第9話

 年が明けた。僕、奏と瑞季・琴葉の3人は江ノ島に初詣に来ていた。僕たちは冬休みに入ってから集まることが更に増えた。クリスマスも、大晦日も一緒にいた。


 共に過ごす時間が増えるほどにどんどんと仲も深まっているという実感がある。

 そのためか月に一回、世に出している楽曲も少しずつクオリティが上がり、遂にファンを名乗る人まで出てきた。

 初めは実感が湧かなかったが、とにかく嬉しかった。


 江ノ島は初日の出を見た人や初詣に行く人でごった返していた。

 僕たちは人と人との間を縫うように歩いている。

「それにしても凄い人だよね〜初詣に行くだけで疲れちゃうよぉ。毎年こんな混んでるの?」

 琴葉が辺りを見渡しながら聞いてくる。


「そうだね、毎年来てるわけじゃないけど大体こんなだと思うよ」

「俺も去年とかは初日の出だけ見て帰っちゃったからな」

 今日は初詣に行くだけだが、琴葉は横浜に住んでいるというのもあり、朝が早いので少し眠そうな顔をしている。


「お賽銭も終わったし、あと何する?」

 瑞季の投げかけに辺りをぐるっと見渡した時、境内の端に絵馬が掛かっているのが目に入った。

「あれ、書かない?」

「いいね!やりたい!」

「おーし、じゃあ行くか〜」


 人の波に逆らって絵馬を書きに来た。琴葉がペンを取る。

「なんて書こうか?」

「さっきはそれぞれなんてお願いしたんだっけ?」

「だから内緒だって!どさくさに紛れて聞き出そうとしないでよ〜」

 瑞季の言葉に琴葉は大袈裟に怒ったふりをする。


「僕は、3人で作る音楽がもっと色んな人に届いて欲しいかな」

「うん、それはお願いしたいね!」

「あと、この日常が、ずっと続いて欲しい」

「うん。それも叶うといいな」

「実は私がさっきお願いしたのもそれなんだ」

 琴葉は顔を赤らめボソッと言った。


 これを願っているのは僕だけかもしれない、そう思っていたが3人共通の想いだったらしい。その事実に思わず嬉しくなる。


 人は他人の行動から気持ちを分かろうとしたり、分かった気になったり、都合よく解釈する事はできるけど、直接言葉で伝えられないとその答え合わせはできない。

 伝えなくても伝わることの美学というものもあってもいいと思うが、伝えなければ伝わらないこともある。と、僕は思う。


 だから僕は言葉を大切に、音に乗せて紡いでいきたい。そんなことを考えていた。


《私たちの音楽が沢山の人に届きますように。

 3人でいるこの日々がずっと続きますように。》


 琴葉の達筆な文字で書いた絵馬に名前を残す。

 最後に名前を書いた瑞季が絵馬を掛ける。


 そして3人で並んで、手を合わせた。

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