第11話 「森森」

体の痺れが完全に取れた頃、僕はNo.25──言いずらいので仮面さん──と共に草原を歩いていた。


「ここは……オハブラットの丘ですかね」


「おは……なによ?」


しばらく歩いてたどり着いた森の前。

そこで仮面さんは言う。


「オハブラットです。古い言葉で草が生い茂るという意味の言葉です。この森がある以上間違いないかと」


「なるほど。──道案内させてごめんね仮面さん」


「いえいえ」


──僕が発動したスキル、ガープはテレポートのスキルだ。


時間によって能力が強力になり、正午になる60秒間の猶予の間だけ、どこにでも行けるようになる。


このスキルのルール上、1度言ったことがないと瞬間移動できないのだが、そのルールすら超越するのが、正午という時間帯。


それを利用してあの空間から脱出したわけだ。


できるかどうかわからない賭けだったが、ラッキーなことに賭けには勝てた。

この時点で一勝一敗。つまり引き分けってことで。


──と、話を戻してだ。


ともかく、僕はテレポートができた。でも、場所を選ぶ時に逡巡したのだ。


これ、エニギルオに戻っても意味無くない?と。


僕がテレポートする場所は、知り合いが多く、匿ってくれる人が僅かながらいそうなあの街しかない。


それはあのケイオスとか言うやつも分かっているのだろう。


そこで僕はテレポートの座標が決まる瞬間に、少しだけ数値をずらしたのだ。


エニギルオにテレポートしないために。


──あ、座標数値うんぬんは比喩ね。数値とか厳密に決まってる訳ではなくて、何となくでテレポートしてるから。



と、そんなこんなで見知らぬ土地、見知らぬ大自然の中目を覚ましたのでした。だから芝生の上で目を覚ましたんですね。


──そう、仮面さんと一緒に。


ここでラッキー2つ目。

土地勘がある人と行動できるってこと。


これはとても幸運だった。

そのおかげで迷わずエニギルオに行けるわけだ。


何故、エニギルオに向かっているか。


それは彼女(仮面さん)を送り返すためだ。


送って、すかさずどんなドアすら無視して街を出て別の村or街へ行く!


それが当分の目的である。



──それにしても、草が生い茂るとは先人もテキトーな名前をつけたものだ。


もっとこう、なんかねぇのかね?


龍の息吹吹きすさぶ丘的な。いや、丘に息吹吹き荒ばれても困るけどさ。


「龍が現れるとなると一大事ですので」


あ、そっか。この世界龍いるんだ。そりゃそうか。剣と魔法の世界だもんね。


「……で、ここの森は?名前とかあるの?」


「シルワの森です。エルフの言葉で森って意味らしいですよ」


ってことはシルワが森で?ん?なら。


「……森森じゃん」


思わず口に出してしまった。


いや、海外でもそんなのあったか。意味重複しちゃってるやつ。


チゲ鍋とか、フラダンスとか、ガンジス川とか。


あれらって意味を紐解けば鍋鍋だし、ダンスダンスだし、川川だもんね。


おっといけない。閑話休題。


ともかく、エニギルオにたどり着くためにはこの森を抜けねばならないようで……。


「あの、聞いてもいい?」


「はい」


「モンスターでる?」


「まぁ、それなりには」


だよねー。


まぁ、戦えないことは無いけどさ。僕そんなに強くないんだよね。


「大丈夫ですよ。私も戦えますから」


と言って彼女は人差し指を立てた。そして、その指先にふっと、息を吹きかける(仮面つけてるから多分真似だけど)。


すると、その指先に炎が灯ったではないか。


「ふふ、どうですか!」


「爪の先に火を灯すを地でいったよ……貧乏だったの?」


「反応ちがいませんかね?」


いや、だってなんか凄い魔法をあのロリロリ魔法使いが使ってたんで……。


同じ火の魔法ですし、これはちょっと、しょぼ……。


「えいっ」


アッツァッ!?


彼女の指の先の炎が、僕の左手に着弾した。

ちょっと熱を感じたくらいで少し火傷したくらいだけど、それでも熱いんだからな!?


「魔族の魔法をしょぼいとか言っちゃダメですよ?もういいませんか?──よろしい。

それに私は伝説の5元素魔術師──の、素質があるんですからね。そんな偉大な魔術師(予定)にしょぼいなど時が時なら万死ですよ」


5元素?あぁ。ロリロリが言ってたね。ファイブエレメントでしたっけ?


「はい。人には到達できない、全ての魔術を使いこなせる可能性がある魔族の特権の中の特権です」


むふんとドヤ顔──仮面越しだけど伝わる──で大きい胸をそらす仮面さん。ふゆんと揺れるて目に毒である。


いや、それと僕に火を投げる関連性はいかに?


「ないです。ちょっとムカついただけです。あ、でも不死身なんですよね?パパっと再生するのでは?」


しないんですねー、それが。僕にはやっぱり再生能力が備わってないのだ。まぁ、不死と再生が合わされば無敵だし、そこら辺のバランスは神様もとったようである。


「え、それは大変失礼しました。」


ちょっとだけ申し訳なさそうな顔──無論仮面だが──で言う仮面さん。


「いや、いいですけどね。」


もしかしたら、この世界の常識的な話で魔族の魔法を貶すと魔法が飛んでくるなんてのがあるかもしれない。


郷に入っては郷に従え、ローマinローマ。

最後は違うか。でも確かそんな感じだ。


ともかくそのあたり、思慮深く行かなければ。


まぁ、ただ火傷したまま戦うというのもなんなので、僕は皆勤賞スキル「ラファエル」を使う。


左手で触れたものを治すスキルだ。


さて、皆さんは疑問に思うだろう。


左手負傷した場合どうするんだ?と。


このスキル、左手──厳密には左掌に直接触れたものを直すのだが、それはあくまで1番治りが早い治し方だ。


このくらいの軽い傷なら、バージョン2な方法で治せる。


まず左肩に左手を置きます。患部は左前腕なので、手を置けないからなんですね。


そして、そこから患部にエネルギーが集まるイメージでスキルのパワーを流します。


あら不思議、めちゃ時間かかるけど治ります。


「あのー、それどれくらいで治るんですか?」

この治りの速さからして──。


「約3分っすね」


もちろん治している間は、左手を肩に置いたままだ。


正直間抜けな絵面なので早く治って欲しい所である。


それに、こんな軽い表面の火傷でここまで時間がかかるのだから、ズタボロになった暁にはもう、考えたくもない。


「んー、なら大丈夫ですかね。よし、はやく行きましょうか」


「うーっす。」


かくして、僕と仮面さんは森に突入するのであった。

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