秘書に恋する

KEI

第1話 履歴書の男

今日も絶好のサーフィン日和だ。


海にはたくさんのサーファーが波乗りを楽しんでいる。


そんな人達を眺めながら私はスケッチブックと睨めっこ。


サーファーの他にもカップルらしき人達が手を繋いで海辺を歩いている。


そんなカップルに心の中で早く別れてしまえと悪態をついている私は相当なひねくれ者だと分かっている。


最後の彼氏と別れて2年は経っている。


完璧な干物女という自覚はあるが、なんせ仕事が忙しくて彼氏を探す暇もない。


周りにいる男はロクな奴がいないから、恋愛対象にもならない。


そんな私は高梨凛、28歳。


一応これでも社長だ。


学生時代の趣味はサーフィンで良く波に乗って楽しんでいた。


今は仕事が忙しくて中々サーフィンができないのが残念だ。


肌はこんがり焼けて、髪にメッシュが入っているので取引先や仕入れ先に出向いた時に名刺を渡して社長だと分かるとみんな驚く。


よっぽど社長に見えないんだろう。


サーフィン好きが高じて女性用水着をデザイン・販売する会社を立ち上げて、今に至るまで順調に業績を伸ばしてきている。


事業が順調で会社も少しずつ大きくなってきて、仲間内で始めた会社だったけど徐々に従業員も増えてきている。


デザインや製作については従業員が増えてきて問題ないが、私の業務については自分一人でやってきた。


仕事が増えてきて、そろろろ一人でやるもの限界になってきた。


朝も早くから夜も遅くまで仕事をしていると、時々何の為に生きているのか分からなくなる。


趣味のサーフィンもできないし、男もできないし、このままではまずいと思っていたし、事業も順調だから秘書を募集してみようと、軽い気持ちで募集をかけてみた。


秘書がきてくれたら私の業務の負担が減って、少しは自分の時間が出来て素敵な彼氏もできると淡い期待もあった。


募集をかけてから一週間でそれなりの数の応募がきてびっくりしている。


女性用水着業界ということと、秘書という役職柄、応募してきたのは女性ばかりだ。


届いた履歴書を順番に目を通していても、これといってピンとくる人がいない。


パラパラと履歴書を見ていると、男性の履歴書が目に入ってくる。


今まで女性ばかりだったので、妙に興味が湧く。


写真はどこかで見たような顔だ。


どこで見たことがあるのか思い返しながら、履歴書の内容を見ていく。


年齢は30歳、履歴書の写真はもっと若く見える。


大手アパレルブランドに勤務していると記載されているのを見て、ブランドの新作展示会で見かけた顔かなと思ったが、どうにも思い出せない。


それにしてもこの顔、私の好みの顔だ。


焼けた肌に切れ長の目、何かスポーツでもやっていたのかなと思わせる風貌だ。


上半身が少ししか写っていないが肩がかなりしっかりしているから、背も高いのかな。


アパレルブランドに勤務しているということは、この業界にも詳しいはず。


今、会社には女性しか働いていないので、重い荷物を運ぶ時など男性の力が必要な時もある。


妙にこの男性に会ってみたいと思った。


この男性に会って、採用するかしないか決めてみようと思う。


履歴書の写真が気になり、スマホでその写真を写していた。


会ってみようと思ってから、行動は早かった。


履歴書に記載されたメールアドレスに面接の連絡を入れる。


早く実物を見てみたいという気持ちもあって非常識とは分かっていたが、明日の10時を指定した。


これで断られたら縁がなかったと諦めようと思っていたが返信は思いの他、早く届いた。


どきどきしながらメールを開封する。


メールには明日の10時に伺いますと記載されている。


既に明日になるが楽しみで仕方がないし、気持ちがそわそわして落ち着かない。


お見合いするわけでもないし、ただの秘書の面接だと自分に言い聞かすも、どんな人物なのか想像ばかり膨らんで、仕事が中々進まない。


今日は諦めて明日面接を終えてから、仕事を挽回すればいいと早々に会社を後にした。


家に帰っても明日の面接の事で頭がいっぱいで、何をするのもめんどくさく感じてしまう。


カップラーメンにお湯を入れて、撮り溜めたドラマを見ながら麺をすする。


こんな姿誰にも見せられないなと自虐しながら、夜も更けていった。

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