第12話 勘違い

スラっと伸びた足にジーパンが良く似合う。


私が近寄っていく気配を感じたのか、相馬さんがくるりと後ろを振りかえる。


目が合うと、口元に手をあてている。


「遅れてごめんなさい。」


「待ってないですよ。時間ぴったりです。」


「今日はどこ行きますか?」


「俺の車でいいですか?」


ぽんぽんとやり取りされる会話が心地良い。


相馬さんの車で行くと聞いて、ドキドキしてくる。


2人で車に乗るのは、最初の頃ミスをして助けてもらって以来だ。


ドキドキしているのを悟られたくなくて、


「どこに行くのか教えて下さい。」


と可愛げもなく言ってしまったことを後悔する。


「着いてからのお楽しみ。こっちに車止めてるからきてください。」


と腕を掴まれて、車の方へ歩き始めた。


握られた腕が熱くなる。


会ってすぐこの調子で、今日一日心臓がもつか不安になる。


車に着くとご丁寧に助手席のドアを開けてくれる。


車に入るとシトラスの匂いがふわっと香る。


いつもの相馬さんの香りだ。


「嫌いな食べ物とかありますか?」


「特にないですけど。あえて言うならケーキは大好物です。」


私の言葉を聞くと秘書はくくっと喉を鳴らして笑いながら、


「好き嫌いのない人っていいですよね。」


と言って車を走らせ始める。


さっき会ったばっかりなのに、相馬さんの言動に振り回され続けている。


気持ちを落ち着かせるために窓の外を眺める。


海面がきらきら光って綺麗だ。


「ちょっと車走らせるので、疲れているようでしたら遠慮せず寝て下さいね。」


この密室で相馬さんとしゃべるなんて心臓がもたないと思い、


「少しだけ休憩させてもらいます。」


と言って軽く目を閉じる。


私が目を閉じたことを確認したのか、ラジオをつける。


無言で気まずいかと思ったが、ラジオの音とシトラスの香りで想像以上にリラックスしている自分がいた。


昨日あれだけ寝たはずなのに気付いたらうつらうつらしていまっていた。


「社長、着きましたよ。」


相馬の声でハッと目を明ける。


なんで寝てしまったのかと自分を殴りたい気持ちになる。


こんな状況で寝れる自分に呆れる。


よだれが垂れてないか慌てて鏡で確認する。


「寝顔可愛かったですよ。心配しなくてもよだれは垂れてないですよ。さぁ、行きましょう。」


と言いながら、私に覆いかぶさるようにしてシートベルトを外してくれる。


可愛いという言葉ととんでもなく近距離になる相馬さんに体が固くなる。


「さぁ、早く降りて。」


相馬さんの言葉で慌てて車を降りる。



私が近寄っていく気配を感じたのか、相馬さんがくるりと後ろを振りかえる。


目が合うと、口元に手をあてている。


「遅れてごめんなさい。」


「待ってないですよ。時間ぴったりです。」


「今日はどこ行きますか?」


「俺の車でいいですか?」


ぽんぽんとやり取りされる会話が心地良い。


相馬さんの車で行くと聞いて、ドキドキしてくる。


2人で車に乗るのは、最初の頃ミスをして助けてもらって以来だ。


ドキドキしているのを悟られたくなくて、


「どこに行くのか教えて下さい。」


と可愛げもなく言ってしまったことを後悔する。


「着いてからのお楽しみ。こっちに車止めてるからきてください。」


と腕を掴まれて、車の方へ歩き始めた。


握られた腕が熱くなる。


会ってすぐこの調子で、今日一日心臓がもつか不安になる。


車に着くとご丁寧に助手席のドアを開けてくれる。


車に入るとシトラスの匂いがふわっと香る。


いつもの相馬さんの香りだ。


「嫌いな食べ物とかありますか?」


「特にないですけど。あえて言うならケーキは大好物です。」


私の言葉を聞くと秘書はくくっと喉を鳴らして笑いながら、


「好き嫌いのない人っていいですよね。」


と言って車を走らせ始める。


さっき会ったばっかりなのに、相馬さんの言動に振り回され続けている。


気持ちを落ち着かせるために窓の外を眺める。


海面がきらきら光って綺麗だ。


「ちょっと車走らせるので、疲れているようでしたら遠慮せず寝て下さいね。」


この密室で相馬さんとしゃべるなんて心臓がもたないと思い、


「少しだけ休憩させてもらいます。」


と言って軽く目を閉じる。


私が目を閉じたことを確認したのか、ラジオをつける。


無言で気まずいかと思ったが、ラジオの音とシトラスの香りで想像以上にリラックスしている自分がいた。


昨日あれだけ寝たはずなのに気付いたらうつらうつらしていまっていた。


「社長、着きましたよ。」


相馬の声でハッと目を明ける。


