第12話 異世界ダンジョン-12

変わった武器を見て考えが変わったのか、マーメイドは距離を取る。そして、ハープを鳴らし始めた。綺麗な歌声だが、どうやら今回は抵抗に成功した様で、俺の意識は正常だ。俺は水銃に水魔法を付与すると、銛の周りが渦の様に巻き、ドリルのようになった。それを一生懸命歌っているマーメイドに向け発射する。

やはり、水魔法を付与した銛は水の抵抗を受けることなく高速でマーメイドのわき腹を貫く。そのあたりの水がうっすらと赤色に染まる。綺麗な顔を苦痛に歪めたマーメイドが、再び魔法主体の戦闘に変えるが、怪我のせいかさっきのような素早い動きではない。精彩を欠いたそんな動きでは、俺の水銃を躱すことは容易では無いだろう。

結果、何度かは水銃を回避したものの、段々と動きが悪くなり、最後には心臓のあたりを銛に貫かれて消滅した。


経験値が溜まりました。レベルが60になりました。HPが100増えました。MPが40増えました。攻撃力が10増えました。防御力が11増えました。素早さが5増えました。魔力が4増えました。スキル:幻術、魅了を獲得しました。水中行動補正(小)が水中行動補正(中)になりました。水魔法のレベルが4になりました。


後には、真珠のネックレスがドロップしていた。鑑定してみる。


真珠のネックレス:装備している間、魅了にかかる確率が50%下がる。サイズは自動的に装備者に合わせてサイズ変更される。


これがあれば、もうマーメイドの魅了は怖くないな……ただ、真珠のネックレスを男の俺がするのも変か?


「わぁ、高そうなネックレス! お兄ちゃん、私にちょうだい!」

「アホか! 見た目よりも効果重視だろ! というわけで、お前にはやらん。」

「ぶーっ、お兄ちゃんのケチ!」


とは言ったものの、首にかけるのはあれなので、試しに手首に付けてみる。すると、自動的にサイズ調整が行われ、ブレスレットの様になった。なるほど、装備するだけでいいなら装備場所はどこでもいいのか。……葬式の数珠みたいだな。それはともかく、さらに水中行動がしやすく……というよりも、水中の方が陸上よりも行動しやすくなったと感じるぐらいだ。スキルの恩恵が凄まじいな。これで尾ひれがあれば人魚の様に行動できそうだが、誰もおっさんの人魚姿なんて見たくないだろうから自重する。


「なっ、なんだ?!」


俺の横を高速で通り過ぎるものがあった。Uターンして戻ってくるのは、上半身が馬、下半身が魚のモンスターの様だ。とりあえず、鑑定!


ケルピー(水生):HP300、MP120、攻撃力100、防御力30、素早さ100、魔力40、スキル:水中行動補正(大)、HP自動回復(中)、素早さアップ(中)


今の俺にとっては大したステータスでも無かったが、その素早さだけは目を見張るものがあった。それに加えて水中行動補正(大)の効果か、素早さの実数以上の動きを見せている。さっきはUターンだったが、今は鋭角ターンすら行い、体当たりをしてくる。これだけの動きをしてくるモンスターを相手に、銃では不利なのでフォルムを盾と短槍にし、盾でケルピーの攻撃を受け流して耐えている。


「くっ、動きが早すぎる!」


水の中では、麻痺攻撃をしてもかすり傷さえ与えれそうにない。槍を突き出しても、それをくるりと遊ぶように回避するのだ。さらに、水中では火魔法や土魔法は意味を成さず、木魔法や風魔法では効果が激減する。水魔法と闇魔法はいつも通りに使えるが、当てたところでHP自動回復によって致命傷になる前に回復されてしまう。こうなったら、次の攻撃に合わせて奇策を取るしか無いようだ。そして、ケルピーが鋭角ターンで体当たりをしてきた瞬間。


