ダイダラボッチの砂遊び

武蔵野文学賞の読者賞を受賞されたこの作品は、なんと私の故郷の湧水群の事を綴ったエッセイでした。
作者さんはその情景を趣味のサンドアートで表現し、創作していきます。
そしてその事を表現し創作されたこのエッセイも素敵！

私達もダイダラボッチになれるんだって夢を抱かせてくれる作品でもあります。

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（159文字）

湧き水が多いことで知られてきた東久留米市。
南沢氷川神社から西へ歩みを進める主人公は、水の流れに思いを寄せる。
そして幼少期との視点の違いを、ダイダラボッチの俯瞰と重ねてみた。

家に戻った主人公が向き合うのはサンドアート。
――この砂を使えば、思うがままに景色や世界観を創り出せるのだ。
それはまるでダイダラボッチになったかのよう。
砂の造形、浮かび上がる水の流れ、やがて作業台の上に広がる武蔵野。
枯山水のように静かでゆったりと心が癒される作品だった。

　題名には砂遊びとありますが、実は砂のアート。
　武蔵野とはダイダラボッチが創ったアート作品だったのです！

　そんなくらいに、でっかい作品でした。
　しかも読みやすいです。

　こちらの作品を読んで、私は初めてサンドアートを知りました。
　下からライトアップした透明な板の上に砂を撒き、手や筆などを使って、砂を寄せたり広げたりしながら濃淡をつけて描き上げていく技法。
　まるで砂遊びをするように、何度でも作り直し姿を変えることができる変幻自在なアート。
　その一方で、そのままの形を保ち続けるのは難しい刹那のアートであり、光と影が織りなす幻想的な雰囲気をも湛えています。

　描いては崩し、描いては崩し、主人公の手から生み出される武蔵野の自然は、鮮やかな映像のように私の胸に迫ってきました。
　滾々と湧き出る水は、やがて勢いを増し形を変えて流れゆき、大地を形作っていきます。…続きを読む

砂絵によって表出されてゆく武蔵野の情景を格調高い文章で見事に描いた作品です。

子供のころに身近にあった自然、今は記憶の向こうに流れてしまったものが戻ってきました。
神秘的というよりも身近な森、川にはヤゴとかヤゴとか魚とかが住んでて、時間を忘れて遊んだ記憶。

大人になって、サラリーマンになって、コンクリートだらけの街で暮らすようになって。
特別な場所に行かなくてもそこらじゅうにあった自然の思い出。

この武蔵野の物語をよんで、不意にそんなことを思い出しました。
いつのまにかずいぶんと大きくなっていたのかな、なんて。

楽しい筆致で描かれる、当たり前で美しい自然の光景。

感情を静かに揺り動かしてゆく素晴らしい短編でした。

残暑の森に踏み入って、思いの外冷たい水に足を晒すと子供の頃の他愛ない記憶が過ぎって笑みが溢れ、記憶と少し違って感じると大人になった、時間が経過したことを実感してなんだか切なくなる。
そんなノスタルジー溢れる作品です。

どこか童心に還ったように夢中になってサンドアートに向き合う時間には、今もなお滾々と湧く水源と周辺の環境、そして水に弄ばれ時と共に変わりゆく地形への憧憬が込められているようにも思えました。

子供心に一番過ぎ去るのを名残惜しく感じていた記憶のある曖昧な夏の終わり。
大人になった今、感傷的な気持ちを洗い流して、ポジティブに次の季節へと足を踏み出していくような、パワフルな湧水に手を…続きを読む

地方在住者の私にとっては思いがけない程の、東京郊外の、厚みのある豊かな自然描写に心洗われる思いがしました。
昔を回想しつつ自然の中を探索する僕の前に、伝説の巨人ダイダラボッチがどのように出現するか、楽しみに読み続けると……思いがけないラストが！
全ての大人がクスッと笑えて楽しい気分になれる、そんな物語です。

ただ、歩く。
子供の頃に遊んだ地元の「南沢湧水群」を歩く。

大人になった男は昔を思い出しながら、
森を歩き、
ダイダラボッチに思いを馳せ、
沢の水に、疲れた足を浸す。

川の水の冷たさが、こちらにも伝わってくるような作品です。
いっしょに、武蔵野を散歩してください。

最後のオチが、とても心に残りますから。

最後のオチって。
それは、お読みくだされば。