なんで寝てしまったのかと自分を殴りたい気持ちになる。


こんな状況で寝れる自分に呆れる。


よだれが垂れてないか慌てて鏡で確認する。


「寝顔可愛かったですよ。心配しなくてもよだれは垂れてないですよ。さぁ、行きましょう。」


と言いながら、私に覆いかぶさるようにしてシートベルトを外してくれる。


可愛いという言葉ととんでもなく近距離になる相馬さんに体が固くなる。


「さぁ、早く降りて。」


相馬さんの言葉で慌てて車を降りる。


目の前には古民家のような建物がある。


相馬さんはさっさと入口に向かっていく。


慌ててどその後ろ姿を追う。


「予約していた相場です。」


感じの良い店員さんが予約を確認して席に案内してくれる。


席に着くと、当たり前だけど目の前に相馬さんが座っている。


横に並んで座ることはあっても、向かい合って座ることはあまりないので、妙に照れてしまう。


「社長、仕事の時と雰囲気が違いますね。」


唐突に声をかけられ、変な恰好だったかと心配になる。


「勘違いしないで下さいね。仕事の時もいいですけど、仕事じゃないときの社長は幼い感じがするというか。仕事の時は美人ですが、プライベートな時は可愛いですね。」


あまりにストレートな言葉に赤面してしまう。


なんて答えればよいか分からなかったので、


「メニュー持ってこないんですね。」


と適当な言葉で誤魔化す。


「ごめんなさい。席を予約したとき、料理も注文してしまったのですが、よかったですか。」


気を遣ってくれたかと思うと嬉しい。


「好き嫌いないから何でも大丈夫よ。ありがとう。」


料理が来るまでは、さっきと打って変わって仕事の話になってしまう。


相馬さんは年上だし、色々な経験をしているので話していて面白い。


話し込んでいると料理が運ばれてくる。


話ながらも料理を堪能する。


「これほっぺが落ちる程、美味しいですね。」


「よくこんな美味しいお店見つけましたね。」


私が何を言っても相馬さんは嬉しそうにニコニコしている。


あっという間にコース料理を食べ終えると、デザートが運ばれてくる。


私が大好きなチーズケーキだ。


一口食べてみるとふわふわとろとろで、今まで食べた中で一番美味しいチーズケーキだと思った。


「このチーズケーキめちゃくちゃ美味しいですね。よくこのお店見つけましたね。」


「社長がケーキをお好きと言っていたので、必死に探したんですよ。」


と恥ずかしそうに相馬さんが言う。


私のためにお店を探して予約してくれたかと思うと嬉しくてたまらない。


あっという間に食べ終わり、コーヒーを飲み終える。


「そろそろ出ましょうか。」


と言って席を立つ。


私も後に続いて、レジの前に行くと店員さんが


「お支払いは終わってますので。」


と言って保冷バックを渡してくれた。


相馬さんは何も言わずにお店から出てしまったので、慌て追いかける。


助手席を開けて待っていてくれるので乗り込む。


相馬さんが車に乗ると


「お食事代、ありがとうございました。とっても美味しかった。これはなんですか


と手渡された保冷バックを見る。


「ここのチーズケーキかなり有名らしいのでお土産。社長ケーキが好きでしょ。」


心遣いが嬉しくて、顔が緩む。


「シートベルト閉めないと出発できないよ。」


と言いながら、また覆いかぶさるようにシートベルトをつけてくれる。


行きもそうだったけど、あまりの距離の近さに息が止まる。


「時間も時間だし戻ってもいいですか?」


他愛もない話をしながら待ち合わせした海に戻っていく。


何でもない話だけど、ドライブはとても楽しい。


あっという間の1時間で海に着いてしまった。


このままお別れかと思うと寂しくなってしまう。


このまま告白してしまおうかと思案していると、


「少し海辺歩きますか。まだ時間大丈夫ですか?」


相馬さんの言葉に嬉しくなり頷く。


並んで海辺を歩き始める。


お互い無言で歩いていたけど、ちっとも気まずくない。


歩いていると、お気に入りのパン屋が目に入る。


「ここのパン屋さん美味しいんですよ。特にクロワッサン。入りましょうよ。」


「俺、お腹いっぱいなので、遠慮しておきます。」


と乗り気じゃない様子。


食事とお土産を貰っていたので何かお返しをしたいと思い、嫌がる相馬さんの腕を引っ張ってパン屋に入る。


いつも通り誰もいない。


相馬さんはほっとした様子で店の外に出ようとしている。


どのパンがいいですか、と声をかけようと思っていると奥から人の声がする。


「あれっ、洋平じゃない。珍しい。結婚式のことで何かあった?」


と女性の声が耳に入る。


結婚式?


