第9話 異世界ダンジョン-9

この階は雑魚ですらゴブリンキング並みの強さか。それが強いのか弱いのか分からないが、RPGなら序盤のボスよりよっぽど強い海賊とか普通に出るのでそう言う物だと思っておこう。


「ご主人……様、ボクの体が……変なんです……。」


フォルムが、息も絶え絶えにしゃべる。変なだけで、辛いとか、痛いとかではないみたいで、倒れたり、今にも死にそうという感じではなく、どちらかと言えば熱にうなされているような……。心なしか、目が潤んで頬がピンクに染まり、今にも……いやいや、おかしいだろ、こいつは武器だ、神器だ。


「ど、どうしたんだ!」

「えっ、もう? 早くない?」


メィルには心辺りがあるようで、驚いてはいるがおかしいとは思っていないようだ。


「メィル、この状態に心当たりがあるのか? 教えてくれ、これはどういう状態なんだ?」

「神器の開放だよ!」

「それは一体、どういう事だ?」

「必殺技という様な、特別な能力、それが神器の開放だよ!」

「それが、フォルムに起きているという事だな? フォルムはどうなるんだ?」


メィルの的を射ない説明にやきもきしながらも、フォルムの方を見ると、目からハイライトが消え、無表情になる。そして、自分の意思じゃないかのように口を動かす。


「……勇者のレベルが20に達したことを確認しました。第一段階の開放が行われました。形状変化の可能性の幅を広げました。」

「形状変化の可能性の幅……? それは一体……?」

「現状、イメージ通りの武器に成れますが、その形状のままさらに変化する事が可能となりました。」


フォルムがシステムメッセージの様な固い口調で答える。そして、フォルムの目にハイライトが戻った。


「いいなー、私の衣ちゃんも神器の開放されないかなー。」

「あれ? ボクの体が少し成長してる?」


正気に戻ったフォルムは、自分の体の変化に驚いている。確かに、メィルくらいだった身長が、ほんの少し伸び、胸も心なしか大きくなったような気がする。見比べないと気が付かないくらいの変化ではあるが。単純にメィルの姿を真似た訳では無く、そこが限界だったという事か?


「フォルム、具体的に何が出来るようになったんだ?」

「あっ、ご主人様! そうですね……例えば、こうでしょうか?」


フォルムは、メカメカしい剣になる。それは今まで通りの姿だが、そこからなんと刀身が曲がった。まるで柔らかいかの様に。さらに、刀身が2つに割れたり、横に刃を生やしたりと結構自由自在の様だ。


「武器変化後の自由度が上がった感じか? つまり、最初からさっきのモーニングスターのように鎖が伸びる仕様にしなくても、今後は途中で伸ばせると?」

「そうですね。それと、銃なら2丁までなら成れると思います。」

「おおっ、2丁拳銃! それとも、スコーピオンか!?」


これで銃弾をばら撒く事や、シールド付きスナイパーライフルとかできるって事だな。まあ、ダンジョン内でスナイパーライフルを使う機会は無いと思うが。しかし、超長距離スナイプはいつかやってみたい。


少し歩くと、小部屋があった。そこには、鉢巻きをしているスケルトンが待ち構えていた。俺達が部屋に入るのを確認すると、拳を構える。その拳には、鉄でできたナックルが装備されていた。よし、鑑定だ。


スケルトンファイター(物質):HP110、MP70、攻撃力60、防御力40、素早さ50、魔力10、装備:アイアンナックル・攻撃力15、スキル:格闘術(4)、攻撃力アップ(小)


近接タイプか。よし、さっそく2丁拳銃だ!


「フォルム、シリンダータイプの拳銃で!」

「はいです。」


これは普通に警官が持っている銃だ。それを右手と左手に1つずつ持つ。俺はスケルトンファイターが踏み込む前に、風魔法を付与させた銃と、火魔法を付与させた銃を交互に撃つ。MPが弾になるので、シリンダーに弾を込める必要は無く、バカボンに出てくる警官みたいに、見た目は明らかに6発入りなのに連射しても弾切れなんて無い。

風による面での押し返しと、火魔法による高熱ダメージにより、スケルトンファイターの骨が炭化していく。近づこうにも、見えない風を回避する事は不可能に近く、スケルトンファイターは吹き飛ばされ、動きが止まったところを焼かれ、こちらに向かう前にまた吹き飛ばされる。それを繰り返し、あっさりとスケルトンファイターは消滅した。


経験値が溜まりました。レベルが22になりました。HPが20増えました。MPが10増えました。攻撃力が3増えました。防御力が2増えました。素早さが3増えました。スキル:格闘術(1)、攻撃力アップ(小)を獲得しました。


スケルトンファイターが消滅した後には、ドロップアイテムとして道着が落ちていた。あいつ自身は裸だったくせに、道着を落とすのか……。しかし現状、防御力よりも見た目を重視することにした。道着を着て銃を構えたり、剣を構えたりするのが変だからだ。スーツを着ているのは良いのかって? いいんだよ!


