ダンジョンクリアで女神に昇進!-別次元編-

斉藤一

第1話 異世界ダンジョン-1

俺は源零(みなもとれい)の分裂体。分裂体というのは、本体が持っている元スライムのスキルである分裂で作った分身の様な物だ。知識もスキルもステータスの強さも、込めるMP量によって変わる。今回は、知識量は本体と同じで、スキルとステータスに制限をかけられている。一緒にいるのはメィルで、見習い女神であり、俺の担当者である。見た目は、ロングの金髪で、小学生くらいの身長で、背中に小さな羽が生えている。白く、生地の薄いワンピースの様な見た目の神の装備をしている。メィルは有無を言わさずこちらに一緒に転移させられている。以下はラヴィ様の話である。ちなみに、ラヴィ様とはうさぎを擬人化したような外見をした女神ランクⅠの女神様であり、上位の女神様である。


「あなた達には、過去に勇者が経験を積むために攻略したダンジョンへ行ってもらうわ。そこではこちらの次元とは法則が違うから注意してちょうだい。何が違うかは、実際に行った方が早いわね。何か質問はある? 無い様ね、それでは転移!」


質問をする隙すら無かったわけだが。さらに、攻略に当たり俺につけられた制限は、本体が持っている複数のスキルの内、鑑定、空間魔法、スキルの吸収の3つのスキルだけを持って挑むこと。最初は鑑定だけと言われたが、そこはゴネて3つにしてもらった。ただでさえステータスを下げられた状態なのに、スキルまで無いとなれば絶対にダンジョンをクリアするのは不可能だからだ。ちなみに、俺の今のステータスはこんな感じだ。


源零(分裂体):HP10、MP10、攻撃力10、防御力10、素早さ10、魔力10、装備:ただの服・防御力0、スキル:鑑定、空間魔法(4)、スキルの吸収。


鑑定は自分や相手の種族やステータス、スキル、装備の強さなんかを見る事が出来る重要なスキルだ。空間魔法はLv4だ。空間魔法は、Lv1でアイテムボックスが使用可能になり、Lv2でアイテムボックス内の時間が停止し、Lv3でアイテムボックスの容量が無限になり、Lv4で内容物がリスト化されて取り出しやすくなる。某青い猫型ロボットの様に、慌てて取り出したとしても変なものを取り出す心配は無い。ちなみに、制限されたこのステータスでも、常人の3倍ほどのステータスだ。普通のサラリーマンのステータスはこんな感じだ。


営野行助(人間):HP4、MP10、攻撃力4、防御力3、素早さ6、魔力0、スキルなし、装備:スーツ・防御力0、カバン・防御力0


普通の人と比べてみれば強そうに見えるが、初期の勇者のステータスは俺の倍はあったらしいから、勇者とやらは生まれながらに超人だったみたいだな。まあ、そうでもないとモンスターに勝てないか。


「お兄ちゃん、入らないの?」

「ん? ああ、現状の確認をしていたんだ。メィルは準備万端か?」

「準備も何も、有無を言わさずこっちに転移させられたから持ち物が何も無いよ! いつの間にか私のアイテムボックス内のアイテムも0になってるし! 私のゲームや漫画やおやつが無くなったよ!」


こんな見習い女神のメィルではあるが、昇神試験という名のダンジョンクリアで正式な女神になる予定だ。彼女の現在のステータスはこの通りだ。


メィル(見習い女神):HP1000、MP1500、攻撃力300、防御力200、素早さ550、魔力450、装備:天使の羽衣・防御力50、スキル:コアからスキルの吸収、透明化、千里眼、異世界召喚、蘇生、物理耐性(極小)、魔法耐性(大)、HP自動回復(中)、MP自動回復(小)、飛行、透過、火魔法(3)、水魔法(1)、木魔法(2)、土魔法(5)、光魔法(4)、転移魔法、空間魔法(2)、時空魔法


今の俺と比べれば、化け物の様なステータスだが、見習い女神の中では最弱らしい。今回は、付き添いだけなので、メィル自体が戦う事は無いだろう。スキルを見ての通り、飛行というスキルを持っているため、だいたいは飛行している。飛行は、一回MPを込めれば、スピードを変えない限り、永続的に飛べるからだ。あと、透明化によって敵に狙われないようになるが、俺にも見えなくなるので多用はしないでいただきたい。


現状確認はこれくらいにして、辺りを見渡す。転移させられた場所は、自然にできたような洞窟の前だが、これが目的のダンジョンなのだろう。洞窟に近づき、軽く壁を叩いてみると、結構固いようで簡単には崩れ無さそうだ。と言っても、俺のステータスじゃたかが知れているけどな。


「それじゃあ、私はお兄ちゃんの後ろをついて行くね。基本的に手助けはしないし、分かっていても敵が来たことを伝えたりもしないからね。」

「メィルは不正防止の監視も兼ねているだろうからそれでいい。敵に狙われそうになったら透明化か透過で逃げろよ?」

「私が逃げなきゃならないくらい強いモンスターが出たら、お兄ちゃんすぐに死んじゃうと思うよ!」

「はははっ、確かに。だが、俺の方が強くなったらそうしてくれ。」

「むぅ、そんな簡単に強くなれたら苦労しないよ!」


メィルはその強さになるのに苦労したのだろうか? いや、苦労しているわけ無いな、自分の空間でくつろいでいたに違いない。さて、それはそうと中を探検するか。足元は思ったより平らで、特に戦闘の妨げになるような事は無さそうだ。さて、このダンジョンには何が出るのかな?


