優しい記憶も苦い後悔も、想い出の一品に。不思議な居酒屋、今宵も営業中。

 北国のとある場所にひっそりと建つ、「おばけ居酒屋」。
 木造平屋建てで暖簾も赤ちょうちんもボロボロな、まるでお化け屋敷のようなその居酒屋には、人間だったり妖だったり死人だったりと色々な客がやって来ます。
 今宵のお客さまは、ふさふさ尻尾がチャーミングなキタキツネ。丸椅子にちょこんと腰掛け、戸惑う店主に「だいこん」を注文し――。

 と、ほっこりエピソードから始まるこの物語、連作短編の飯テロあやかしミステリー風味という、とても面白いテイストで描かれております。
 居酒屋らしく、一番人気のメニューは出汁の染みたおでん鍋。しかしこの店の常連になると、もう食べられなくなった懐かしい『想い出の味』を提供してもらえるかもしれないという噂があるのです。その真相は――というほどには引っ張らず、どういうわけかはすぐに明らかになりますが、途中から店の事情も変化します。
 その辺りから常連さんたちの解像度も上がってゆき、お店を狙う(?)怪しげな影もちらついたりなんかして……?

 可愛いきつねっ子や妖艶な姐さんなどの妖たちもいます。思惑絡まる人と人外の人間模様を味わい深く鍋で煮込んだ物語。ぜひご一読ください。

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