赤ちょうちんのその向こう。『おばけ居酒屋』今宵のご注文は——?

 とある繁華街に「おばけ居酒屋」と呼ばれる古びた店がある。
 そのお店やお客さんにまつわる温かいエピソードが綴られていく、連作短編形式の物語。どこから切り取って読んでも、まるで味のしみたおでんのように読者の心をじんわりと温めてくれる素敵な物語です。

 居酒屋「源」というお店は、夜な夜な人や人ではないものが集まる知る人ぞ知る……というお店。古びた外観のその店は、どうやら店主一人で切り盛りしているようで——。

 常連になると「思い出の味」が食べられる。
 そんな噂を聞きつけて集まる人たち。思い出の味とは、もう食べられなくなった懐かしの味。多種多様なエピソードと共に綴られ提供されるそれは、豪華なものや高価な食材ではなく、誰かの心に残る……そんな味。

 思い出の味を提供していた源さん、そして後半はお孫さんの大樹さんがお店に立つことになり物語が進んでいきます。

 料理の温かさ、人の温かさ。それが隅々まで染み渡った物語。
 こんな料理もあるんだと目を丸くする瞬間も多々あり、本当にこじんまりした居酒屋でオススメのメニューをいただいているような気分になります。

 暖簾をくぐるようにページを開けば、きっとあなたもこのお話が忘れられない思い出のモノになるはずです。

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