第2話 異世界ダンジョン-2

ゴブリン程度にあんなに苦戦するとは思わなかったな。それに、ゴブリンと一緒に棍棒も消えてしまったので、せっかくゴブリンから得たスキルが生かされない。


メィルは、3mほどある天井付近を浮いている。俺の少し斜め前を飛んでいるので、羽衣の中身が見えて白いカボチャパンツが丸見えであるが、色気は皆無なので気にしない。恐らく、暇だから先に進んでいるだけだろう。


「メィル、俺の少し後ろを飛んでくれないか? それじゃあ、お前が先に敵に見つかってしまうだろ。」

「そんなヘマはしないよ! 私には千里眼と透明化もあるんだから!」


メィルはそう言って引き続き俺の少し斜め前を飛ぶ。やはり、遠回しに言っても伝わらないか。


「メィル、率直に言うぞ。そのままだと、お前のパンツが丸見えで気が散る。」


そう言われ、メィルはバッとお尻の裾を押さえる。少し顔を赤くしてこちらをにらんでくるが、自業自得だろうから無視する。そして、メィルは少し高度を落とし、さらに俺の後ろの方へ回った。


「お兄ちゃんのエッチ! 変態! 本当にもう、助けないんだからね!」


ああ、助けないとは言っていたが、さっきの戦闘ぶりをみて偵察をしてくれていたのか? それは悪い事を言ったな……。


「すまない、メィル。メィルが居てくれるだけで、気持ちの上でもすごく助かっているよ。」

「そ、そう? でも、しばらくは助けてあげないんだから!」


俺が素直に謝ったのが意外だったのか、思ったよりも怒りが続かずにプイッと顔を背けるだけで終わった。しかし、たまに後ろをチラチラと確認しているので、後方からの敵襲を見てくれているみたいだ。まあ、今のところ一本道だから、後ろからモンスターが来るとは思わないが、それを言うのも野暮だろう。


そして、通路に初めての分岐があった。右は引き続き通路で、左側は少し行ったところが空間になっているようだ。とりあえず、空間がどうなっているのか気になるのでそちらを先に確認することにした。


覗いてみると、一般的な学校の教室くらいの広さに見える。そこで、何をしているのか、ナイフを持った犬の獣人のようなモンスターが歩き回っていたので鑑定する。


コボルト(亜人):HP15、MP10、攻撃力10、防御力7、素早さ8、魔力3、装備:ナイフ・攻撃力3、皮の鎧・防御力2、スキル:剣術(1)


以外とステータスが高い上に装備までしている。どう見ても素手の俺では分が悪い。ここは、さっきの分岐点に戻った方がマシか?


「お兄ちゃん、あれ見て。」


メィルは、それの後ろから小声で声をかけてくる。さっきの事はもう怒っていないようだ。そして、メィルが指さしたところを見ると、コボルトの後ろに小さな宝箱が見える。コボルトは、あれを守っているのか?


「宝箱か。しかし、今の俺にコボルトの相手は少しきついぞ?」

「そうなの? さっきのゴブリンと大して変わらないように見えるのに。でも、宝箱が気になるぅ。」


メィル自身は鑑定を持っていないので、見た目だけで判断しているのだろう。見た目だけで言えば、体格もゴブリンと大して変わらないからな。しかし、装備を含めたステータスでは俺と同等かあっちの方が上だ。やはり、一旦引いて……。そう思った時、コボルトの鼻がヒクリと動き、こちらに向かって走ってきた。まさか、匂いで俺達が居る事に気が付いたのか? 仕方ない、狭い通路よりはこっちの空間の方が戦いやすそうだ。俺は意を決してコボルトに向かって走る。


コボルトが右手でナイフを振ってきたので、それをコボルトの左横に飛んで回避する。腕の可動域の問題でこれ以上こっちに振れないからな。そのまますれ違い、がら空きになった宝箱に走る。鑑定!


木の宝箱。罠は無い。


簡素な説明ではあるが十分だ、罠が無いならそのまま宝箱を開ける。すると、見たことのある巻物があったので、俺はすぐ使用する。火魔法(1)を獲得した。


「これでどうだ! 火魔法!」


俺は得たばかりの火魔法を撃つため、コボルトの方へ手を向ける。こちらに走りかけていたコボルトは、何をされるのかと思って顔をかばい、立ち止まる。そして、俺の手から火魔法が出る。……シュボッと1cmくらいの火が。使えねー!


