冬の北海道、無惨な交通事故。欠けた記憶と不穏な過去が織り成す愛憎物語

白で視界を奪われた北海道の路上、ガードレールを突き破り崖を転落する自動車。
事故の記憶と共に目覚めた主人公の凛は、長い昏睡で衰弱した身体で、なおも北海道を目指す。

そんな悲壮な冒頭から始まる本作、冒頭からヒトクセもフタクセもある登場人物の目白押し。
ひょっとしたら最初は眉をひそめる場面もあるかもしれません。
ですが、これらには裏があり、その不審にすらも理由があったりもします。

物語は冒頭の事故を越えて過去に踏み込んで行きます。
読み進めるうちに、そこかしこに違和感を感じ、それは不穏な気配となって心を騒めかせます。
ですが、それらは事実を踏んで行くうちに、徐々に晴れて行くでしょう。

本物語では、その人の強い意思こそが、その人自身の世界を切り開く様子を見られると思います。
そしてそこには、自分の取り巻く環境への愛情が伴わなくてはならないことも。
自らの意思を捻じ曲げてしまい、結果として苦しむ様子。
そんな存在に対して、意思を持って手を差し伸べる様を。

ミステリアスな展開に様々な伏線、ダークな過去に希望を感じさせる未来。
クセツヨな登場人物たちは一転して秘めた愛情を示し、意外な動機が詳らかにされる。

極寒の冬の北海道から始まり、初夏の爽やかな北海道に至る再生の物語。
最期まで飽きさせない、素敵な物語です。

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