第15話
6月に応募した年末のフェス出演のためのオーディションでは、無事ライブ審査も通過した。
そしてライブ審査ではグランプリを獲得することができた。フェスへの出演権を得たのだ。
一番小さなステージのオープニングアクトとしての出演だが、僕らには大きすぎるくらいのステージだ。
僕、奏と瑞季・琴葉の3人は大晦日の朝、静かなフェス会場内を散歩していた。
「広いね〜」
「ね、俺もこのフェスは来たことあるけど人がいないとこんなにも広く感じるんだな」
瑞季がぐるっと会場を見渡す。
「今日の私たちのステージだけでキャパ6000だもんね、頑張らないと」
「スタジオゴーストのリベンジ、絶対に成功させようね」
「もちろん、入場規制かかるくらいにパンッパンにするぞ!」
本番前、いつものように円陣をし、背中を叩き合う。
今日は3人とも今までにないくらいに緊張していた。瑞季は床に蹲っている。僕もまともに立っていられない程緊張していた。
なんとか互いを奮い立たせてステージに上がる。最後のダメ押しとばかりに3人でハグをし合う。落ち着いてきた。
琴葉がマイクの前で口を開く。
「天色SUNSETです、はじめます。」
歓声が上がる。
瑞季のカウントに合わせいつものようにに楽器を鳴らす。
見渡す限りの人、人、人。
一番後ろがどこか分からないほどだ。
思い思いに揺れている。
それを見て嬉しくなり、客を煽った。
手が徐々に上がってくる。
このステージはワンマンではなく、フェスのオープニングだ。僕たちの仕事は会場のテンションを最高潮まで高めることだと思い出す。
コーラスに気持ちを込める。
琴葉の歌は今までにないくらいに強く、透き通っている。
本番前は不安そうだった瑞季もいざ曲が始まると寸分の狂いもないビートを刻んでいる。
やはりライブの時間は過ぎるのが光のように早い。
「最後の曲です、サイダー・ワールド。」
今日一番の歓声が上がった。
やはりヒット曲のパンチ力は凄まじい。
曲のラスサビが来た。琴葉が「歌って!」と言うと、会場内で大合唱が起きた。
僕は感極まって泣きそうになる。
こんなに沢山の人が、僕の曲を知って、歌ってくれている。
この光景を目に焼き付ける。
そして目を閉じてその無数の声に耳を傾ける。
大歓声の中、ステージを降りた。
3人で笑いあう。
「なんだ、やればできるじゃん!」
「めっっちゃ楽しかった!」
「あのさ、今決めたことがあるんだけど」
瑞季が急に真面目な顔になる。
「現役での受験は諦めて、しばらくバンドを頑張らない?」
久々に耳にした、受験という言葉。全く意識していないに等しいくらいだったから、僕と琴葉は迷わず同意した。
この瞬間、高校生活はバンドに託すことになった。
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