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「――以上が私の率直な感想です」

 私は盛悟氏の作品を読みながら思ったことを全て伝えた。

 思いつく限り明瞭簡潔めいりょうかんけつに話を組み立てたつもりだ。これなら私の意図するところがきちんと伝わっているはずだ。

「どうも……ありがとうございました、山本さん」

 結果的にかなりの辛口批評になってしまったのは正直複雑なところである。しかしファンタジー小説を愛読する者として、ファンタジー小説の批評をするとなればこそ譲ることのできないラインが確固として私の中にはあった。盛悟氏はあまりにも未熟で浅慮、そして不勉強だ。それらを看過かんかして甘い言葉を並べることは私にはできないし、それには何の意味もない。

 だから私は彼を傷付けることになろうとも、プロのファンタジー作家を志す彼のためを思って、あえて厳しく評価を述べた。彼が最初の読者に私を選んだのも何かの運命だ。ならば自らが汚れ役になることにいささかの躊躇ためらいもない。私は与えられた責務を全うするだけだ。

「……ここは私が払っておきます」

 そう言って伝票を手に立ち上がった盛悟氏の目はどこかうつろだった。彼もまさかここまでの辛口批評を浴びせられるとは思っていなかったのだろう。どうやら彼はこの作品に過大な自信があったようだ。私が賞賛してくれると踏んでいたのだろう。しかし作品のクオリティは誤魔化せない。いつか誰かが彼に引導を渡さねばならない。それが今日という日だったのだ。

「では……失礼します」

 ショックを受けたのだろうか。それともまだ認識が追いついていないのだろうか。どちらにせよ彼は私の言葉で一度挫けるだろう。夢が霞むだろう。もしかしたら筆を折ることになるかもしれない。

 会計を済ませた盛悟氏が扉を開き、ふらふらとした足取りで店から出て行く。入店した時と同じ、鐘の音がカランカランと鳴り渡った。

 心から頑張ってほしいと思う。いつの日にか私の言葉を乗り越え、相応しい力量を身に着け、プロのファンタジー作家になって欲しいと思う。

 今日私と出会ったのはそのための最初の試練だったのだ。今は彼を傷付けるだけの私の言葉も、いつの日か必ず彼を大きくする苗床なえどこの一部になるだろう。

 感謝されるのは彼が大成するその日まで待とうではないか。


 私は追加で注文していた二杯目のアイスコーヒーを飲み干し、良い気分で喫茶店を後にした。

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