第12話

 夏休みも半分が過ぎた。バンドは7月の終わりに奏の書いたサイダー・ワールドを出してから、活動はしていない。


 私、琴葉は昼前になって目を覚ました。ふと、携帯を見ると通知の数が凄いことになっていた。何かあったのかな?と思いバンドグループからのメッセージを開く。


 奏【ねえ!見た!?】

 瑞季【見た!やばい!やばすぎる!!】

 奏【再生回数も凄いことになってる!】

 瑞季【ほんとだ!やばい!】

 奏【琴葉はまだ起きてないの?】


 何がやばいんだろう?そう思い聞いてみると、超大物バンドのボーカルがTikTokで流れてきた『サイダー・ワールド』を絶賛し、大バズりしているということだった。


 この曲は、今までで一番自信もあったし、TikTok上で夏休みの学生にも多く使われている様で、私は自分の声が同年代の彼らに聴かれているということが嬉しくも、恥ずかしくもあった。しかしこの伸びは予想すらしていなかった。



 1週間後、バズって以来初めて3人で顔を合わせた。

 ヒットは続き、スマホを触れば自分たちの曲を聴かない日は無い。テレビでも特集される様になり、他の曲の再生数も軒並み伸びている。

 何となくで今までアー写やMVにも顔は出していなかったので認知された時には「現役高校生覆面バンド」という扱いになっていた。


「久しぶり、なんか前会った時と状況が違いすぎるね」

「私はまだ実感が湧かないな」

「俺もそうだな〜」


 3人で色々なことを話した。二人は今までで一番真面目な顔をしている様に見えた。


「実は、業界の大人からスタジオゴーストでワンマンしないかって言われたんだよね」

 話の途中、瑞季が驚きの発言をした。

「これを直接伝えたかったのもあって今日会おうって言ったんだ」


 スタジオゴーストとは、東京にあるライブハウスで多くのバンドマンが目標にしている。キャパは約2500人。デビューもしていない、しかも高校生の私たちには大き過ぎるハコだ。


 初のライブから今日までの間、6月には2度目の対バンをし、そして大型フェスへの出演のためのオーディションに応募をしたりしていた。

 10月ごろに初のワンマンを横浜の小さなライブハウスでやろうと計画していたが、まさか会場がスタジオゴーストになるとは夢にも思わなかった。


 少しずつ自分たちの手でファンを掴もうとしていた矢先の出来事で、私は困惑もしていた。

 奏も独り、深く考え込んでいる様に見えた。



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