを鼻いっぱいに吸い込んでから、珈琲を啜る。
気持ちが落ち着く。
真理の言う通り、何事にも前向きに取り組まなきゃ。
今日中に明日のことを相馬さんに確認しようと心に決めて休憩室を後にした。
心に決めたものの、仕事はとにかく忙しかったので、あっという間に午前中が終わってしまった。
既にほとんどの人が昼食を食べに外に出てしまったので、社内はがらんとしている。
もちろん相馬さんの姿もない。
デスクで家で作ってきたおにぎりと唐揚げを食べながら、いよいよ気持ちが焦っているのを感じる。
約束は明日のはずなのに今の時点で何も連絡が来ていない。
私から確認しようと、何度もLINEのメッセージに文章を打ち込むも送信ボタンが押せない。
もしかして、全て私の妄想だったら恥ずかしいし、勘違いかもしれない。
相馬さんは大抵、15時頃休憩室にコーヒーブレイクに行くから、その時を狙って確認してみようと心に決める。
そんな決意を胸に午後の仕事をしていると、あっという間に15時を迎える。
相馬さんが休憩室に向かう後ろ姿を確認する。
少し時間を置いて私も休憩室に向かう。
休憩室に入ると従業員と談笑している相馬さんが目に入る。
確認しようと心に決めたのはいいが、他の従業員と話しているのにどうやって話しかければいいのか思案しながら自動販売機のボタンを押す。
取り出して気付いたが、栄養ドリンクを買っていた。
滅多に買わないのに無意識に買っていた自分に笑える。
この一週間、スマホを気にする時間が多くて、想像以上に気疲れしていたのかもしれない。
そんなことを考えながら、相馬さんのいる休憩スペースへそれとなく行こうと後ろを振り返る。
目に入ってきたのは、相馬さんがいない休憩スペースだ。
既に相馬さんは休憩室を後にしたようで、一緒に談笑していた従業員だけが残っている。
いつも通り、私が入って来たから出てしまったようだ。
どうせ切り出せなかったから、これで良かったんだと自分に言い聞かせる。
買った栄養ドリンクを一気飲みする。
いつまでもここにいてもしょうがないと仕事に戻ろうと休憩室を後にする。
会議室の前を通った時に、また腕を掴まれて部屋に引きずりこまれる。
引きずり込まれながら、これ前にもあったよな、デジャブか、と分析している自分がいた。
目の前にはずっと気になっている人物がいる。
「ちょっと何するんですか。」
この一週間、目の前の人物に踊らされていたかと思うとイライラしてくる。
掴まれた腕を解こうと、力を入れる。
「ずっとスマホ気にしてましたよね。俺からの連絡待ってた?」
余裕そうな声が頭の上から降ってくる。
声の通り、余裕そうな表情の相馬さんが目に入る。
「あなたの連絡なんて待ってないわよ。」
「この一週間ずっとスマホ気にしてるし、俺のことよく見てたでしょ。だから待ってたのかなと思って。」
と言うと相馬さんがぐっと顔を近づけてくる。
今にもキスしてしまいそうなぐらい顔が近い。
心臓がドキドキして顔も熱い。
思わす顔を横にずらしてしまう。すかさず秘書が私の顎を掴み、元の位置に顔を戻す。
前にあったことと全く同じ展開だ。
やっぱり妖艶な顔をした相馬さんが目の前にいる。
「社長、嘘はよくないですよ。俺からの連絡ずっと待ってたでしょ。」
「だから、何度も言うけど連絡なんて待ってなかったわよ。」
私の足の間に秘書の足が割って入ってくる。
掴まれた腕と顎に力が込められる。
至るところで相馬さんの体温を感じ、息をするのも苦しくなってきた。
「さすが社長だけあって、強がりですね。待ってなかったってことにしましょう。明日、海に11時待ち合わせでいいですか?サーフィンはしないので普通の服で来てください。」
相馬さんの息遣いを感じ、体の奥が熱くなる。
「分かりました。」
これを言うのがやっとだった。
「強がり言わずに正直に言った方が可愛いよ。」
と言いながら私の髪を撫でる。
その時指が耳に触れる。
体がゾクゾクする。