そう油断していたのが悪かったのか、辺りが急に暗くなった。ダンジョンにも夜が来るのか? いや、それにしては暗すぎる……。


「ぐはっ!」


俺の横っ腹に衝撃を受け、ごろごろと転がる。そこがびちゃびちゃになっている。出血ではなく、水の様だ。水魔法か!


「ご主人様、敵です!」


しかし辺りは暗いままで、敵がどこにいるのか分からない。適当に攻撃を食らった方に火魔法を付与されている拳銃で撃つと、曳光弾の様に少し明るくなった。着弾したところが少し燃えているので、敵を確認できる。それは、ボロボロのローブをまとった骸骨だった。鑑定!


スケルトンメイジ(物質):HP140、MP150、攻撃力10、防御力30、素早さ40、魔力150、装備:エメラルドワンド・魔力20、呪術師のローブ・防御力10、スキル:水魔法(4)、闇魔法(4)、MP自動回復(中)


辺りが暗くなったのは闇魔法のせいか。俺には打ち消す様な魔法は無いので、単純に範囲から出るしか無いだろう。俺はダッシュしてメイジの方へ向かって走る。スケルトンメイジの持っている杖からまた黒い闇が放たれるが、見えていればそれほど脅威ではない。このまま接近して戦おう。


「フォルム、ロングスピア!」

「はいですー。」


俺は中距離から、ロングスピアを突き刺す。しかし、スケルトンメイジは意外に素早く、躱されてしまった。しかし、俺の攻撃はここで終わらない!


「フォルム、曲がれ!」


俺の槍はぐにゃりと軌道を変え、スケルトンメイジの横から追撃する。スケルトンメイジの顔は分からないが、おそらく驚いているのだろう。フォルムは、スケルトンメイジの持っていたワンドを弾き飛ばした。別にワンドが無いと魔法が使えないわけでは無いが、威力は下がるだろう。槍では空間だらけのスケルトンには相性が悪いので、改めて武器を変える。


フォルムを棍棒に変えた俺は、そのままスケルトンメイジを叩き潰す。一人で出てきた魔法使いなんて怖くないな。それとも、スケルトンファイターと一緒に仕掛けるつもりが出遅れたのか? スケルトンメイジがこちらに向けた手を棍棒ではじき、水魔法があらぬ方向に放たれる。腕の骨を砕き、頭蓋骨を叩き割ると、スケルトンメイジは消滅した。


経験値が溜まりました。レベルが25になりました。HPが10増えました。MPが15増えました。攻撃力が2増えました。防御力が2増えました。素早さが4増えました。魔力が6増えました。スキル:水魔法(2)、闇魔法(2)を獲得しました。反応速度アップ、集中力アップ、スタミナアップが中になりました。


「あれ? お兄ちゃん、ドロップアイテムがあるみたいだよ。」

「本当だ、小さくて分からなかったな。」


見ると、普通の指輪であれば宝石がはまっているところに小さな髑髏がはまった指輪が落ちていた。とりあえず鑑定しておくか。


髑髏の指輪:装備している間、幻術にかかる確率が10%下がる。サイズは自動的に装備輪に合わせてサイズ変更される。


無いよりはいいのだろうが、見た目がな……。センス悪すぎだろ。いや、さっきの骸骨魔術師が付ける分には似合っているのか? まあいいか。それよりも、敵が強いせいかレベルの上りも早いな。超越者のスキルのおかげだろうが、時間が無い今は助かる。それに、ステータス差が結構あるのに敵をサクサクと狩れるのは、やはりフォルムのおかげだろう。何気に今のフォルムの攻撃力は50に成っている。この調子でさっさとこの階も抜けられればいいが。


源零(分裂体):HP180、MP135、攻撃力42、防御力37、素早さ41、魔力28、装備:神器フォルム・攻撃力50、ただの服・防御力0、ラックの腕輪(極小)、スキル:超越者、鑑定、空間魔法(5)、スキルの吸収、棍棒術(8)、剣術(5)、銃術(3)、槍術(2)、指揮、集中力アップ(中)、反応速度アップ(中)、ジャンプ力アップ(中)、悪食、HP自動回復(小)、MP自動回復(大)、火魔法(4)、土魔法(4)、木魔法(4)、風魔法(4)、水魔法(2)、闇魔法(2)、火耐性(中)、時空魔法、怪力、土耐性(小)、スタミナアップ(中)、持ち物:低級MPポーション2個、低級HPポーション5個、道着、豚肉(ロース、ヒレ、ハツ、レバー)

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