転生殺しの幻想使い
木神
第1話 「神が相手じゃ訴えられない」
人生において、1番大切なことは生きることだと思う。それは17年生きた僕─羽織星葉の人生で得た教訓だ。
まぁ、だからといって人様の人生を否定する気にはならないけれど。
つまりそれはただの偏屈男子高校生のつまらない哲学な訳で、きっと偉い学者や権威ある識者が全力で僕を説得しに来たらガタガタ崩れそうな薄味な考えなのだろう。
だからどうした。お前の思想なんざ聞いてねぇ。
そんな声が聞こえてきそうではあるけれどちょっと待って欲しい。
いやはや、僕もなかなか理解できず思考と論理のシャトルランを繰り返して120を数えそうなのだ。だがとにかく。戯言を聞く気で聞いて欲しい。
どうやら僕は死んだようだ。
─────────────────
人はいつ死ぬか分からないとはよく言ったものだけど、こうも生き汚い僕が17という青春ざかりに命を落とすとは。神様というものがいるなら随分とシニカルな人間なんだろう。
だが、皮肉だろうとなんだろうと、結果と因果はジョークじゃ済まない。結果は僕の体に起きた心臓麻痺。事象は死亡。死亡時は登校前。行ってきますとあくびした瞬間に玄関で心臓が止まった。
今頃検死は大祭りだろう。今どきじゃ珍しい外傷も内障もない健康体の死体が手に入ったのだから。願わくば、綺麗にかっ捌いてもらいたいものだ。
死因から僕の死の原因を探れば、神様の奇跡(僕としてはとてつもない不幸だが)もしくはデスノート所持者が戯れに僕の名前を書いた可能性の2つが挙げられる。
勿論僕は犯罪者では無いので後者は有り得ないが、前者を認めるとなにやら文句が上がりそうだ。具体的には神はお前に構うほど忙しくはないとか言われそうなものである。死後にも面倒な信者はいるのだ。多分。
しかし、こうして自分の死についてあーだこうだ考えてるうちに、ひとつの疑問が湧き上がった。
あれ?僕は一体どこで考えてるんだ?
僕は心臓麻痺で死んだはずなのだ。けれど僕は考えて思って思考している。死人に口なしとはよく言うが、口から出た知恵熱を吐き出す唸り声が耳に入り、このことわざは反証された。
この際諺の誤用には目をつぶってもらうとして、困り果てる唸り声をあげれる口がある、それを聞き取る耳もある。とすれば僕はなんだ?頭だけ浮いてるとでも言うのか?
だとするならなかなかのホラーだ。生首がひょいと浮かんでいるなんて。
「興味深い考察結構。だがね、1つ確認し忘れていることがあるぜ羽織くん。目を開けなよ」
あぁ、そうかそうか。僕は目を開けていなかったのか。どうりで真っ暗だと思った。いや、真っ暗だって自覚したのは今だ。今まで僕は真っ暗だって思いもしていなかったのに、この声だけで気付かされた。
待て待て、僕は死んだはずだ。なぜ誰かの声が聞こえるんだよ。
「全ては目を開けてから始まるのさ。自分を認識してみなよ」
ゆっくりと目を開いてみると、僕の視界は光に包まれた。暗闇に慣れた瞳に強い光が刺さって、なんというか、目が悪くなりそうだ。
少しして目が慣れてくると、そこの光の先に見えたのは、玉座に座る若い年頃の女性。
死と光。偉そうに座る姿。それらを含めてみて僕は勘づく。
ははーん。あなたが神か。
「当たらずとも遠からずだね。私は君が思う神ではない。だけれど君より上位の存在かと聞かれれば、まぁ頷くね」
難しい話をされると、僕の死にたての脳みそは機能停止しちゃうんだけど。
「あぁ──つまりだね、私は君らの楽しい御伽噺の神話に話される神ではないのだけど、君らが言うところの神様ってやつなのさ」
「えーと、つまりはアマテラス様だとかイエス様とかでは無いと?」
「そうだね」
「でも立ち位置的には神?」
「死にたてとは思えないねハネオリくん。キスしてあげようか?」
意外と俗っぽいっすね、神様
「君の混乱は解けたみたいだし、緊張もほぐれたかな?」
「…まぁ、はい。なんで僕がこんな所にいるかわからないっすけど」
「君がここにいる理由は結構簡単だよ」
まさか僕の不審死と関係あるんですか。神様だから知ってますよね。心臓麻痺とか、あんなに現世で死なないように気をつけていたのに…。こんな死に方ないっすよ!