息をするも苦しくなってきた時、相馬さんの体が離れる。
苦しがっている肺に一気に酸素を送り込む。
私が肺に酸素を送り込んでいる間に相馬さんは何事もなかったかのうように、私に見向きもせず、会議室から出て行った。
相馬さんに踊らされている自分が情けない。
またからかわれた。
スマホばかり気にしていた私を笑っていたかと思うと、恥ずかしいし悔しい。
相馬さんに馬鹿にされていたようにも感じる。
イライラしてくる。
同時にさっきの秘書の息遣いを思い出すと胸がドキドキして顔が熱くなる。
耳に触れられた感触を思い出すと体の奥が熱くなる。
腹いせに土曜日すっぽかしてやろうかと思ったけど、一緒に出掛けられるという悦びには勝てないようだ。
いつまでも会議室にいるわけにもいかないので、深呼吸をして気持ちを切り替える。
顔がおかしくないかスマホの鏡で確認してから、会議室を出る。
相馬さんを見ても平常心と自分に言い聞かせ、デスクに戻る。
幸いにも相馬さんは席いない。
戻るとすぐに社員から声を掛けられる。
「社長、どこ行ってたんですか。この商品売れ行きがよくて在庫がなくなりそうなんですが、どれぐらい追加しましょうか。」
社員から手渡された資料を見ながら、過去の状況を確認してから判断しようとパソコンを開く。
「社長、過去の資料になります。こちらを参考にして数字を決めてはどうでしょうか。」
どこから現れたのか、さっきまで会議室で私をからかった男が目の前にいる。
顔を上げると目が合う。
一気に顔が熱くなるのを感じる。
社員にバレたくなくて慌てて
「この資料見てから決めるから席に戻って。」
と言って社員を席に戻らせる。
すると相馬さんが私に近付き屈みこんでくる。
みんなの前で近距離になるのはまずいと思い、体を後ろにひく。
相馬さんは床に落ちていたゴミを拾っただけだ。
過剰に反応している自分が恥ずかしい。
相馬さんがゴミを拾って立ち上がる気配がする。
立ち上がる途中で耳元で
「ゴミ拾っただけですよ。それから、顔真っ赤ですよ。」
と言って自分の席に戻っていく。
耳にかかる息を感じ、益々顔が熱くなるのを感じる。
このままではおかしくなりそうだったので、電話をかけるふりをしてフロアの外に出る。
フロアの外に出ると深呼吸をして気持ちを整える。
さっきからおかしい。
相馬さんに完璧に踊らされている。
どういうつもりでこんなことしているのか、私の気持ちに気付いてて、からかっているだけなのか。
相馬さんの行動の真意が分からない。
考えても答えがでない問題だと分かっているので、これ以上考えるのはやめよう。
もう一回深呼吸をしてからデスクに向かう。
相馬さんのデスクの横を通るとき、心臓がバクバクするも一瞬で横を通り過ぎた。
その後は、相馬さんがデスクに来るたびに、またからかわれるのかと体が固くなる。
だけど、その後は何事もなく仕事を終えた。
次々に社員が帰っていき、相馬さんもその流れで帰っていく。
相馬さんの姿が見えなくなると、どっと体の力が抜けるのを感じる。
自分が想像していた以上に緊張していたようだ。
明日のことを考えると楽しみなようで、明日がくるのが怖いとも感じる。
相馬さんのことと明日のことで頭がいっぱいになり仕事にならない。
私も帰宅しようと荷物をまとめる。
会社を出てから家について寝るまで、明日のことが頭から離れない。
相馬さんから何か連絡がきてないか、相変わらずスマホばかり気にしてしまう。
机の上に置いてあるスマホが揺れると慌てて確認する。
真理からのメッセージでがっかりする自分に笑える。
明日頑張れという激励のメッセージだった。
お礼の返信をするも、それ以外何も手につかない。
こうなったら寝ようと思い、いつもより早くベットに入る。
中々寝付けないので、お気に入りの曲を聞きながら横になる。
いつの間にか眠ってしまっていた。
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