愛読者たりうる山本氏

小説家を目指す若い男はある夜ついに一本の長編小説を書き上げた。
それは男にとって人生の集大成ともいえる最高傑作であった。
今すぐ誰かに読ませて感想を聞きたいと考えるが、悲しいことに男に知人友人はいない。
男は孤独だった。

そこで自らの通う大学で見知らぬ人に小説を読んでもらえないか交渉するという奇策に出ることにする。
完全なる不審者であるが、最高傑作を書き終えた反動で男は馬鹿になっているのでブレーキはかからない。

「あの、すみません」
「はい、なんでしょう？」

そこで出会ったのが山本氏であった。
男はなぜ山本氏に声をかけたのか？
それは山本氏があの「愛読者」であったからだ。

不審な男と奇妙な男のファンタジックな出会い、パンチ、コーヒー。
そんな短くもほろ苦い物語。

(全6話)