「空間魔法! 水を収納だ!」


空間魔法のレベル5で、一定範囲のアイテムをアイテムボックスへ入れられるようになっている。水はモンスターの所有物というわけではないので、ケルピーの周りの水をアイテムボックスへ入れる事に成功した。一瞬ではあるが、水の無くなったケルピーの動きが止まる。


「くらえ!」


すぐに水が戻り、俺の槍がケルピーの急所を突く前に逃げられてしまった。しかし、かすり傷を負わせる事には成功した。俺の攻撃にはすでに麻痺を付与してあり、徐々にケルピーの動きが悪くなってきたので、その隙にケルピーを刺して止めとした。


経験値が溜まりました。レベルが67になりました。HP50が増えました。MPが35増えました。攻撃力が10増えました。防御力が5増えました。素早さが7増えました。魔力が8増えました。スキル:素早さアップ(小)を獲得しました。槍術がレベル5になりました。


そして、ケルピーのドロップアイテムは魚肉の白身だった。とりあえず魚肉をアイテムボックスに放り込む。ついでに、今の自分の現状を把握しておくとしよう。


源零(分裂体):HP520、MP345、攻撃90、防御力75、素早さ87、魔力72、装備:神器フォルム・攻撃力140、ただの服・防御力0、ラックの腕輪(極小)、髑髏の指輪、真珠のネックレス、スキル:千里眼、超越者、鑑定、スキルの吸収、指揮、時空魔法、怪力、魅了、幻術、悪食、麻痺攻撃、集中力アップ(中)、反応速度アップ(中)、ジャンプ力アップ(中)、スタミナアップ(中)、水中行動補正(中)、攻撃力アップ(小)、防御力アップ(小)、素早さアップ(小)、HP自動回復(中)、MP自動回復(大)、棍棒術(8)、剣術(5)、銃術(3)、槍術(5)、盾術(2)、格闘術(3)、火魔法(4)、土魔法(4)、木魔法(4)、風魔法(4)、水魔法(4)、闇魔法(2)、光魔法(1)、空間魔法(5)、火耐性(中)、土耐性(小)、魔法耐性(小)、物理耐性(小)、麻痺耐性(小)、持ち物:低級MPポーション2個、低級HPポーション5個、道着、豚肉(ロース、ヒレ、ハツ、レバー)、魚肉(赤身、白身)


結構な数のスキル、持ち物なんかが増えたな。正直、自分でもどのスキルが何にどれだけ影響しているのかわからない。まあ、無いよりはあった方が強くなるんだろうけど。ケルピーの攻撃で服が結構傷んできたが、破れるまでは道着に着替えるつもりは無い。だって、ダサいし。


「よく見たら、フォルムの攻撃力結構あがったな?」

「です! ご主人様が強くなれば成るほど、ボクも強くなるのです! ご主人様が一定の神力になればボクも一段階上の性能になります!」


神力というのはいまだによくわからないが、女神であればランクが上がったらという事だろう。俺自身にはランクは無いが、レベルがあがればフォルムも強くなるという事で理解しておく事にする。それにしても水中行動補正は素晴らしい。まるで自分が初めから水中で生きてきたかのように感じるくらいに動き易い。俺、これからは水中に住もうかな……。


どうでもいい事を考えながらも、敵に見つからないように水中を探索する。時々聞こえてくるマーメイドの歌声や、ぷかぷかと浮いているジェリーフィッシュを無視する。出来る限り早くクリアするためだ。倒すほどレベルは上がるのだろうけど、同じモンスターを倒しても得られるものは少なくなる。それならば、階層ボスを倒す方がよっぽど良いと判断した。


探索の結果、岩の壁面にボス部屋の扉があった。勇者がどうやってこの階層を突破したのか、はたまた、階層がランダムなのかしらないが、水中にある扉程無意味なものは無いだろう。扉に手をかけると、すんなりと開く。当然、中も水で満たされていた。いままでのボス部屋の数倍広い部屋の中央には、ただ一体のモンスターだけが居た。だが、その一体のモンスターがでかすぎる……まるで船の様な大きさだ。とりあえず、鑑定!