と、苦言を呈そうかと思った矢先、神が口を開いた。
カラカラと笑いながら。
「一言で言えば神のイタズラだね。犯人は私だよ」
参った。神が相手じゃ訴えれない。
────────────────
そもそも、神様が何らかの奇跡を用いて人を殺した場合処すという文言が六法全書にない限り僕の死について神が咎められることは無いだろう。
酷い話だ。僕が一体何をしたというのだろうか。僕はクラスの人気者を横目で見ていたらそいつに睨まれたりする人畜無害なただの人なのに。死ぬ理由がない。
「神様って、何してると思う?」
半ば現実逃避していた僕に、神様は問いかけてきた。
「なにって…そりゃあ…何してるんでしょう?」
「神様の──私たちの仕事は世界の管理なのさ」
たち?他にも神様がいるってのか?更には世界の管理?僕の死も管理の一環。そりゃないや。
そんなことを考えていたら、目の前で鎮座する神が手首を返した。すると薄い半透明の板が現れた。
「ふーん。なかなか面白い男だね」
突然の少女漫画みたいな発言と、神秘とは程遠いホログラムチックな謎の板。
更には度重なるほどにスケールがでかくなる神の発言に僕の口は塞がらないどころか、顎をこじ開けられて猫が腰振って踊ってるレベルだ。
「さて、私は君にチャンスをあげる。マッチポンプなのはわかっているんだけどね、言わせてくれ。従えば君を異界で生き返らせてあげよう。」
「異界?僕がですか?この顔もそんなに良くない、かと言って大して不幸でもない僕が異世界転生?」
「そう、それなんだよ」
神はかなり神妙な面持ちで話した。一体なにがそれなんだろうか。
「君の世界で今流行ってるだろ?異世界転生」
「はい。まぁ創作ですが」
「創作…か。…実は私たちはすごく暇なんだ」
神様が暇と来たか。なら今すぐ報われない人間を助けてくれないかな。
「おいおい、一体私はいつから人間の味方になったんだよ。強いものに巻かれる主義ではあるが多勢に取り込まれる趣味はないぜ。」
なるほど。確かに伝承の神は人とかに救いを与えていたけれど、目の前に座る神はそれらの神ではないものな。僕を殺したらしいし少なくとも僕に救いをくれる訳では無さそうだ。死を救済と思っているなら別だけど。
人が第一に考えられているなんて結構傲慢だったかも。
「でね、暇つぶしに私はもうひとつ世界を作った。そうしたら面白がった別の神が私の世界にいくつも人を送り込んだんだ。特典マシマシでね」
セキュリティ甘くないですかね神様。え?となるとあれ?異世界転生本当にあるの?
「うん。あるよ。君が思ってるよりも深刻な状況のさなかでね」
情報をまとめよう。死にたての脳を再起させるにはちょうどいい課題だ。
つまりは───
1、神様が暇だから別に世界を作った
2、すると別の神がその世界へ、チートを持った自分の世界の民を送り込んだ。
と、いうことだろう。
とんでもなくスケールが大きい話だなぁ。
まず世界が僕らが住んでた宇宙以外にもあることだとか、異世界転生がほんとにあったこととか。一般高校生にとってはデカすぎて見上げちゃうぜ。
でもなんで僕殺されたの?
「話は戻る。君にはね、私の世界を救って欲しいんだよ」
だからそれと僕が殺された理由が繋がらないじゃないか!なぜその世界を救わなくちゃならんのだ。
「私が作った世界の住民なのに、私が殺してこき使うことになんの問題があるのかな?」
ぐぅの音も出ない正論だった。人道がどうとか言ってやりたいけど人じゃないし、神だし。
「別に君じゃなくても良かったんだけどね、ほら、君の世界にあるだろ?ダーツの旅。それっぽく抽選したら君が当たったんだよ」
見てるんだ、ダーツの旅……。
「それに君は死んだけど、新しい世界で私に従ってくれれば生きれるんだよ?生きたがりの君には朗報じゃないかな」
朗報ねぇ、なんだかスケールのでかさに圧倒されて、よく分からないけれども。でもどうせ条件とかあるんでしょう?てか他人事みたいに死んだって言うけど、殺したのあなたですよ!?
「簡単だよ。別の世界から来る奴らを殺して欲しい。もちろん能力もあげるよ」
──いや、予想外に条件が重すぎる。
殺す?能力をくれる?どういうことだってばよ。
…いや待て、少しくらい自分で考えてみるか。再度の頭の体操だ。
まず、僕が死んだ理由はない。これは生きることを至上とする僕にとっては辛いことだがそれはいい。
意味ある死も、意味の無い死も、結局生きている人が決めることだし。
──そしてどうやら僕は死んだことにより別の世界、神様がいるであろう場所にいる。僕が幽霊なのかどうかは置いておいて、実在している。
さらにさらに、世界は沢山あって、異世界転生みたいなことを別の神が行っている。目の前の神様の世界でだ。
話し方が嬉しそうじゃなかったし、歓迎できることじゃないのだろう。
これらの情報、そして先程の発言「従っていれば生きられる」
「つまりは、僕に転生者を排除させることが僕の生きる条件と?」
「おや。正解だよ羽織くん。舌入れたキスしてあげようか?」
結構です。神様からのキスとか素敵な話だけど。
「能力は2つ、君にピッタリのスキルと私から送るひとつのチートさ」
「あ、僕がやる理由は分かりましたけど、もしもですよ、全員殺したらどうなるんですか?」
「ふふ。やる気だね。私が今から送る世界が気に入ればそのまま生きていいし、元の世界に帰ってもいい。時間くらいは巻き戻せるからね」
安心した。用無しだとか言われてまた殺されたりしたらたまらないもの。
「ちなみに僕に送ってくれる能力って…?」
「行けば分かるよ。さぁ、扉は開けた」
神が指を鳴らすと、後ろで重厚な音が響いた。重い門が開くような音だ。
神は説明に飽きたようで、早く帰って欲しい顔をしている。殺して呼んだのあんたじゃないか。とか意見しようものならどんなことされるか分からない。
いや、本当にわかったものじゃない。
僕は決心して、扉の中の光へと足を踏み入れた。
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