第11話 異世界ダンジョン-11
一瞬、ワープでもしてしまったのかと思って後ろを振り返ってしまった。後ろは、今通ってきたばかりの扉がある。そこには、ボス部屋がきちんとある。そして今見ている扉も、自動で閉まってゆく。閉まるのを確認した後、もう一度振り返る。潮の臭いがする。
「海だ……。」
「海だね。」
「海ですね。」
メィルとフォルムは、それがどうしたの? と言うように首を傾げる。どう考えてもおかしいだろう。洞窟の中に海があるなんて!
「船も無いのにどうやって渡ればいいんだ?」
「お兄ちゃんは泳げばいいんじゃないの? 私は海水に入っても透過すれば濡れないしね。」
「浮かぶのが心配であれば、ボクがおもりになりましょうか?」
「そう言う意味じゃ……でも、それしかないか。」
幸い、俺も溺れて死ぬという事は無い。であれば、フォルムの言う通り、ある程度重さが自由に変えられるフォルムにおもり扱いに成ってもらって海底……と言えばいいのか? を歩いて進もう。幸い、千里眼があるおかげで水中で何も見えないという事もない。MP自動回復のおかげで1分あればMPは半分回復するから、実質千里眼だけなら無限に使える。それに、透明度の高い水だが、さすがに海底まで見えるほどではないからな。そもそも光は水中では屈折するからそこまで深い場所を照らせない。
フォルムをいかり付きの槍に成ってもらい、水中へ入る。海水はそこまで冷たくもなく、普通の人間でも冷たすぎて低体温になるという事は無さそうだ。むしろ、温水プールみたいで気持ちが良いくらいだ。そして、ぷかぷかと浮くものが目に入った。
ジェリーフィッシュ(水生):HP160、MP120、攻撃力50、防御力60、素早さ30、魔力80、スキル:麻痺攻撃、麻痺耐性(中)、HP自動回復(小)、光魔法(4)
クラゲだ、見た目は弱そうだが、ステータスだけなら余裕でゴブリンキングを倒せるだろう。本当に強さのインフレが激しいな。まあ、そうでもないと魔王に勝てるステータスには成らないか。それにしても、雑魚扱いなのにスキルは良い物を持っている。俺じゃ無ければ厄介なだけだが、俺にとってはそいつのスキルがそのまま俺の強さになるからな……倒せばの話だが。
「ごぼごぼ(いくぞ)」
「はいです。」
俺の声は水でくぐもって言葉に成っていないのに、フォルムの声は不思議とそのまま聞こえる。空気で発している音じゃないからなのか? とりあえず、いまはそれは置いといて、槍でジェリーフィッシュを刺してみる。すると、見た目通りあっさりと貫通した。ジェリーフィッシュは反撃にと触手を伸ばしてくるが、俺が2回目の槍を刺す方が早い。ジェリーフィッシュは消える前に輝き、消滅した。
経験値が溜まりました。レベルが45になりました。HPが50増えました。MPが25増えました。攻撃力が5増えました。防御力が4増えました。素早さが7増えました。魔力が5増えました。スキル:麻痺攻撃、麻痺耐性(小)、光魔法(1)を獲得しました。HP自動回復(小)がHP自動回復(中)になりました。
そして、目の前に浮かぶポーションの瓶を掴み、鑑定する。
中級HPポーション・回復量(100):傷口に直接使用するか、飲むことによって効果が出る。ただし、中身を全て使用しないと効果が無い。
HP自動回復があるから、緊急の場合にしか使わないと思うが、水中でどうやって飲めばいいのだろうか? ふたを開けた瞬間海水と混じる未来しか見え無いが。同様に、傷口に直接かけるのも不可能だろう。つまり、実質水中ではポーションは使えないという事か。それにしても、いいスキルを得たな。
俺はホクホクと笑顔になったが、さっきジェリーフィッシュが光ったせいだろうか、こちらをめがけて高速で近づくものがあった。千里眼+鑑定だ。
マーマン(水生):HP230、MP100、攻撃力60、防御力50、素早さ70、魔力50、装備:トライデント・攻撃力20、鱗の鎧・防御力20、スキル:槍術(5)、水中行動補正(中)
上半身が魚で、下半身は足ひれをもっただけの人間の様な見た目だが、水中行動補正とやらのおかげか、水中もスムーズに泳いでいる。そして、3つに先が分かれた槍を構えて突進してきた。ジェリーフィッシュと比べるまでもなく、早い。
俺は水中で動きずらいと言っても、トライデントをまともに受ける事は無いが、それでも傷が増えていく。俺の周りをぐるぐると回っては、隙を見て突撃してくる。動きが単純だから受けられているだけで、こちらから反撃しようにも動きについていけない。
「ぐぼばぼら(こうなったら)」
