青空に広がった音は、どこまでも澄んでいた

SAM-L

はじまりのうた

第1話

 水が染み込んで、泥の様になった砂の上を裸足で歩く。砂が足を掴んで離さず、少し歩きにくい。この感覚が好きだ。

 乾いた砂の方へ戻り、サンダルを履く。ギターを手にして、僕は再び歌い出す。


 家は海から歩いて十分ほどの所にあり、小さい時から海はいつもそばにあった。夏休みに入り、ここ最近はいつも重いエレキギターをもって浜辺に来ている。

 そして生音で弾き語りをする。観光客の視線を感じることもあるが、何よりもどこまでも続く空と海の青の間で歌う開放感が気持ちよくて仕方がなかった。


 ちなみに、僕の名前はカナデだ。親が狙ったのかは分からないが、その名前の通りに音を奏でることが大好きになった。


 ちょうど夏のうたを歌っていた時のこと。


「あっ、」

 プツンと音をたてて弦が切れた。替えの弦は買っていない。電車に乗って駅近くの楽器屋まで買いに行かなければならない。


「めんどくせー」


 立ち上がって片瀬江ノ島駅へ向かう。夏休みが始まったばかりのこの時期の江ノ島は毎年観光客で溢れている。

 小田急線に乗り藤沢駅へ向かう。いつもと同じ道のりだが、ギターを背負っていると景色が違って見える。


 初めてギターを買った時から通っている和泉楽器店に入ると、毎度威勢の良い声が聞こえて来る。

「いらっしゃーい」

「こんにちは。あのー、弦切れちゃったんで、いつものこれでお願いします。」

 ギターを持って来ているときは毎回、店主に弦を張ってもらう。

「ちょっと待っててね〜」


 弦を張って貰っている間、いつもは楽器をぼーっと見て待っているのだが今日は沢山の紙が貼られた掲示板を眺めていた。

 その中に一つ気になったものがあった。


【バンドメンバー募集中】

 ・藤沢近辺に住む高1男女

 ・ドラム以外のパート

 ・ジャンルはポップ・邦ロック

 連絡先→Twitter・@mizuki_drumのDMまで


「おお、僕じゃん。」

 条件にぴったりだったのだ。いつかバンドは組みたいとずっと思っていたということもあり、無意識のうちに声が出ていた。


「あー、それね。うちにずっと通ってくれてるドラムの子が貼っていってくれたんだよ。君、まだバンド組んだことないでしょ。連絡してみたら?」

 店主の勧めもあり、ドラムの少年に連絡をとろうと決めた。


 小さいけれど、大きな決意である。

 これが後に青春の全部を共にする仲間との、全てのはじまりだった。


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