届けたいから

第11話

 バンドを組んで、2度目の夏が来た。僕、奏は終業式も終わり家でダラダラと過ごしていた。外は暑いし、蝉は煩いし、勉強もする気にならなかった。


 ピロンッ

 ふと瑞季からの連絡が届いた。


 瑞季【3人でチャリで海沿い走らね?】


 夏開始早々、元気なやつだ。まぁ、琴葉は家が横浜で遠いし無理だろうなと思い返信を打つ。


 奏【琴葉がいいって言うならいいけど】


 今日は家にいたいなーと呟き、麦茶を手に取る。


 ピロンッ

 また返信が来た。


 瑞季【琴葉はチャリでこっちまで来るって】


 ぶっ、

 麦茶を吹きかけた。まじか。まあ琴葉はああ見えてアクティブなとこがあるからな、と思い返信を考える。と、また返信が来る。


 瑞季【3時ごろに奏ん家行くから】


 こうなったら行くしかないなと思い、【おけ】とだけ返した。



 瑞季は約束通りきっかり3時に家に来た。琴葉も一緒だった。

「よう、お待たせ!」

「いや時間きっかりだし待ってないけど、琴葉は大丈夫なの?」

「私は全然!こんくらいへっちゃらだよ」

 瑞季と同じくらい元気かよ、と思いつつ自転車に跨った。



 3人で縦に並んで海沿いの道を走る。潮の香りがして、左手から波の音がする中、風を切って進む。心地が良く、とても満たされた気分になった。ほんの少し、来て良かったなと思った。


 僕らは途中休憩も挟みながらゆったりと走り続けた。湘南大橋を超え、1時間程して大磯まで来た。


 自転車を止め、あたりをぶらりと歩く。近くに売店があったため、立ち寄った。

「なんか買おうぜ」

「待って今めっちゃ炭酸飲みたいっ!」

 琴葉の視線の先には瓶のサイダーがあった。

 今時瓶なんて珍しいなと思い手に取る。

「みんなで飲む?」

「よし、飲むかっ!」


 それぞれが瓶を手にし、自転車の元へ戻る。皆でゴクゴクと喉を鳴らしサイダーを流し込む。と、瑞季が少し苦い顔をしている。

「俺、実は炭酸苦手なんだよね」

 へへっという笑いと共に衝撃の一言を発した。

「ええっ!?」

 瑞季らしくないというか、なんか意外だった。まだまだお互い知らないことばかりだ。


 ぬるくなったサイダーを飲み干し、折り返して進んだ。今度は右手に海がある。行きよりも少し涼しい風がシャツの中に入り込んでくる。


 江ノ島近くまで戻ってきた。丁度、夕焼けが綺麗な時間帯だ。3人で夕日を見たり、写真を撮ったりして過ごす。悔しいが、来てよかったなと思った。

 少し遠くから来た琴葉のこともあるので、今日はこれで解散となった。




 家に帰り、机に向かった。帰る途中から今日のことを曲にしようと決めていた。それくらい、色々な風景が、気持ちが、心に残っていた。歌詞はすぐにできた。


 売店のサイダーをモチーフにした。

 タイトルは、


『サイダー・ワールド』

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