しかし、コボルトは火が苦手なのか、警戒して近づいてこない。ジリジリと距離を詰めては着ているが、どうしようか迷っているようだ。しかし、時間をかけていると他のモンスターが来るかもしれないので、俺の方が不利だろう。俺はコボルトに向かって走る。コボルトは身構えて、俺が近づくと同時にナイフを突き出してきた。俺はぎりぎりそれを避け、コボルトの腕を掴む。


「火魔法!」

「ぎゃうっ!」


毛深い腕の毛が意外にも良く燃え、コボルトは熱さでナイフを取り落とした。そして、油でも塗っていたかのように全身に火が移り、しばらくして動かなくなり、装備と共に消えた。俺は剣術(1)のスキルを得たようだ。


経験値が溜まりました。レベルが1になりました。HPが10増えました。MPが5増えました。攻撃力が2増えました。素早さが2増えました。


「は? レベル?」


俺は初めて聞く声と、レベルという疑念に困惑する。さらに、ステータスは俺が振るわけではなく、自動的に上がったようだ。さらに、コボルトの消えた後に、短くはあるが剣が落ちている。ナイフよりも長いので、コボルトのドロップ品だろう。


ショートソード・攻撃力4 材質は鉄。手入れがされていないので切れ味は良くない。


切れ味は良くないみたいだが、素手よりはマシだろう。軽く振ってみると、今の俺でも簡単に振ることが出来る。剣術の効果と、ステータスのおかげだろう。俺は改めて自分のステータスを確認する。


源零(分裂体):HP20、MP15、攻撃力12、防御力10、素早さ12、魔力10、装備:ショートソード・攻撃力4、ただの服・防御力0、スキル:鑑定、空間魔法(4)、スキルの吸収、棍棒術(1)、剣術(1)、火魔法(1)


自分のレベル表記は見当たらなかったが、確かにステータスが上昇している。さすが勇者が攻略したダンジョン、仕様がRPGだぜ! ま、それも嫌いじゃないがな。俺はショートソードを腰に差そうとして、鞘が無い事に気が付いた。ドロップするなら鞘ごとドロップしてくれよ……。俺は仕方なくアイテムボックスへ入れる。


この体のいいところは、飯を食わなくていい事と、トイレに行かなくていい事だな。ついでに睡眠も必要は無いが、精神的に疲れた時は眠くなる時はある。まさにRPG仕様! そう思っていたところで、休憩したくなった。俺は部屋の奥へ行き、壁に背を持たれかける。唯一の入口を見ながら、あれこれと考えているうちに、眠くなってきた。


「お兄ちゃん! そろそろ行こうよ!」

「ん? 俺は寝てしまっていたのか。」


俺の顔を覗き込むメィル。ステータスのおかげか、分裂体という特殊な体のおかげか、寝ている間に筋肉が凝り固まるという事は無く、痛みも無い。洞窟内はボンヤリと常に明るいため、今が何時位なのか全く分からない。まあ、仮に時間が分かったところで余り意味は無いが。俺は身を起こすと、小部屋から出る。


そして、分岐点にくると、先ほどのゴブリンがリポップしたのか、別のゴブリンかは分からないが、一匹のゴブリンが居た。ゴブリンは、今回も棍棒を振りかぶっての叩きつけを行ってきたので、それをショートソードではじいてやると、あっさりと体勢を崩したので、剣で胸を突き刺す。やはり嫌な感触がして、胸から血が溢れてくるが、最初の時程の嫌悪感は無かった。ゴブリンは消滅し、棍棒術があっさりと2になる。まあ、棍棒は無いんだけどな。


経験値が溜まりました。レベルが2になりました。HPが10増えました。MPが5増えました。攻撃力が1増えました。防御力が1増えました。素早さが1増えました。魔力が1増えました。


「もうレベルアップか、早いな。」


2度目のレベルアップの声を聞いた。無機質な女性の声で、淡々と伝えてくる。ステータス自体は自動で上がるが、割り振り自体は以前と同じで、1レベル当たり5ポイントのようだ。HPは1ポイントで10あがり、MPはレベルごとに5あがり、攻撃力、防御力、素早さ、魔力は1ポイントで1だな。自分のステータスを見ながら、確認を終えた。


源零(分裂体):HP30、MP20、攻撃力13、防御力11、素早さ13、魔力11、装備:ショートソード・攻撃力4、ただの服・防御力0、スキル:鑑定、空間魔法(4)、スキルの吸収、棍棒術(2)、剣術(1)、火魔法(1)

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