第13話 異世界ダンジョン-13

慎重に金の宝箱を開ける。罠は無いようで、あっさりと開いた。そして、中を覗くと……なんと! 何も入っていなかった。


「え? 何も入っていないんだけど……。まさかの入れ忘れ?」


そう言ってがっくりと肩を落とす。結構楽しみにしてたんだけど……。前回はスキルスクロールだったし、今回はあの巨体なモンスターだったから報酬もがっぽりだと思ってたんだけど。いつまで見てても空は空だし……ということで一旦、宝箱を閉じる。すると、急に宝箱が虹色に輝きだした。


「ガチャの昇格演出かよ!」


光が収まると、そこにはプラチナの宝箱が。今度こそ、そう思ってプラチナの宝箱に手を置き、ガバッと開ける。すると、以前見た様な白いキューブが入っていた。フォルムの時と同様に、重くも軽くもない。まるでもともと腕の一部だったかのような不思議な感覚。しかし、フォルムの時とは違うのは、完全に白いキューブではなく、綺麗に亀裂が入ってきてまるで車からロボットに変形するような、そんな感じがした。


「これは……また神装備か? トランス……。」


トランスフォームと、そう口にしようとした時、以前と同様に白いキューブが輝き、音声が頭の中に流れる。


この神器の持ち主を源零と登録されました。登録名「トラン」


ああ……またやってしまった。ま、まあ、自分で名前を付けてもろくな名前にならなかっただろうからいいか。どうせ、何か分からないものに名前を付けるって難しいよな? まだキューブって口にしなくてよかったよな?

命名されたトランは、フォルムと違いすぐに大人の女性の姿になった。銀に近い白の長髪に、Fカップはあるだろう胸、なによりそのたたずまいはメィルよりよっぽど女神っぽい。


「はじめまして、主様。わたくしは主様の神防具となります。よろしくお願いしますね。」


そう言って豪華な衣装のスカートをつまみ、綺麗なお辞儀をする。


「それで、トランはフォルムと一緒で変化する装備という認識でいいのかな?」

「はい。その認識で合っております。」

「そうか、俺がこんな美女を身にまとうという……。」

「……主様から邪な意思をキャッチしました。以後、主様の衣装になるのを拒絶します。」

「なんで!? 俺の防具なのに!?」

「ふん、これだから防具は……。」

「あら? 何かしら? このちっこいのは。」

「ちっこ……ボクはご主人様の武器だ! 役立たずな防具とは違うんだよー。」

「なんですって……? それでは、わたくしは主様の盾となりましょう。」

「ダメだよ! 盾は武器だ!」

「いいえ、防具です。」


いつの間にか盾が武器なのか防具なのかの論争になっている……。


「ほら、ボクを使ってシールドバッシュしたことあるよね? ご主人様!」

「あ、ああ。」

「何をおっしゃっているんですか? 盾は相手の攻撃を防ぐ物でしょう? 受けながしや守るのが本来の使用目的では無いのですか?」

「まあ、普通はそうなんだけど……。」

「「どっち(どちら)ですか!?」」

「正直、どっちでもいいんだが……。」


2人に詰め寄られて返答に困る。ちらりとメィルを見たが、私に話を振らないでとばかりに透明化して見えなくなった。


「フォルムは使ったことあるけど、トランはまだ使ったことないからな……。盾にしか成れないのか?」

「そんなことはございませんわ。主様の知識の中からわたくしに合った装備になりましょう。」


そう言うと、トランはトランスフォームする。うん、フォルムチェンジじゃなくてトランスフォームだ……。なぜならトランが変化した姿は……。


「ガンダムかよ!」


赤い何とかを連想するような真っ赤な鎧風の姿。大きさは変わっていないが、これを俺に着ろという事か?


