第6話 異世界ダンジョン-6

2階層目は引き続き岩肌のみのダンジョンだ。1階層と違う点があるとすれば、2階層目のほうが全体的に広い事だろうか。これは、素早さの高いモンスターが出るのか、それとも複数体のモンスターが出てくるのか。この階層からでかいモンスターが出るとは思えないから、どちらかだと思う。


すると、案の定複数の足音が通路の奥から響いてきた。これは、1体や2体なんかではなく、もっと多くのモンスターの足音だろう。


「お兄ちゃん、私は上から見ているね。あっ、パンツを覗いたらダメだよ!」

「それはもういいから! とりあえず、フォルム、棍棒に成ってくれ!」

「はい!」


金属の棒に近い棍棒を構え、通路の向こうから近づいてくる敵を待ち構える。前回と同様に、ある程度狭さを利用する作戦だ。一番先頭のモンスターが見えた。豚が直立した様なモンスター、オークだ。それに混じって、ハイオークや、魔術師の格好をしたオークメイジも見える。とりあえず、鑑定だ。


オーク(亜人):HP50、MP40、攻撃力25、防御力20、素早さ13、魔力10、装備:棍棒・攻撃力7、皮の鎧・防御力6、スキル:棍棒術(3)、悪食


ハイオーク(亜人):HP70、MP50、攻撃力40、防御力30、素早さ25、魔力20、装備:ロングソード・攻撃力10、鉄の鎧・防御力8、スキル:剣術(3)、火耐性(中)、ジャンプ力アップ(小)


オークメイジ(亜人):HP40、MP100、攻撃力10、防御力15、素早さ15、魔力50、装備:ショートワンド・魔力10、魔術師のローブ・防御力5、スキル:MP自動回復(中)、土魔法(4)、木魔法(4)、風魔法(4)


前衛はオーク6体で、その後ろにオークメイジが2体とハイオーク1体が構えている。オーク達が時間を稼いでいる間に、オークメイジが魔法を飛ばして援護し、ハイオークが指揮する構えなのだろうか? もしその通りなら随分と連携が取れている事になる。ただでさえステータス的にもそれほど差が無いというのに、人数的にも不利だ。やはり、パーティー戦が前提なのだろうか。


「ブモォッ!」


俺を見つけたオークが、まるで狂ったかのように走って直進してくる。しかし、単体で突っ込んでくるだけなら全く怖くもなんともない。俺はオークの頭に向かって棍棒を振り下ろす。スキルレベルが高いだけあって、簡単に打ち倒すことが出来た。オークは死んではいないようだが、脳震盪でも起こしたのか、後ろに倒れる。そして、次のオークが向かってくる。


「思ったより全然連携してこないな……。」


やはり、見た目通り知性は無いのだろうか。俺は次のオークの顔を棍棒で打つ。口から出ていた牙が折れ、口の端から血が流れる。すると、何を思ったのか後ろを向いた。


「なんだ?」


俺は様子を見ることにした。すると、さっき脳震盪を起こして倒れているオークに噛みついた。倒れていたオークは、しばらくジタバタとしていたが、絶命したのか消滅する。口のまわりを血だらけにしてこちらを振り向いたオークの方は、牙が再生していた。


「悪食って食ったら回復するのかよ。さらに、さっきのオークの経験値が俺に入ってこないようだし。」


さすがにオークがオークを倒した程度ではレベルが上がらないのか、オークの強さ自体は変わらない。その間に、後ろに居たオークメイジも追いついたようだ。


「ブフッモウ!」


何て言ったのかは分からないが、恐らく魔法を唱えたのだろう。しかし、見た目上は何の変化も無いように見えるので、少なくとも、使用したのは木魔法や風魔法では無いと思う。それなら、土魔法か? 俺はある程度予想を立て、向かってくるオークから距離を取る。すると、案の定、俺の足元の先に落とし穴が作成されていたようで、向かってきたオークが落ちた。


「悪いな。恨むならオークメイジを恨んでくれ。フォルム、剣だ。」

「はいはーい。」


フォルムは、シャキンシャキンと、戦隊ものに出てきそうなメカメカしい剣に変形した。俺はその剣で落とし穴に落ちてもがいているオークを刺す。オークは、「ブヒィ」と悲しそうな声を上げて消滅した。


経験値が溜まりました。レベルが7になりました。HPが10増えました。MPが5増えました。攻撃力が2増えました。素早さが2増えました。棍棒術がレベル7になりました。スキル:悪食を獲得しました。


