第2話

 朝、騒がしい蝉の声で目が覚める。家は藤沢駅の少し南、片瀬山にある。山というだけあって、近くには沢山の青々とした公園がある。そのせいで夏はいつも蝉に起こされる。


 部屋の隅にある電子ドラムに向かいイヤホンをはめて深く息を吸う。

「すうっ」


 ドンチ、タチ ドンチ、タチ ドンチ、タチ

 ゆっくりと八ビートを刻む。心地良いリズムになって来たところで、十六ビートを力強く叩く。

 ドン、パン ドドドン、パン ドン、パン ドドドン

 テンションが上がって来た。

 ドンドンドンドンドンドン、シャン〜


「ミズキ、朝からうるさい!どうしたの急に!」

 気持ちよくキメたところで母さんに怒鳴られた。くそっ、いいところだったのに。


 瑞季という名前は男女どちらにもいるが、俺は男だ。今日は人生を変える一日になる、はず、の日なのでテンションを高めてから学校に行きたかった。最も、今日は一学期の終業式なので授業はないのだが、そんなことはどうでもいい。


 俺は小学校低学年の頃から親の影響でずっとドラムを叩いてきた。ここ二年くらいはYouTubeに叩いてみた動画もアップし、登録者は五万人くらい。そこそこの有名人だ(笑)。

 しかし一人でやり続けるのも飽きてきたのでバンドでも組もう、と思っていたところだった。


 しかし学校にそんなことをやってくれそうな子はいない。そこで思いついたのが、ずっとお世話になっている和泉楽器店の掲示板で募集をしよう、ということだった。

 朝食もそこそこに家を飛び出した。

 はやくメンバーを集めたくて仕方がなかった。



 キーンコーンカーンコーン


 鐘が鳴った。

 終業式が終わり、最高の開放感に包まれる。


「おい、ミズっち!このあとカラオケいかね?」

「いや映画だろ!」

 みんなは放課後何をして遊ぶか楽しそうに話している。

「ごめん、今日どうしてもやりたいことあるから!!」

 一言だけ断って、教室を出た。早足で和泉楽器店へ向かう。


「こんちわ!」

 勢いよく扉を開けた。

「いらっしゃーい」

 いつもの声が聞こえてくる。

「あの、バンドメンバーを募集したくて、これ貼りに来たんすけど…」

「お、バンド組むの?いーじゃん!目立つとこに貼っていきな〜」

「ありがとうございます!」


 ぱんっ!

 掲示板に貼った紙を眺めて、手を合わせる。

「仲間が集まりますように!」

 バンドが組めることを願って店を出た。大丈夫だと自分に言い聞かせる。あとは、待つだけだ。



 和泉楽器店で募集をしてから一週間が経った。俺はベッドに寝転がりスマホを眺める。

「やっぱり来ないかぁー、年を高1に限定したのがいけなかったかな〜。」

 ぶつぶつと口にして、ドラムに向かおうとしたその時、スマホが鳴った。

「お?」


 Twitterに知らない人からのDMが来ていた。

 しかもプロフィールにはギターを弾くと書いてある。

「来た!!」


 藤沢の、俺の家よりも更に南、海沿いに住む高一男子からの連絡だった。


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