七 亡霊と裏切り者

-明転する舞台。

-糸泉と本田が入って来る。


糸 泉「まさか、ザン・リーが一番にやられるなんてね。…意外だったよ」

本 田「くっそ!殺し屋共め。今度会ったら絶対にぶっ殺す!」

糸 泉「本田。この世に絶対なんてないんだよ。変に執着してると死ぬよ」

本 田「なんだと、泉?お前は悔しくないのか!」

糸 泉「あんたもプロでしょ。そういう気持ちは、仕事のケリを付けるまでしまった

   おきな!」

本 田「…わ、わかったよ」


――そこに田中が駆け込んでくる。着ている服が破れている。


田 中「はぁ、はぁ…」

本 田「田中さん?!おいどうしたんだその恰好!?」

田 中「どうしたもこうしたもないよ!君たちはちゃんと護ってくれているのかね!

   私はさっき、こ、殺されかけましたよ!」

糸 泉「おかしいねぇ。殺し屋横丁の連中は、ついさっきまであたしらが足止めして

   たんだ」

本 田「そうだ。あんたに会えるはずがない」

田 中「で、でも、私は実際襲われたんですよ!」

本 田「おかしいなぁ…。おい、そいつどんな奴だった?」

田 中「逃げるので精一杯だったんだ!覚えてる訳が…」

本 田「いいから思い出せよ!」

糸 泉「落ち着けよ。田中さん。悪いけど頑張って思い出してくれない?もしかした

   ら、あんたを狙ってる奴が他にもいるかもしれないし」

田 中「こ、殺し屋横丁とは、別の殺し屋がいるとでも?」

本 田「何でそうなるんだ泉?奴らの他にも殺し屋横丁の殺し屋はいるだろ」

糸 泉「いいや。奴らの古臭い流儀への拘りは筋金入りさ。隠し玉なんて手の込んだ

   事はしないよ。さっきの顔合わせにいたので全員さ」

本 田「大した自信だな」

糸 泉「なんにせよ。対策を考える為にも、あんたの情報が必要なんだよ。ほら、思

   い出しな」

田 中「そ、そうだな…。暗闇の中からいきなり襲われたんだ。姿は見えなかった

   が、何か鋭いモノで斬りつけられた。多分、刀だ」

糸 泉「刀?」

田 中「ああ。それと斬りつけてくる度に、何かブツブツと喋っていた気がするんだ

   が…」

本 田「薄気味悪いなぁ。あの佐々斬り小次郎といい、刀振り回す奴ってのはよ…」

田 中「それだ!」

本 田「は?」

糸 泉「どういうことだい?」

田 中「そいつも言ってたんだ。佐々斬り…、我は、佐々斬り小次郎って」

糸 泉「…」

本 田「…」

田 中「ど、どうしました?」

糸 泉「…そいつは、もっとおかしいねぇ」

田 中「へ?何でですか?」

本 田「さっきそいつは死んだんだよ。俺たちの目の前でな。殺人拳法の使い手であ

   るザン・リーさんが、急所を外すとは考えられねえ」

田 中「じゃあ…、さっき私を襲ったのは…?」

糸 泉「いるみたいだね。あたしたちの知らない、何かが…」

田 中「わ、私は隠れてますよ。安全になるまで仕事も休むことにしましたから。

   よ、よろしくお願いしますよ!」


-慌てて逃げていく舞台からハケる田中。


本 田「ったく。リーさんが退場しただけなく、依頼主も危険な目に合わしちまうと

   はなぁ」

糸 泉「あまり余裕こいてもられないわね。あたしもの支度も急ぐわ」


――そこに富岡が現れる。


富 岡「焦る必要もないぜ」

本 田「てめえ!!マッスル富岡!何でここに!?」

富 岡「待てよ!別にり合うためにきたんじゃないんだ。いい話を持ってき

   たんだよ」

本 田「話だと?」

富 岡「ああ。ここは護り屋デパートお前らの本拠地だぜ。俺を殺すのは話を

   聞いてからでもできんだろ」

糸 泉「大した自信だね。じゃあ、話は聞いておこうじゃないか」

本 田「とっとと話せ。その後殺してやる」

富 岡「それだとを殺すことになるぜ」

本 田「身内だと?」

富 岡「ああ。話は簡単だ。たった今から俺を、護り屋デパートに加わえてくれ。ど

   うだ?」

本 田「どうだって、どういうことなんだよ?」

富 岡「簡単な話だって言ったろ。殺し屋横丁は今、佐々斬り小次郎が殺されちまっ

   て、残るは俺と沖田掃除郎の二人だけだ。だが、あの老衰したじいさんは、俺

   のサポートがなけりゃ、碌な戦力にならねえ。だったら、俺が護り屋デパートお前ら

   の側にまわって、沖田掃除郎一人を殺しちまえば、話は早いってやつだ」

糸 泉「裏切りかい?」

本 田「おいおい泉。殺し屋横丁は、そこらへんの流儀に硬いんじゃなかったの

   か?」

糸 泉「おかしなことが続くねぇ。あんたも、見かけに寄らず馬鹿正直な奴じゃなか

   ったんだね」

富 岡「こんな見かけだが、俺はアスリートじゃねぇんだ。負けると分かってる試合

   に挑んだりはしねぇよ。で、どうする?俺を仲間にするか?それとも、今ここ

   で殺すか?」

本 田「どうする泉?ちなみに俺は、殺すに一票だ」

糸 泉「却下ね。加わってもらうわ」

本 田「ちぇっ、少しは俺の意見も聞いてくれよ」

糸 泉「いいや。ここは従ってもらうよ。それに、あの殺し屋横丁から裏切り者が出

   るってのも、なかなか痛快だしね」

富 岡「そういう訳だ。よろしくな」

本 田「くそ!」

糸 泉「なら早速、あのジジイにトドメを指すための準備に入ろうかしらね」

本 田「おい泉。準備って言ってもはあんのか?」

糸 泉「ええ。丁度いいのがからね」

富 岡「おい。何の話だよ?」

糸 泉「あんたには関係ないよ」

富 岡「そんな。俺は今から護り屋デパートの一員だぜ」

糸 泉「裏切り者の新入りが何言ってんのよ。図に乗るんじゃない」

本 田「そうだ!俺も絶対信用なんかしねえからな」

糸 泉「ここの出入りは許すけど、監視はつくからね。それじゃ」


-その場から出ていく舞台からハケる糸泉。


富 岡「お、おい!」

本 田「ははは!信用ゼロだな。それじゃあ新入り。またな」


-続いて出ていく舞台からハケる本田。


富 岡「…まぁ、そう調子よくいかねえよな」


-暗転する舞台。

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