第10話 「助けて下さりありがとうございました」
死ぬかと思った。
いや、実際何度か死んだ目にあったけど。
生還できたのはスキルと不死身のお陰だ。こればっかりは神様に感謝せねばなるまい。
………?いやいや。考えてみれば奇妙な話だ。
僕は未だに誰も殺してはいないのに、あの転生者は僕が「転生者を殺す者」と知っていた。
憶測で動くのは確実に愚策ではあるけれど、しかし──伝達が速すぎないか。
僕のことを知っていたとしか考えられない迅速すぎる行動。奇妙が過ぎる。
考えられるのは2つ。
彼ら転生者は、僕のことを何らかの方法で『他の神』によって知らされていたのか。
それとも、『ギルド』がグルだったのか。
あるいは、その両方と考えられる。
そうだ。それが一番手っ取り早い。なにも、転生者が全て悪と言うことは無いのだ。
『ギルド』に名を登録し、『ギルド』に所属し、仕事をこなし、着実に功績を積み上げていった転生者もいるだろう。
それらに与することに、なんの問題があるのだろう。
僕のような将来性が全くない人間1人を生け贄に捧げて、有用な転生者に贔屓して貰えるなら──と考えれば、僕だって情報を流すだろう。
仮説ではあるが。
『他の神』によって、転生者殺しの情報──例えばスキルとかを先に教えられており、ギルド側にそれに当てはまる人間が来た時連絡を寄越すよう依頼したとしよう。
ギルド側は何も知らずにお得意様に情報を教えただけだし、転生者は万が一の殺される可能性を排除できる。
かくして、僕の壮大な暗殺計画ができあがった。というわけか。
まぁ、この仮説は穴だらけだが。
第一、スキルを知っていたのなら、それがどういうものか理解していないとおかしい。彼らは明らかに僕のスキルを知らなかった。
不死も、「幻想保存」も。彼らの話からすれば、その場で推測していたしね。
で、あるならば。僕を僕と分かるステータスが他にあるとするならば、「名前」、「ステータス」、「顔」──くらいだろうか。
「名前」──これの可能性は低い。僕は名前なんて名乗ってないし。そもそも僕の転生は神がランダムに決めたことだ。名前が一定なはずは無い。
もし他の神が僕の転生と同時に名前を把握していたとしても、伝達が速すぎる。
何時でも神と交信できるなら、話は別だが。僕も夢の中で神と話せるが、参考文献(今まで読んできたラノベ)を参照するに基本的に神と転生者は転生時の1度きりでしか言葉を交わし合わない。
もっとも──神様をギフトとして仲間にしていたりすれば話は変わってくるだろうが、少なくとも、彼のパーティーにそういうのはいなかった。
話を戻そう。
もし名前という可能性が消えるなら、顔という線も消える。
顔も同時に、ランダムな要素であるからだ。
とすれば──。
「この全ステGの悲哀性十分な能力値が、僕が転生者殺しって証明……なわけですか」
「うん。君もなかなか分かってきたね。自分で考えれて偉いぞハネオリ。ライチ食べる?」
「いらないです」
確かにこの世界に来てからご飯食べてねぇけど、それはまたの機会ということで。
「まぁ、この空間じゃ会話以外できないんだけどさ。……君の考えは概ね正解だ。私の力は弱くてね、能力値を向上させるリソースがなかったんだ」
そんなリソース不足こそが、君が転生殺しってことを裏付ける証拠になったわけだけどさ。
またカラカラと笑いながら、ろくでもないことを言う神。
ここは、前回暗殺少女によって中断された神との会話室。
僕の体は寝ているらしい。つまりここは夢の中って訳だ。
──それにしては意識はしっかりしている。身体も以前と違いハッキリしているし、視界も良好だ。
「ってことは、彼らは転生前する直前から知ってたんですか?ステータスがほぼゼロの僕が転生者殺しであるって」
「私がウジ虫どもに反旗を翻すのは、他の神も目に見えていたんだろうさ。それでも、そうか。君に手を下したのは1パーティだけか……」
確かに少なすぎる。
仮にも転生者を殺すものだぞ。もっと警戒するもんだろう。
「警戒ね。じゃあ逆に聞くけれど、君は海で小魚に殺されることを警戒するかい?」
魚?種類によるんじゃないか?ピラニアだったらすごく怖いけど、アジとかなら、しないかな?
「そう。それは魚なんて君にとっちゃ文字通り雑魚だからさ。警戒なんてしないだろ?同じことだよハネオリ。警戒しないんじゃない。警戒に値しないんだ」
考えてみればそうか。
圧倒的な力、周囲からの信頼、神から与えたもうたチート。
転生殺しの前提条件が低スペックなんだ。この世を欲しいままにする転生者にとって、そんなものは火の粉に等しいのだろう。
振りかかれば、払い殺す。
何もしないなら、無関心。
とすれば、僕を殺しにかかったあの転生者は?
「ああ。彼らは魔王や勇者
だからこそ、彼らは君を殺しに行ったんだろうね。何故って、殺される可能性が生まれるほど強くないから。
──彼に与えられたチートは『司令導』スキル。
仲間にバフを与え、仲間の数自らの力を底上げするランク2のチートスキルさ」
つまり後方支援?
