きょうを読む人
四谷軒
01 京
千利休「
「先に行って、茶を
そう断られると、否やとも言えず、暫し待ってから、ゆっくりと歩き、そっと茶室の戸を開けた。
「ああ――良いきょうをしておられます」
きょうとは何ぞや、と問う。
「あしおと――
茶室の主人は、一人悦に入ったように首を振り、そしてゆっくりと茶を
主人はにこやかにしている。
此方としては、鞘をいただければよいと思うのだが、こうまでされると、やはりゆっくりと茶を喫すしかないか、とも思う。
「何ぞ――話しましょうか……そう、そうですな……この、きょうを読む人の話を」
うん、それが良いそれが良いと主人は一人頷いている。
何度も言うが、あの、鞘をと口にすると、主人はいやいやと首を振る。
「聞いて下されや。手前は
そう言われると弱い。
だが、これからの
それにしても。
信州の片田舎の村の出の拙者が、今となっては、一軍を率いる大将とは。
……そんな感慨に
「では話しましょうか……今より二十五年くらい前になりますなぁ……天正十九年のこと……」
*
天正十九年一月。
私は豊臣秀吉さま、当時は関白さまに呼ばれ、こう命じられました。
「利休に――千利休に、切腹せよと伝えい」
私は恐れおののきました。理由は知りませんが、関白さまが利休さまをお嫌いになっておられるのは知っていました。しかし、何故、私なんぞにそれを伝えるお役目を与えるのかと。あんな、大名や武家に弟子がたくさんおられる方にそれを伝えるなんぞ、その弟子の方たちを敵に回すのと――最悪、殺されるのと同義だ、と。
「
関白さまはその付け髭をいじりながら言いました。そして、その手立てはしてあると告げました。
「何より――お
関白さまは、お
「頼んだがや」
それだけ言うと、関白さまはお子様の
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