卒業のうた

第16話

 年末のステージでは大成功を収め、天色SUNSETは若者だけでなく幅広い世代に浸透していった。


 それから4ヶ月が経ち、高3の春になった。

 桜が散る、出会いと別れの季節。

 そのなかでも僕らは変わらずに学校に行き、曲を作り、練習し、レコーディングしたものをリリースするという日々を過ごしていた。


 僕、奏は新しい曲を作ろうと一ヶ月ぶりに机に向かっていた。

 次の曲の題材は何にしようか考えていて、自分が日常の中で作りたい曲はほとんどやり尽くしたことに気が付いた。

 そこでいつもとは少し違う曲を作ろうと思った。この季節だから思いついたのだろう。

 今までこれと言った居場所の無かった僕にできた家族のような存在、このバンドに向けて、出会ってくれたことへの感謝の歌を書こうと思った。


 いつもよりじっくりと時間をかけて、丁寧に書いた。それは何よりもメンバーの2人が、バンドが、僕にとって大切な存在だったから。


 家での空いた時間だけでなく、電車の中などでも書いて、ようやく出来上がった。タイトルは『home』だ。


 今回は対面で曲を渡すことになり、藤沢のカフェに入り、2人を待った。

 カラン、と音がして二つの顔が覗く。

 僕は手を振って琴葉と瑞季を招いた。


 歌詞を見せ、イヤホンを渡して曲を流す。

 イントロが流れ始めると、それぞれが足などでリズムを取っていた。歌が入ると共に、2人の表情が変わった。今までには無かった反応だ。

「ちょっと歌詞見せてもらっても良い?」

 琴葉が身を乗り出す。

 紙に書かれた歌詞を舐めるように見てから一言

「いいね」とだけ言った。

 一瞬真剣な顔つきになり、すぐに笑顔を見せてくれていた。

 伝わったのだと思い、安心した。


 曲に込めたのは、僕という存在に居場所を作ってくれたことへの感謝と、例え離れたとしてもいつも心は側にありたいという思い、そしてバンドに対する「大好きだ」という気持ちだった。

 この曲は後に、バンドの転機に僕たちを支えてくれる、本当に大切な曲になるのだった。

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