「メインはね。だが油断は禁物だよ。」
彼はちゃんと1人でも戦える。なぜなら彼は君と違って主人公だからね。
と、神様は言う。
耳に痛い話だ。
「おっと、お目覚めの時間が来たみたいだね。今日はここまでだ。ああ──その子、どうするつもりだい?」
「考えてなかっけど、普通に返すつもりだぜ。あの町に」
僕がそう言うと、神様は少し曇った表情をする。
「……彼女には、すまないと、そう伝えておいてくれ。」
らしからぬ声だった。
らしからぬ顔だった。
深く絶望した顔に見えたし、嫌に安堵した顔でもあった。
神様ってのは表情金も凄まじいんだな。
なんて、僕は現実から目を背けていた。
────────────────────
「───…さん。──…ハさん。セイハさん」
気づくと、僕と仮面ちゃんは芝生の中にいた。
通りで寝心地が言い訳だ。昨日のベッドよりもぐっすり眠れた。
──いや、それだけが安眠の原因ではないようだ。
首元に柔らかい感触がある。
なるほど、これが噂の膝枕と言うやつか。
役得役得。僕だって命からがら助け出したのだ。これくらいのラッキーはあってもいいだろう。
「セイハさん。助けて下さりありがとうございます」
僕の頭を膝に乗せたまま、真上から感謝する仮面ちゃん。
仮面をつけているから表情が見えないのだが、それでも声色から感謝の意図は伝わる。
人肌のようなふにりとした、しっとりとした肉感が、首元を温める。
眠い。これは極楽。
「そんな恩人にこんなことをするのは……その、気が引けるのですが……」
ヒューッ。不穏なセリフだぁ。
極楽が地獄に変わる予感がした。あと僕の予感は大体悪い方向だと当たる。
「……あれ?」
身体が、動かない。
どうして?僕は不死身のはずだし、肩の傷も全身が動かないほどの重症では無いはずだ。
まさか毒?毒が塗られていたのか?
だとしたらあの剣士、相当厄介だぞ……。
「いえ、その。私、サキュバスですので……」
なーるほど。
その一言で、僕は現状を理解した。
「もしかして、僕が眠ってる間になんか──ちから的なもの……吸った?」
彼女は僕の方へ向いていた首を横に向ける。
明らかに僕から目を逸らしていた。
「──はい」
絞り出すように返答する仮面さん。
いや。怒らないよ。怒らないとも。
サキュバスに吸われるのなんて男として羨望の対象こそすれ恥ではない。
なんなら、とっても特別で素敵なシチュエーションだってわけさ。願ったり叶ったりだ。
「ふっ。僕も童貞卒業かぁ……。しかも相手はサキュバス……。サイコーじゃないか」
覚えていないのが少しばかり残念だが、仕方ない。
と、感嘆に耽っていると仮面ちゃんはとんでもないことを言ったのだ。
「あの、性交はしてませんよ?」
──え?
「その、私、肉体に直接触れてる場所からも吸えるので……今はその、太腿から」
えーと、つまり?
「現在進行形で膝枕の肉体で、僕のナニカを吸ってるって感じ?」
3回くらい仮面ちゃんは頷く。
「えっと、とりあえず辞めてもらっていい?動けないからさ」
「……はい」
渋々といった感じで彼女は僕の首を膝から芝生へゆっくり下ろす。
5秒くらいしてやっと、指の先くらいは動くようになってきた。
──No.25。
彼女はたしかそんな名前だ。
番号で呼ばれる人なんて、僕は囚人くらいしか知らないが。
彼女は一体何者なのだろうか。現状サキュバスってこと以外わかってねぇぞ。
「改めまして──セイハさん。助けてくださりありがとうございます。」
「礼には及ばないさ。僕が求めたのは君じゃなくて本だし」
始め、僕は彼女が捕まっていたのを見ても「助けよう」など思わなかった。
だが、No.25が持っていた青い本は僕の旅には不可欠だったし、本を渡さなかったり落とさなかったりしてくれていたし、見捨てるのは酷すぎる。
「しっかし、なんであなたはあんなところに?しかも本持ってたし」
「あなたの宿に忘れ物がないか確認しに行ったんです……。そしたら宿の部屋が異空間に変わって行って……。あ、やばいなーなんて思ったらあの人たちが私に襲いかかってきて……」
まぁ、僕のいた部屋に知らん女がいたら気になるわな。十中八九仲間だし。
まぁ今回はその残り一二だったわけですが。
とすれば僕の救援は義務だったとも言えよう。彼女からすれば飛んだとばっちりだ。本当に僕って不幸の星に生まれてきたのかな?
「本を守ってくれてありがとう」
「いえ。その、こちらこそ吸わせて下さりありがとうございます」
それは許可してないよ。
「吸精って気持ちいいもんだと思ってたけど、そんなことないな……。なんか、力が抜けていく感じがむしろ気持ち悪いぜ……」
「気持ちよくなるまで命をギリギリ削りますから。結論的に気持ちよくなるだけなんです。吸精は」
理論が怖すぎないかな。
あぁ、それと──エッチなことはしないのだろうか。しないのだろうな。僕が期待することはそうそう起こらないのがこの世の常だ。
この世界のサキュバスは、えっちくない。それで納得しよう。
けれども、実際白く輝く太ももは見事であった。素敵な足でした。
よーく見てみれば、おっぱい大きいし、でも華奢であるし。
すごいなこの人。プロポーションが抜群だわ。
モデルとか興味無い?てかLINEやってる?
「あの、私の体に……なにか?」
「……いや、その、別に。あ、あれっす。見惚れてた……だけっす……はい。」
なーに言ってやがるんですかねこの
恥じらいを言った本人が見せるなんておかしな話だけど、対した彼女は──照れもしなかった。
クスクスと笑って「サキュバスですから」と言うだけだ。
あ、可愛い。顔見えないけど、すごく可愛い。
仮面の奥にどんな美麗な顔があるかは知らないが、きっと素敵な表情なのだろう。
──あと、僕の嗜好に仮面フェチが増えそうだ。
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