第5話 異世界ダンジョン-5
「随分とでかい宝箱だな。俺が中に入れそうだ。まさか、ミミックとかじゃないよな? 念のため鑑定しておくか。」
豪華な宝箱:中には、1~3個の宝箱が入っている可能性がある。運が高いほど入っている数は多くなる。
ここで運要素が出てくるのか。俺はラックの腕輪を確認し、神に祈ってから開ける。どの神に祈ったかって? それは内緒だ。
「宝箱は、2個か。まあ、1個よりはマシか。」
期待値通りの数に、俺の運は悪くは無いが良くもないという事が分かった。そして、中に入っていた宝箱の一つは金色だった。これは、レアドロップが期待される。
金の宝箱:良いものが入っている可能性が高い。罠は無い。
「良いものが入っている可能性が高いのか。それで、もう一つは?」
プラチナの宝箱:討伐確定報酬。偉業を成し遂げた者だけが手に入れることが出来る。罠は無い。
おお、偉業と来たか。しかし、堂々と俺がゴブリンキングを倒した! と言えないところが後ろめたい。まあ、貰えるものはもらっておこう。まずは、金色の方からだな。金色の宝箱の中には、巻物が入っていた。何のスキルだ? 鑑定。
スキルスクロール・超越者:生物の限界を突破し、レベルの上限が無くなる。また、経験値の取得量が倍増し、スキルのレベルも上がりやすくなる。
これは勇者が持っていそうなスキルだな……いや、これを持っている奴が勇者なのか? 俺の本体はすでに生物の限界を突破してそうだけど、俺はこれを使ってレベル上げとスキルレベルアップにいそしむか。そして、もう一つの宝箱だ。金でこれならプラチナの方の中身への期待は嫌でも上がる。ゴクリと喉を鳴らし、プラチナの宝箱を開ける。中には、白いキューブが入っていた。何だこれ? 鑑定。
神器(未確定):神が作成した装備の一つ。持ち主が未設定の為、まだ名前は無い。命名と同時に持ち主に合った装備となる。
俺にもとうとう神装備が手に入る日が来たか。正直、俺以外の皆が持っていたからうらやましかったんだよな。しかし、このキューブは武器なのか? 防具なのか? とりあえず、持ってみる。重くもなく、軽くも無く、まるで元から自分の体の一部だったかの様に違和感がない。
「しかし、このフォルムは……。」
そう口にした時だ、白いキューブが輝き、音声が頭の中に流れる。
この神器の持ち主を源零と登録されました。登録名「フォルム」
勝手にと言ってはなんだが、呟いただけの単語が勝手に命名になってしまった……。それにしても、これはどうやって使うんだ?
「ボクはご主人様の特性を引き継ぎ、自在に形を変える武器になりました。どのような武器をお望みですか?」
キューブのどこから話しているのか分からないが、可愛い女の子っぽい声が聞こえる。俺の特性って……この分裂体のってことか? しかし、これは武器だったのか。
「それじゃあ、せっかくだから棍棒に成ってもらえるか? スキルがあるのに手に入らないんだよ。」
「分かりました、ボクは棍棒になります。」
棍棒に変化したフォルムは、ゴブリンが持っていたような武骨な感じではなく、すっきりとした近代的な、機械的な見た目の棍棒に成った。そして、形が変わっても相変わらず自分の体の一部の様に扱いやすい。これで左手にショートソードを持てば剣術も棍棒術も使えるのか? 試してみるか。俺はアイテムボックスからショートソードを取り出して左手に構える。
「ボクというものがありながら、浮気はだめです!」
棍棒形状のフォルムがカッと光ると、ショートソードがボロボロになって砕けた。
「神装備が他の装備を壊す理由ってそれかよ!」
「格下の装備に愛情を注ぐなんて許せません! 最低限、神器じゃないと許しません! 装備か所が違うならばボクは許しますが。」
「いや、別に武器に愛情を注いでいる訳じゃないから。他の武器は装備しないから、もう壊すなよ?」
「ボ、ボクの事が嫌いなんですか? 武器じゃだめなんですか?!」
「えー、何このめんどくさそうな神装備。私の天使の羽衣ちゃんなんて何も言わなくても分かってくれるわよ?」
「だ、誰ですかこの人は! ボクは生まれたてだからこれから成長するんです!」
メィルとフォルムが口喧嘩をしている。と言っても、メィルが愚痴ったのをフォルムが反発しているだけだが。このまま見ているだけでもラチがあかないな。
「とりあえず、今は武器はいらないからアイテムボックスへしまってもいいか。」
「そんな! ボクはずっとご主人様と居たいです! わ、分かりました! そこの人みたいに人型に成ればいいんですよね!」
いや、武器を持っていると片手が塞がるからって意味だったのだが、捨てられると勘違いしたのか、勝手に早とちりして光りだす。光が収まると、全身を機械の様な服に身を包んだ、メィルくらいの女の子……小学3年生くらいの大きさになった。
「装備以外の形状になる神装備なんて初めて見た! お兄ちゃん、実はすっごくレアなもの手に入れたんじゃない?」
見た目が装備になる女神は見たことがあるが、人型に成る装備は他にないらしい。普通に考えて、人型の武器って無いだろうからな。俺の特性があってこその結果の様な気もするが。そう言えば、鑑定したらどうなるんだ?
