第3話 「本」
3
おおよそAVのインタビューでも聞かないことすら把握され、暴露された僕は、周囲の嘲笑を気持ちどこか遠くから眺めることに必死だった。
そうでもしないとこの現状に耐えれない。
未だ開かれているウィンドウには、前のチェッカーよりもさらに詳しい事がびっしりとかかれてある。
「ハネオリセイハ
転生者
保有特質 なし
魔力量 0
力 20 (握力35くらい)
魔力 3(あるかないかで言えばあるとギリ言えるくらい)
速25(50メートル8秒くらい)
防50(後頭部殴られると死ぬか、気絶するくらい)
アビリティ ─
スキル 『
スキル 『
加護 ─
経験人数 ██
█した数 ██
厨█病█ 1年」
これ以上はいけない。僕が恥で死にそうになる。
心の死は、たとえ不死でも防げないのだ。
「と、とりあえずは、能力が把握できましたね…」
低い能力がね。
周りの職員は笑っているが、案内役のべレはむしろ泣きそうな顔をしていた。
だが、このステータスほそれほど悪いものなのだろうか。身体能力の欄を見ても前世と何ら変わらないじゃないか。
前世と変わらない…。
あ、そうか。
異世界転生もので良くある異世界に行くと何故か身体能力が上がる現象が起きてないのか。
多分他の転生者は身体能力が上がっているだろう。じゃなけりゃ勇者や魔王にはなれないだろうし。
そうかそうか。なければ倒せない加護を持たず?身体能力には確実に差ができているだと?
なるほどなるほど。
──僕を生かす気がないじゃないか。
スキルでどうにかしろってか?
活かそうにも本を所持してないんだよ。体のどこをみたってそんなものない。まさか宅配便で送られてくるんじゃないだろうな。送料はそちらが払ってくれよバカガミ様!
と、考えていたのだが、それは当たらずとも遠からず。もっとも、どこぞの黒猫のように上品でもなく梱包すらされてなかったが──
それはものすごい勢いで僕の頭上に降ってきた。
ギルドの屋根に大穴を開けたそれは、僕の首をもぎりとる勢いで後頭部に激突する。
あまりの衝撃に床に向けて吹っ飛び、この世界のファーストキスは果たして床となった。
こんなことなら、神様にキスしてもらえばよかった。
それに、どうやら不死身は本当らしい。最悪の検査法だったが、隕石に近しい速度で物体が落ちてきて、それが当たったというのに、僕の頭は激痛を感じるだけで済んでいるのだから間違いない。
「あの……。僕脳みそ出てません?」
隣のベレに聞く。
「無傷ですよ…不死身はマジみたいですね」
痛すぎる。今の状態も頭の痛覚も。
とはいえ、不死身と言っても痛みは感じるのか。
だが、死なないのなら悪くないむしろ重畳だ。
痛みは命の危険のサイン。痛み無くして生はなし。
──それにしても痛い!
「立てます?」
「無理です、今は…」
「頭から煙が上がってますが…」
「多分これは…外的影響によるもの…だから…大丈夫…です。落ちてきた物体って…なんですか?」
「本ですね」
やっぱり。
どうやら神は黒猫にもAmazonにもたよらず直送で送ってきてくれたようだ。証拠にこの本の裏側には「忘れてた♡」というメモがある。
ハートじゃねぇよコノヤロウ。
「なんですかこの紙…うわっベタベタする」
メモ用紙を触りながらべレが呟く。
なるほど。この世界にはメモ用紙もないのか。
羊皮紙や魔法製の紙とかメモ用紙よりもいいものを使ってるんだろうから気にすることもないか。
──ふぅ、だいぶ気分が良くなった。
軋む首を左右に揺らしてならしつつ、僕は立ち上がる。
「で、なんでしょうねこの本」
「さぁ?すごい魔力は感じますが…」
触ったところで何も感じない。
「魔力…ですか…」
あのチェッカーを触った時は、なんだかエネルギーというか、パワー的なアレを感じたが…。
この本を触ってもいくらもそういうエネルギーは感じられない。
「青くて…そこそこの大きさ……大量の魔力。魔本でしょうか?」
「いや、知らないですよ!?」
「なんらかの魔術がかかった本を魔本って呼ぶんです。その魔術がなにかはわからないですが」
おかしな本だな。まぁ神の授かりものだし、悪いものじゃなかろう。
…いや、あの神だぞ。僕を殺した神様だぞ。あの理不尽の塊だぞ?