しばらく歩いて行くと、生き物が動くような物音がした。ちょうど角を曲がったあたりから音がするので、そっと顔を出して確認する。あれは、こちらの世界のゴブリンか? 1mくらいの小柄で緑色の体に、額から小さな角が生えている。とりあえず、鑑定してみよう。


ゴブリン(亜人):HP10、MP5、攻撃力5、防御力3、素早さ4、魔力0、装備:棍棒・攻撃力2、布・防御力0、スキル:棍棒術(1)


種族名は同じだが、ステータスはあちらとは少し違うようで、こちらの方が低い気がする。その代わり、棍棒を装備している上にスキルまで持っている。


「棍棒術? 見たことが無いスキルだな。」

「きっと向こうのダンジョンは冒険者向けに作られたダンジョンだから、モンスターが持つスキルが少なかったんだよ。まあ、私もそんなにスキルが多くないから何とも言えないけどね!」

「とりあえず、ステータス上は俺の方が強いし、やってみるか。」


俺は素手であることだけが不安要素ではあるが、防御力はあいつの攻撃力より高いから平気だろう。壁から離れ、足音を立てないようにゆっくりとゴブリンに近づいて行くが、ピクッと耳を動かしてこちらを向いた。さすがに数メートルまで近づけば気づかれもするか。


「グギャ!」


ゴブリンは棍棒を振りかぶり、俺に叩きつけてくる。かわせないスピードでは無いが、試しに受けてみるとしよう。俺は左腕でゴブリンの棍棒を受ける。


「ぐっ、痛っ!」


ステータス上は俺の方が上なのに、痛みを感じた。今まで痛みの無い世界に居たから気が付かなかったが、分裂体でも痛みを感じるようだ。しびれる左腕をかばいつつ、ゴブリンからの2撃目を避ける。棍棒術というスキルを持っているだけあって、ただ振り回すのとは違い、思ったよりも攻撃後の隙が無い。俺は無理やりそれをスピードでカバーする事にした。


ゴブリンがもう一度棍棒を横なぎに振り、それをジャンプで避けてそのままゴブリンの顔を蹴りつける。ゴブリンの体勢が崩れたところで、もう一度蹴りつけるが、今度はそれを棍棒でガードされた。しかし、体格差がある上に、もともと体勢が崩れていたこともあって、ゴブリンは尻もちをついた。


「隙あり!」


俺はゴブリンの棍棒の柄を狙って蹴り、棍棒を放させる。そして、ゴブリンが起き上がるよりも早く棍棒を拾う。棍棒は思ったよりも軽かったが、素手よりはマシだろう。ゴブリンは、逃げるかどうか迷っているのか、動きが止まっている。俺はそのまま棍棒を振りかぶり、思い切り振り下ろした。棍棒はゴブリンの頭にあたり、そのまま頭がつぶれ、血が飛び散る。


「くそっ、おえっ。」

「お兄ちゃん、大丈夫?」


メィルは背中をさすってくれる。まあ、分裂体の体だから吐くという事は無いが。こちらのダンジョンでは、コアになるという事が無いからか、しっかりと殴った感触が残って気持ち悪い。ゴブリンを無事倒せたというのに、気分が悪い。それから、何かが流れ込むような感じがして、棍棒術(1)のスキルを吸収したようだ。スキルの吸収は、倒した時に自動的に行われるようで、死体に触れる必要はなかった。しばらくして、ゴブリンの死体と棍棒が消え、小瓶の様な物が落ちた。中身は薄い赤色の液体だ。もう少し濃かったら血の様で気持ちが悪い。あっちでは、コアは落ちてもアイテムが落ちたことはなかったので、一応鑑定してみるか。


低級HPポーション・回復量20 傷口に直接使用するか、飲むことによって効果が出る。ただし、中身を全て使用しないと効果がない。


これが俗にいうポーションというやつか。そして、鑑定で説明文が出るのか。飲めばたちどころに傷が治るのか? 効果を調べる為でも飲む気にはならなかったので、傷口にすべてかけてみる。すると、腕の打撲痕が消えて元通りになった。そして、使った後の小瓶も消えた。エコだな。


「へぇ、ポーションの中身を毎回飲んでたら、すぐに腹いっぱいになりそうだったが、かけるだけでいいならこっちのほうがいいかもな。傷があっという間に消えるとは。」


俺は左腕を動かし、確かに痛みも痺れも消えているのを確認し、先に進むことにした。ステータス上のHPも全快だ。


源零(分裂体):HP10、MP10、攻撃力10、防御力10、素早さ10、魔力10、装備:ただの服・防御力0、スキル:鑑定、空間魔法(4)、スキルの吸収、棍棒術(1)。

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