水中では銃なんて意味がない。撃つのは魔力弾でも、水中で減速するのは一緒だろうし。だからと言って剣を振っても当たるわけが無い。水の抵抗で全く剣にスピードが乗らないからだ。格闘も棍棒も同様だろう。だから俺は、マーマンが突進してくるのに合わせて槍を突き出すしかない。しかし、突きであっても水の抵抗は多少あるので、それによってマーマンの急所を刺すことは出来なかった。だが、かすり傷を負わせることに成功した。
マーマンはHP自己回復を持っていないので、多少でも傷を負わせられればいつかは勝てるだろう。しかし、それでは時間がかかる。マーマンは、Uターンし、再び突撃しようとして、痙攣しはじめた。槍に付与した麻痺攻撃が成功した様だ。ジェリーフィッシュと先に戦っていて助かった。あとは、ほとんど動かないマーマンに止めを刺すだけだ。今度は、ゆっくりと沈んでくるマーマンの急所に突き刺す。マーマンは消滅した。ついでに、ドロップ品として魚肉が落ちた……。鑑定するまでもなく、食う気は無いのでアイテムボックスへ入れる。
経験値が溜まりました。レベルが52になりました。HPが50増えました。MPが35増えました。攻撃力が6増えました。防御力が10増えました。素早さが8増えました。魔力が6増えました。スキル:水中行動補正(小)を獲得しました。槍術が4になりました。
水中行動補正(小)を得たおかげで、水中でも動きやすくなった。マーマンほどでは無いが、それほど水を気にせずに動ける。オリンピックの水泳に出たら金メダルを取れるんじゃないか? いや、このスキルが無くてもステータス的に余裕で獲れてしまうか……。モンスターの強さが上がるよりも、俺のレベルの上り、得られるスキルの量が多く、戦うほど楽になってきた。
さて、先へ進もうと思っていた時、水中にも関わらずどこからか歌声が聞こえてきた。それと同時に、頭の中に霞がかかったようになり……ぼーっとしてきた。
「いってぇ!」
頭部に強い衝撃を受けて目が覚める。俺は、寝ていたのか?
「もう! 何するのよ、お兄ちゃん!」
「メィルか? お前こそいきなり何するんだよ!」
「お兄ちゃんが私を襲ってきたからじゃない! いくら私が可愛いからって――」
「いや、それはない。」
メィルのセリフにかぶせるように否定する。その瞬間、メィルがむくれて拳を握ったのを見たので、話をそらすことにした。
「それより、俺に何が起きたんだ? 寝ていたんじゃないのか?」
「違うよ! お兄ちゃんは魅了にかかっていたんだよ。ほら、あいつの。」
メィルが指さした先に、いつの間に居たのか人魚が居た。手にはハープを持っているが今は弾いていない。とりあえず鑑定だ。
マーメイド(水生):HP200、MP99/110、攻撃力50、防御力50、素早さ80、魔力70、装備:ハープ・魔力20、貝の鎧・防御力20、スキル:幻術、水中行動補正(中)、魅了、水魔法(5)
確かに魅了を持っているな。魅了はやっかいだ。自分の意思とは関係なく、魅了を成功させた者の命令を忠実にこなす愛の奴隷になってしまう。かかってしまったが最後、解く方法は一定のダメージを受けるか、解呪系の魔法しか無いだろう。俺達の中では解呪系の魔法は誰も使えないので、メィルがやったみたいに殴るしか解除する方法はない。
「フォルム、俺がまた魅了にかかるようなことがあったら、遠慮なく殴ってくれ。」
「えぇ! ボクがご主人様を殴るなんてできません!」
「いや、何回もメィルに殴られたら俺が死んでしまう。」
自動回復があるとはいえ、例えばメィルに2回、即座に殴られたら死ぬHPでしかない。その点、フォルムであれば何十回じゃない限りは耐えられるはずだ。マーメイドと俺の魔力の差はそんなにないから、そうそう魅了にかかる事も無いと思うが。
マーメイドは、歌を歌うくせにしゃべれはしない様で、鳴き声の様なものをあげならが突っ込んでくる。マーマンと同様にその動きは素早く、俺が対応する事は難しいが、さっきよりはスキルがある分だけマシだ。
マーメイドは、俺に近づくと水の玉を発射してくる。さすがは水魔法なのか、水の抵抗を全く受けることは無いようだ。そういえば、俺に水中行動補正がついたからか、普通に水中でも話せるようになっているな。
「それなら……フォルム、水銃だ!」
「はいです!」
フォルムに弾ではなく、銛を発射する銃に成ってもらう。大物を捕らえる時に打ち込むやつだが、水魔法を付与すれば水中でも存分に扱う事ができるだろう……できたらいいな。
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