シーサーペント(水生):HP1000、MP250、攻撃力120、防御力100、素早さ70、魔力80、スキル:水魔法(6)、水中行動補正(極)、HP自動回復(小)、MP自動回復(中)、水魔法無効


シーサーペントは、ゆったりと動き出したかに見えた瞬間――。


「ぐはっ、いつの間に?!」


気が付くと、俺は壁に叩きつけられていた。素早さはケルピーよりも低いが、水中行動補正の分だけ上なのか。これだけ早ければ、とりまきのモンスターなど要らないはずだ。俺はフォルムを文字通り盾にすると、壁を背にして攻撃に耐える。幸い、攻撃力自体はそんなに高いと言うほどではない。

しかし、シーサーペントは単純な体当たりをやめ、中距離から水魔法を使ってくるようになった。これは盾で防いでも意味はなく、水魔法が起こす水流によって俺は上下左右めちゃくちゃに流される。このままではいけないと思い、フォルムを銃にする。


「水魔法付与、これでどうだ!」


俺は手当たり次第に銃を乱射する。シーサーペントの巨体にいくつか命中したようだが、水魔法の付与であっても水魔法無効の対象らしく、シーサーペントにダメージは無い。ならばと思い、木魔法を付与してみたが、やはり水中ではまったくスピードがでず、命中するどころか、相手まで届きもしない。だからと言って近接攻撃をしようにも、相手の方が水中では上手で、いいようになぶられるだけだった。

ケルピーの時の様に、シーサーペントの周りの水を取り込もうにも、シーサーペントが大きすぎて俺の取得範囲である数mでは全く意味がない。こうしている間にも、俺のHPは徐々に削られ、半分を切ってしまった。たまらずフォルムが口を出す。


「ご主人様、水を無くせば良いのではないでしょうか!」

「だが、あの巨体を覆う水をアイテムボックスへ入れるのは無理だぞ!」

「一気に入れなくても、この部屋の水全てならどうでしょうか?」


そう言われて部屋を見渡すと、入口と出口の扉以外に出入り口は無く、水が流入するような場所は無かった。それなら、アイテムボックスへ水を入れていけばいつかは無くなるかもしれない。幸い、アイテムボックスの容量は無限になっている。


「その作戦で行ってみよう!」


俺は空間にアイテムボックスを開くと、辺り一面の水を入れていく。水はまるで風呂の栓を抜いたかの様にアイテムボックスに入っていく。シーサーペントも俺の作戦に気が付いたようで、慌てて攻撃をしようとしてくるが、俺を中心に水の流れが出来ているため思うように動けないで居るようだ。

そして、シーサーペントの体が水からはみ出るくらいに少なくなってきた。さらに言えば、水が無くなった分だけ真空になっていく。代わりに入る空気も無いからだ。恐らくシーサーペントもえら呼吸なのだろう。水が無くなり、真空になってしまった空間では生きていけない様で、ピクピクと痙攣しはじめた。とうとう、内圧の方が外圧よりも強くなり、シーサーペントの目玉が飛び出るほどになってきた。

そのまま死ぬのを待つのはあまりに可哀想だったため、俺はフォルムを棍棒に変えると、防御力無視のスキルを頭部に打ち込む。それだけで、あっさりとシーサーペントの巨体は消滅し、あとには宝箱だけが残った。


経験値が溜まりました。レベルが90になりました。HPが220増えました。MPが115増えました。攻撃力が20増えました。防御力が30増えました。素早さが20増えました。魔力が23増えました。スキル:水魔法無効を獲得しました。水中行動補正(大)になりました。水魔法がレベル5になりました。


さて、金の宝箱の中身は……。

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