己の死と相対する茶人・千利休。彼に死を運ぶ三人は何を思うのか。

茶人・千利休は、天下人・豊臣秀吉に切腹を命じられた。
それから二十五年の月日が経ったある日、あるところ。
商いをしている亭主と、彼に茶に招かれた客の会話から、本作の物語は始まります。

その商人は、歴史的な茶人、千利休に死を告げに来た伝令であった。
動揺する周囲に比して、泰然としているのは死を命じられた利休、本人。
彼が千々に心を乱す中、恬然とお茶をたてて会話をして、そしてその役目を全うさせようとする利休。
その会話で物語は進みます。

どこまでも恬淡として死を客観視できる利休、その在り様は後に生きて行く者達に心を配ろうとするほど。
死を命じた秀吉の心までを慮る利休の人間離れした心の持ち方に戸惑いながらも、次第に感銘を受けて行く様子が窺えます。

そして、そのお役目が終わるときに、最初の客との意外な接点が見えてきます。
その正体は、それはきっと貴方も知っている、あの人なのでした。

本作、もともと「きょうを読む」という自主企画のために書かれた作品とのことで、様々な「きょう」が文中に散りばめられ、遊び心を見せつつもそれが非常に自然にそこにある様子がわかります。
主題である利休の心、それとは異なる作者様の遊び心。
本作には様々な楽しみ方があると感じます。

読み始めれば、きっと時間も忘れて気が付くと読み終わっているような本作。
秋の夜長の御供として手に取ってみてはいかがでしょうか。

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