洋平?


いろんなキーワードに頭が混乱しながらも、その女性を見る。


何回も2人でいるところを見た、あの綺麗な女性が目の前に立っている。


その女性が私に気付くと


「ごめんなさい。お連れ様がいたのね。」


と私にペコリとお辞儀をしている。


今まで浮かれていた自分が一気に惨めになってくる。


婚約者がいることなんてマスターからも聞いてたし、2人でいるところも見ているのに、私は何を勘違いしていたのだろう。


告白しようとしていた自分が馬鹿みたいだ。


さっきまでの気持ちが一気に沈んで、秘書も目の前の綺麗な女性もまともに見れない。


このままここにいることも耐えられなくなる。


「すみません。急用を思い出して。今日はありがとうございました。」


相馬さんの顔を見ず、まるで逃げるかのように店を後にする。


お店のドアを開けて外に出ると逃げるように走って車に向かおうとするも、すぐ相馬さんに腕を掴まれる。


「ちょっと待って。急用って何?」


勘違いして浮かれていた自分を笑われていたかと思うと惨めで悲しくて涙が溢れてくる。


慌てて涙を拭っていると、


「どうしたの。なんか俺悪いことした?どっか痛い?」


と心配そうに相馬さんが顔を覗き込んでくる。


自分の心と体が上手く制御できず、掴まれた腕を思いっきり振り切ると、


「婚約者がいるのに勘違いするようなことしないでよ。裏で私のこと笑ってたんでしょ。馬鹿にしないでよ。」


と涙でぐちゃぐちゃになった顔を相馬さんに向けて叫んでいた。


「ちょっと待って。婚約者って?」


しらばっくれようとする相馬さんが憎らしい。


「さっきの綺麗な人が婚約者でしょ。もう誤魔化さなくていいよ。マスターからも話を聞いてるし、何回も2人でいるのを見たんだから。」


「マスターって??俺の婚約者が姉貴?」


「姉貴なわけないでしょ。姉貴と結婚する奴がどこにいるのよ。」


叫びながらも涙が次々に溢れてくる。


その時ぎゅっと相馬さんに抱き締められる。


その腕を振りほどきたくて力いっぱいもがくも、強い力で抱き締められて抜け出されない。


「ちょっと落ち着いて。ほんとにあれは姉貴なんだって。義理の兄がパン屋の店長で来月結婚するんだよ。2人で店をやってるから、結婚式の打ち合わせに2人揃っていけないから、時々俺が代わりに行ってただけなんだよ。」


一気に説明された言葉に驚く。


何がほんとか分からなくなる。


「ねぇ、俺が誰が好きか教えてあげようか。」


相馬さんの言葉に体が固くなる。


「いい聞きたくない。何で私にわざわざ言うのよ。放して。」


と再び、腕を解こうと暴れ始める。


「俺が好きなのは社長だよ。高梨凛が好きなんだよ。」


相馬さんの言葉で動きが止まる。


「えっ。」


驚いて相馬さんの顔を見上げる。


「こんな風に言うつもりじゃなかったんだけど。俺が好きなのは社長だから勘違いしないで。」


「そんなこと急に言われても。」


思いもしなかった言葉に嬉しいはずなのに、さっきまで振られた気でいたので頭がついてこない。


次々と涙が溢れてきて、頬が涙で濡れていく。


相馬さんが愛おしそうに私の頬に伝う涙を拭いてくれる。


「俺と付き合ってくれない?」


どんどん涙が溢れてくる。


嗚咽が漏れて上手く返事ができないので、返事の代わりに大きな体をぎゅっと抱き締める。


抱き締めた体が離されて、相馬さんの顔が近づいてくる。


涙に夕日が反射して眩しい。


唇に温かい体温を感じる。


嬉しくてまた涙が溢れてきた。

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