──なんだか不吉なものに思えてきた。
「とりあえず、スキルのヒントになりそうだから貰っておきますね」
「あ、はい。じゃあこれも」
渡してきたのはホルスター。本がすっぽりと収まり、僕の服のベルトにピッタリなデザインだ。本とともに落ちてきたらしい。
収めるものが銃じゃないのが悔やまれる。
けれど本でも立派な凶器だろう。それもココまで分厚ければ耐久性も高そうだ。
「……………」
少しだけ気になって、僕は本を持った。
「ざける………」
──反応はない。
まぁそりゃそうだよな。ステータスの説明的に、これスキルのヒントらしいしな。
…………。
「ぽるく……」
「なにを言ってるんですか?」
「いいえ!?なんにも!」
──────────────
「さて、今日の工程は終了です」
思えば、怖がって笑われて。異世界初日にしては最高のバカンスだな。他の方々は多分自分のチートっぷりに酔ってる頃なんだろうけどね。
「宿屋は取っておきました。明日には出発してくださいね」
どこによ?
「いつまでもここにいるとは行かないでしょう?」
──確かにね。
神様からの約束をサボればまさに天罰が降りそうだ。まぁ、かの神の天罰はたとえ悪いことをしていなくても落とすことがあるけれど。
ソースは僕。
「でも本当のところは?」
「思いのほか能力が謎な事とステータスが低いための厄介払いですね」
あらやだ辛辣。
だが、多分ジョークだろう。証拠に彼女は笑顔になっていた。
クスクスと笑うべレが眩しい。もう太陽は沈みかけて、世界を茜に染めていた。
夕日はすぐ沈む。
もうすく、夜になる。
────────
宿屋はかなり、その、あれな感じだった。
みすぼらしい?と、とんでもない。なんというか、穏やか?侘び寂び?うん、そんな日本人が忘れた何かが盛りだくさんな宿だ。
もちろん僕も忘れた。そんなもん、現代のダーティーなスタイルにマッチしてねぇのだ。
時間は11を指す時計が教えてくれた。
やはりこの世界は物理法則に魔法を足したおかしな世界だ。
時間、重力、空気、それら全ては日本と遜色ない。
細かい設定どうなってんだか。
それにしても…
「本、ねぇ…」
攻略本を少しコンパクトにした程の大きさ。表紙は固く青く、丁寧な作りだ。
実は、僕は本を読むのはそこまで嫌いじゃなかったりする。
──いや、見栄張った。大好き本。
ラノベから攻略本を眺めるに至るまで読み明かす、かなりの乱読家だと自負している。
だから、その、なんというのだろうか。
ここまで分厚く、立派な本を前に少しだけワクワクしているのだ。
何が書いてあるのだろうか、開いたらもしかしたら神様から小言を言われるんじゃないか。そもそも読めるのか。
全篇ラテン語とかは勘弁して欲しいぜ。
色々な思いを頭に浮かべて開いた記念すべき1ページ。
そこには──
「バランスとったつもりかよ…」
さて、僕は秘匿主義者ではないし、この本の全容なんて知られて困るものじゃない。
そこには、多分僕の身体能力の特典がなかったことの理由付けが書いてあった。
「
神様からの小言と忠告があった。
あらゆることが、あらゆる疑問が解決された。
その本の内容は、また後で話そうと思う。
厳密には4話目で。
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