神器フォルム・攻撃力10:神装備。持ち主と共に成長する。形状は自在に変わるが、基本的には武器にしか成れない。防具には絶対に成れない。
とりあえず今の攻撃力は10だって事と、絶対に防具に成れないという事だけは分かった。俺としてもしゃべる服を着たいと思わないのでそれはいい。それに、どうしても今の姿を見た後だと、女の子を着ているようで心象が良くない。……武器の時はどこを持っていることになるんだろうな? いや、考えないでおこう。
「とりあえず、よろしくな、フォルム。」
「こちらこそ、末永くよろしくお願いします!」
フォルムはぺこりとお辞儀をした。生まれたばかりとは言っていたが、常識や語彙などは俺から引き継いでいるのか、特に会話での不自由は無さそうだ。いや、末永くとか言っているから違和感はあるな……。
「早く進もう、お兄ちゃん!」
この状況をメィルが面白く思ってないのか、さっさと進もうと催促してくる。まあ、この部屋でやる事はもう無い。さっきボスが居た側の、奥の扉を開けばおそらく次の階層への入口なのだろう。しかし、その入口の前にはこれ見よがしに魔法陣の様な物がある。ボスを倒す前からあったのだろうが、ボスを倒すことがきっかけとなったのか、今は淡く光っている。通路を埋めるように配置されているため、無視して通り過ぎるわけには行かなさそうだ。さらに、鑑定をしても魔法陣としかでないからやっかいだ。
「今更、トラップの類では無いだろうが、ダンジョンの外へと繋がる魔法陣とかか?」
「相転移……2つの魔法陣同士で行き来できる魔法陣とは違うみたいだよ、お兄ちゃん。」
さすが見習いとはいえ女神と言うだけあって、メィルにはある程度の魔法陣の種類は知っているようだが、この魔法陣には思い当たるものがないようだ。
「ボクが踏んでみます。ボクなら大抵の事ではビクともしませんし。」
言うが早いか、止める暇もなくフォルムは魔法陣へ足を踏み入れる。しかし、魔法陣は何の反応も示さない。
「ちっ。何も起きなかったね、お兄ちゃん。」
「お前今、舌打ちを……まあいい、とりあえず床の模様って事で通ってみるか。」
「まだだよ、お兄ちゃん! 私が空から向こう側へ渡ってみるよ!」
そう言ってメィルもまた、止める暇もなく魔法陣の上を飛行で通る。踏まなかったせいか、やはり魔法陣は何の反応も示さない。
「結局、俺が自分で踏むしかないのか……。」
メィルとフォルムが俺の元へ戻ってきた。そして、俺が魔法陣に近づくと、さっきまで何も起きなった魔法陣が、踏むまでもなく起動した。そして、あっという間にそこから映像が流れる。
「私はアリア。この世界を統べる女神です。今、私はあなたに魔王と戦う力を2つ託しました。1つは、人間の限界を超えて成長できる力、さらにその成長速度を上げるスキルです。もう1つは、アリアが作成した神器です。神器は、命名する事によってあなた専用の武器となります。」
出てきた映像は、マリア様そっくりのアリアという女神らしい。……正確に言うと、俺にはマリアとアリアの見た目の違いが分からないくらいだ。しかし、失礼があってはならないから心の奥底へ封印しておこう。この映像、リアルタイムなのか魔法陣に近づいたら発動する録画なのか分からないな。
「えっと、神器にはフォルムという名を付けました。」
「そう。それは良い名を付けましたね。それでは、更なる成長を目指し、ダンジョンのクリアを目指すのです。」
それだけ言うと、映像は消えた。結局、録画でも話せる程度の内容だけだったので、正直意味があったのかどうかわからない。豪華な宝箱には1~3個の中身って書いてあったけど、アリア様の話では最初から2つだったみたいだから俺の運は関係なかったらしいな。それに、開けたら消える宝箱に、プラチナとかゴールドとか使う意味があるのだろうか? その辺の決まりごとについては気にしないでおこうか。とりあえず、魔法陣はもう光っていないので、扉を開けて次の階層へ向かう事にしよう。扉の向こうは、下へ向かう階段があった。
源零(分裂体):HP60、MP40、攻撃力18、防御力16、素早さ17、魔力14、装備:神器フォルム・攻撃力10、ただの服・防御力0、ラックの腕輪(極小)、スキル:鑑定、空間魔法(5)、スキルの吸収、棍棒術(5)、剣術(1)、火魔法(2)、指揮、集中力アップ(小)、反応速度アップ(小)、持ち物:低級HPポーション、低級MPポーション
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