悪食を使う予定は無いが、棍棒術のレベルが上がったので、フォルムの形状を棍棒に戻す。俺のレベルが上がったおかげでフォルムの攻撃力も12になった。オークメイジは、先ほどのミスから学んだのか、今度は俺とオーク達の間に目に見えるよう茨で通行妨害した。俺からオークの方へ行けないが、オークも俺の方へ近寄れずに困惑しているみたいだが。しかし、2体のオークメイジは魔法での応戦を考えたようだ。1体は土魔法による石礫で、もう片方は見えづらい風魔法の風の刃による攻撃だ。かといってオークメイジに近づくには茨を越えなければならない。そこでもたもたしていたら、なおさらいい的だろう。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ!」


俺は心配して声をかけてきたメィルにそう答え、棍棒を地面に叩きつける。棍棒術のレベルが6になった事で使えるようになった棍棒の壁だ。棍棒の壁はオークメイジが張った茨を壊し、通路を防ぐ。その間に低級HPポーションを飲んで回復する。悪食の効果がポーションにも発揮されるのか、回復量が多かった。


「フォルム、銃だ!」

「ご主人様のイメージ通りの形になりますね。」


俺は拳銃タイプになってもらったフォルムのグリップを握る。その瞬間、異世界には存在しないであろうスキルを獲得した。スキル:銃術(1)を獲得しました。

レベル1銃術は、単発の銃弾を発射するスキルみたいだ。正直、銃弾の事まで考えていなかった俺は、ここで自分のミスに気が付いたが、スキルがそれを補ってくれた形だ。


棍棒の壁が消え、オークメイジが見える。その1体に向かって引き金を引く。本物の銃とは違い、MPを使って発射する関係上、パンッという銃声は無く、無音で発射される。発射されるのも銃弾ではなく、空気の塊なのか魔力の塊なのか分からないが、無色透明に近い塊だ。大きさは銃口の大きさに寄るのだろうか。その小さな塊がオークメイジの眉間に当たる。当たればいいなくらいで狙ったわけでは無いが、結果的には1発でオークメイジを倒すことに成功した。スキル:MP自動回復(中)、土魔法(1)、木魔法(1)、風魔法(1)を獲得しました。銃術のスキルレベルが2になりました。


魔法主体のオークメイジを倒したからか、銃術のレベルがすぐに2になった。銃術のレベル2スキルは、自分の持っている魔法の属性を弾に付与して発射できる様だ。つまり、オークメイジを倒した弾は無属性だったという事だろう。オークに何が効くかは分からないが、見た目どおりに豚と言えば焼き豚だろうと、火の属性を付与してみる。オークに向かって発射されたのは、赤い火の弾だった。無属性と違って見えやすくなってしまったのはデメリットではあるが、着弾と同時にオークが燃えたので、効果としては上がっているのだろう。


そして、他の属性も試してみる。土属性を付与した弾は、普通に銃弾に近い効果で、小石を飛ばしただけに近い。普通にオークの鎧にぶつかって砕けたので大した威力では無いのだろう。次に木属性を付与してみる。予想では木の破片が飛ぶだけかと思っていたが、実際に発射されたのは種だった。オークの腕に当たった種は、すぐに発芽してオークの腕に根を張る。オークが引きちぎっても、その先からまた生えてくる。成長するのにオークの血液か栄養か何かを使っているのだろう、オークはみるみる干からびていき、消滅した。結構えぐい効果だな。


経験値が溜まりました。レベルが8になりました。MPが5増えました。防御力が1増えました。素早さが2増えました。魔力が2増えました。


今回はステータスが上がっただけで、スキルには特に変更はない。最後に、風属性を付与してみる。風属性は無属性よりもさらに見えにくい……というか、見えない。MPは減ったので確かに発射したはずなのだが……撃たれたはずのオークが、少し押されたように後ろに下がった。効果はそれだけで、ダメージは無いようだ。もしかしたら、魔法のスキルレベルでも変わるのかもしれない。木は別にして、風も土もまだレベル1だからな。


俺は新しく手に入れた力に夢中で、油断していたらしい。奥に居たはずのハイオークが、いつの間にか近くに来ていた。そして、その巨体で素早くジャンプするとロングソードで斬りかかってきた。俺の反応速度アップ(小)が仕事をしたのか、とっさに銃で受けることができたが、力負けして浅く切り裂かれてしまった。ばっさりと袈裟切りに服が破れる。体にもしっかりと傷が出来てしまった。傷の方はそのうち治ると思うが、服はどうしよう……。

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