「主様の知識の中にアーマーと言えばこれだと……。」

「いや、それモビルスーツだから……。」

「これがダメならαアジー……。」

「巨大化するな! こんな狭い場所でモビルアーマーなんてなるな!」


巨大化しかかったトランは、最初の鎧レベルの大きさに戻った。


「ところでこれ、どうやって着るんだ?」

「わたくしを外装として着脱することもできますし、このままでも動けますわ。あ、直接着るのは拒絶します。」

「えぇ……。それならそのまま動けばいいよ……。」


俺は若干テンションが下がったのでトランの好きなようにさせる事にした。


「で、それでどうやって攻撃するつもりなの? あ、防具だから攻撃なんてできないか。」


フォルムがトランを煽る。武器と防具って仲が悪いの? いや、セット装備なら仲はいいはずだが……そもそも装備自体に意識があったことは無いから分からんな。


「……このガントレットで殴ってさしあげましょうか?」

「何を言ってるの! ガントレットは武器でしょ!」

「そちらこそ何をおっしゃっているのです? あなたの理論ではヘルメットで殴るなら、ヘルメットも武器だとおっしゃるのですか?」

「そうだよ!」


トランとフォルムの間にバチバチと視線が交差する。まあ、トランは鎧状態だから目が無いんだけどな。


「それなら、あなたが何かを防ごうとしたなら、それは武器ではなく防具ですわよね?」

「え? パリィするのは武器だよ?」

「ぐぬぬっ、ああいえばこういう……。」

「ストップ! ストップだ!」


さすがに殴り合いの喧嘩まではして欲しくないので止める。神装備はどうせ壊れないんだろうけど、見た目が悪いし、それなら尚更意味も無いだろうし。


「武器、防具は俺が決めるからお前らは喧嘩するな!」

「……わかりましたわ。」

「……ご主人様がそう言うなら仕方ないね。」


しぶしぶではあったが、2人は矛を納める。さらにトランは外装状態から天使の姿に戻った。そして、ボス部屋の出口に向かうときにまた魔法陣があった。これはそうそうに踏んでしまおう。

魔法陣を俺が踏むと、予想通りアリア様が現れた。


「いかがですか? 私がフォルムからインスピレーションを得て創った、装備の第二弾である防具は? すごいでしょう? さすが私よね! まだどこにも無いようなプロトタイプ……こほんっ。ところで、装備には何と言う名前を付けましたか?」

「……トランという名前になりました。それよりも、武器と防具って仲が悪いんですか? すぐにフォルムとトランが喧嘩をはじめたんですけど。」

「え……? 神装備はそこまではっきりとした意識を持つことは無いのですが……。あっても他の装備を許さないって言う意識だけで……。」

「そこの意識は外した方がいいんじゃないですかね?!」


そのせいで使い勝手が悪くなっている気がするのだが。だけど、神装備は破格の性能なので使わないという手は無いし……。


「とりあえず、引き続き試用……ごほん。そのうちまた、使用感を聞きに来るわね。あっ、ごめんなさい。用事を思い出しました。それでは。」

「あっ、ちょっと!」


止める間もなく女神様は消えた。どう見ても答えるのがめんどくさかったから逃げたんだろうな。何かシヨウという言葉が引っかかるし……。後ろを見ると、微妙に距離を離してついてきているトランとフォルム。その上に無言で浮いてついて着ているメィル。何この微妙な空気は。どこかで仲良くなるきっかけでもあればいいんだが……。そう思いつつ、トランに鑑定をかける。


神器トラン・防御力1000:神装備。持ち主と共に成長する。形状は自在に変わるが、基本的には防具にしか成れない。武器には絶対に成れない。魔法を吸収し、持ち主のMPに変換する。


うん、思いっきりフォルムと正反対の説明文だ。って、防御力の桁おかしくない? フォルムは10だったのに、トランは最初から1000あるんだけど! それに魔法吸収ってある意味無効より強いんじゃないの? さすが上級神様作成の神装備! でも俺は装備できないから意味無いんだけど!


「なあ、トラン。俺がお前を装備したらどうなるんだ?」

「え……。主様がわたくしを無理やり肌に着ける……?」

「ちょっ、言い方! 外装なら良いって言ってなかったか?」

「ええ。外装の場合は……やって見せた方が早いですわね。」


そう言うと、トランは変形した。バーニアのようなスカート装備が俺の腰の外側に、手甲のような装備が俺の腕の外側に、足元には盾そのものが2つ浮かび、頭にはリングのような物が浮かぶ。最後に、背中に光の翼が浮かぶ。そしてそれらのすべては一片たりとも俺に触れていない。試しに腕を動かしてみても、ぴったりと等距離を離して移動する。足元の盾に触れようとしたが、触れられない。手甲についても、右手で左手の手甲を掴もうとしても離れる。完璧なまでに触れない防具になったな……。そう思っていると、トランは元の女性の姿に戻った。


「――っ、はぁ、はぁ、はぁ。今のわたくしではずっとこの状態になれるわけでは無いようですわね。」


ずっと外装状態になれるわけじゃないのか……。でも今、数分も経ってないんだけど……。まあ、まだ生まれたばかりでこれから成長するんだから仕方ないか。とりあえず、次の5階層で様子を見るしか無いな。

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