読んだ後、ちょっぴり人に優しくなれる。そんな温かい物語です

地方都市の繁華街には「おばけ居酒屋」と呼ばれる料理屋がある。もう食べられなくなった「想い出の味」を食べさせてもらえるというその店に集まるのは、様々な人の思い。今日も店主は、味の染みたおでんと共に想い出の味を客に振る舞うのだ──

前半は「想い出の味」をテーマにした連作短編形式で物語が進んでいきます。「想い出の味」というのは、言い換えればもう食べられなくなってしまった味のこと。亡くなってしまった大切な人との思い出と共に提供されるお話は、まるでお出汁染みた大根のように読者の心をじんわりと温めてくれます。私も読んでいるうちに、祖父母との思い出や子供の頃の懐かしい記憶を思い出し、何度も過去の記憶に思いを馳せました。この作品には忘れてしまった大事な気持ちや記憶をそっと呼び起こしてくれる、そんな優しさがあります。

後半は代替わりをし、孫の大樹さんの物語に。元パティシエだった彼は、祖父の居酒屋を継いだものの、自分の進む道に悩み希望を見出だせないでいます。そんな彼を助けてくれるヒロイン律夏と、様々なあやかし達。後半はストーリーがメインになり、様々なエピソードを通して大樹さんが成長していく物語となっています。
それでも前半と同じく、作品に宿る温かさは健在です。

料理を通して綴られる人間ドラマと恋模様。
読了後は誰かに優しくしてあげたい、そんな気持ちになれる名作です。
お腹と心がいっぱいになりたい方、ここに良いオシナモノが揃ってます。オススメですよ!

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